何で俺が倉の整理なんて。
カゲルは不貞腐れていた。勉強をせず友達とばかり遊んでいたカゲルを見かね、彼の祖父はカゲルに倉の掃除を命じた。カゲルは子供らしくわがままな性格ではあったが、それでいておじいちゃんを大切にするかわいらしい部分もあった。
命じられたカゲルは、祖父の言うことには逆らえず、しかし決して好意的とは言えない態度で、仕方なく、しぶしぶ倉へ入った。
ぎいと扉を開けると、カゲルの目に埃が飛び込んできた。彼は両手でぐしぐしと目をこすると、そばにあった照明のスイッチを押した。
立派な倉だった。掃除されていないため、埃っぽく、また雑然としていたが、そこには、古めかしい書物やら装飾品やら家具やらが置いてあった。ただし、古いは古いがそれがいかほどの価値なのか、カゲルも、またカゲルの家族も一人として知らなかったし、把握する気もなかった。
とにかく、おじいちゃんの言うことは聞かなくちゃいけない。
カゲルは倉の中へ踏み出して、立てかけてあったほうきを手にとった。が、少し埃やら砂やらを外へ払うと、だんだん面倒になってきたのか、ほうきをまた元の壁に立てかけて、掃除を放棄した。
とはいえ、このまま帰っては掃除をさぼったのが丸わかりで、すぐさま叱られてしまう。そう考えたカゲルは、しばらくこの倉の中で暇をつぶすことにした。
価値があるのかないのか分からない書物やら家具やら壺。カゲルは、その雑多とした物の中で、ある一つに注目した。
それは碁盤であった。
もっとも、当時のカゲルは囲碁の知識などまるでなかったから、それが囲碁の対局に使う盤だとは分からなかったが。しかし、その不思議な魅力に引かれ、カゲルは思わず手で触れたのだ。
その瞬間だった。
目の前で神々しい光が炸裂した。
カゲルは思わず尻もちをついた。なんだなんだ花火?不発弾?戸惑っていると、しばらくして光はすっと消え、倉の中は再び照明の燈のみとなった。
なんだったんだ、今のは…
呆然として…しかし何も起こらなかったことに些かほっとしたカゲルは、倉の中央に―光が炸裂したその場所に、一人たたずむ男を発見した。
それは和服の男だった。
先程まで、確かにそこには誰もいなかったはずなのに、カゲルが碁盤に触れた途端、その男が暗闇の中に出現したのだ。
扇子を持ち、暗闇の中でたたずむ息を呑むほど綺麗な男に、思わずカゲルは見とれた。しかし、しばらくして我に返ると。
「ゆ、ゆうれいだー!」
と絶叫し、カゲルは倉から逃げ出した。カゲルの逃走は仕方がなかった。和服の男は、真実、幽霊だったのだから。