蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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バカ二人、或いは転生者会議

少し上でお茶しててくれ、とアナにアステールを連れていって貰い、ついでにアナの腕の中にアイリスを掴ませて、二人きりになる

 

 いや、二人きりじゃないな、と静かなカラスに目配せをすると、すーっとおれの影に入るように消えていった

 いや待て?初耳というか初見なんだが?何で影の中に消えられるのお前

 まあ、だとしてもそこまで誰かに広めるようなカラスではないだろう。ないと信じたい

 おれはもう諦めて、エッケハルトにまあ座ってくれ、と促しつつ自分もベッドの端から足を下ろして向かい合う

 

 「まずひとつ聞いて良いか、ゼノ」

 「ああ、答えられることなら何でも聞いてくれよ」

 「あの時のお前は……真性異言の力を使ってたのか?

 ほら、アガートラーム?ってあいつみたいに」

 「……分からない」

 「いや、分からないって何だよゼノ。お前自分でやったんじゃないのか?」

 「いや、寧ろ聞かせてくれエッケハルト

 お前には、誰かが力をくれたんだな?」

 そのおれの言葉に、焔色の髪の少年は、そうそうとうなずきを返した

 「何者なのかってのは分からなかったけど、君は君のやっていたゲームの世界に転生する。だから君にひとつだけ祝福をあげよう、って声がして」

 「おれが他に出会ったのは……リリーナ・アグノエル、ユーゴ・シュヴァリエ、後は謎の少年」

 「いや待て聞いてないぞ謎の少年って」

 「いや、聖夜の話だからあんまり話すタイミングがなくてな」

 「あー、じゃあしょうがないな。で、どうしたんだよゼノ」

 「謎の少年が、刹月花を使ってアルヴィナを殺しに来た」

 「魔神族か!?」

 目を見開く少年に、やっぱそうなるよな、とおれは同意した

 「向こうの言葉によると、アルヴィナの方が魔神族、しかもテネーブルの妹アルヴィナ・ブランシュだってさ

 そういや、おれはゲーム内であの子の名前が出てた部分記憶にないけど、お前知ってるか?」

 「いや、俺も知ってる限りでは魔神王の妹の名前ってどの作品にも出てなかったと思う」

 「なら、判別がつかないな

 大半の魔神族はまだ封印されてるけど、一部解放された奴はもう居る……ん、だったよな?」

 その言葉に、エッケハルトはそうそう、と返して思い出そうとするようにくるくると右手の指を回す

 

 「そうだ!ライオ!竪神頼勇(たてがみらいお)だよ!」

 ピン、と指を立てて叫ぶエッケハルト

 「それだ!頼勇の父親が殺されたのは……出会ったときの12年前。第二部が卒業後割とすぐだから出会うのはリリーナ18~19歳の時で、逆算すると……幅をとってもリリーナが6~8歳の頃、か

 今はもう、起きてても可笑しくないな」

 「ライオの父を殺したのは……」

 「「魔神王四天王、エルクルル・ナラシンハ」」

 二人の声が重なった

 「有り得るな」

 「それに、」

 と、おれは更に付け加える

 「『暴風の四天王』ステージでのカラドリウスとゼノ(おれ)、一度戦ってるっぽい感じの会話してたはずなんだよ

 それに、あのステージの四天王カラドリウスは追い込まれて第二形態になるまで、おれ>ティア>その他の優先型AI。ほぼ初対面だろうタイミングでもそれだから……」

 「なあゼノ?」

 「何だよエッケハルト」

 少しだけ鬱陶しいなと思いつつ、それを顔に出さずにおれは聞く

 「何でお前、AIの優先度とか覚えてんの?」

 「ん?最短ターンアタックとかRTAとかノーリセノーデスしてたら覚えない?」

 「そもそもそこら辺やんないだろ普通!?」

 はは、そうかも、とおれは笑う

 

 いや、普通に覚えたんだけどなぁ……プレイ2年目くらいで。皆は他にもゲーム買って貰えるから、他のゲームに行ったんだろうか

 でもおれ、近所のお姉ちゃんから貰ったあのゲームと、たまにお姉ちゃんの家でやらせて貰うあれの完全版しかゲーム持ってなかったし、外でボール遊びとかしてた日には変なところに蹴られたり他人の家に蹴り込まれたりスパイクに画鋲仕込んでて破裂させられたりとロクな事がないからって家で遊んでばかりだったしな

 誰も居なくなり、一人だけ生き残って気持ち悪いわと引き取ってくれた叔父も物置にする以外近寄らない小さな平屋だったけど、それ故に屋根の太陽光発電でゲームの電源には困らなかったんだよな

 

 というか、とふと思う

 おれ、こんなに前世……的な事覚えてたっけ?

 あれか?脳が成長してきて情報に耐えられるようにとかだろうか

 

 まあ、そこらは良いか。多分どれだけ掘っても、この先有用な情報は出てこない。おれ、外伝作品とか金が無くて全く触れてないからな!そこは間違いない。だからどれだけ掘っても、轟火の剣の細かいあれこれまでしか出る筈がない

 

 良し、忘れよう!

 「まあそれはおれのプレイスタイルだったから置いとくとして

 つまり、ほぼ初対面でしかないはずのおれと、あのカラドリウスが因縁があるということは、あいつと戦ったことある筈なんだ

 語られてない幼少期に」

 と、そこでそうだ、とおれは手を打つ

 「エッケハルト、お前雷鳴竜と氷の剣って小説版でおれ出てくるって言ってたよな

 カラドリウスについて何か書いてなかったか?おれの推測が正しければ、原作のおれの頬に爪痕を残したのって多分……」

 「いや、一応幼少期にちょっと出てきたりするんだけどさ」

 おい、目が泳いでるぞエッケハルト

 「すまん嘘付いた。雷鳴竜、つまり天狼事件辺りで当然ガッツリ出てくるんだけど」

 「そりゃそうだな」

 天狼事件で産まれた幼い天狼、それがラインハルト。そして、そのラインハルトの育ての親がもう一人の聖女……のはずだ。ラインハルトルートでは主人公をおかーさんと呼ぶイベントとかあったはずだし

 そしておれの神器、最も新しい神器、月花迅雷は……その天狼事件の母狼の角をコアとした刀である

 いや、詳しい過程とか知らないが、これおれヤバくないか?間違いなく天狼事件に絡んでいて、ラインハルトの母の力の源とも言える角をそれ以来持っていて、そして母狼は原作では全く出てこない……

 これ、おれが殺して角を奪ったとかいうオチじゃないよな?ならもう一人の聖女がおれに惚れるはず無いよな?

 

 「で?」

 「そこまでだとカラドリウスはさすがに影も形もない

 あと、お前がやらかす」

 「……ああ、やっぱり?」

 異やな予感してたんだよな。原作のおれが天狼の角持ってったとかそんな感じな……

 「というか、本気でおれがやらかすのか?」

 「ああ、思いっきり角へし折る」

 「この世界ではそうならないように気を付けるわ」

 危ない危ない、エッケハルトが外伝作品読んでてくれて助かった

 って、その割にはラインハルトとおれって絆支援があったはずなんだが……あれ?何で?

 「角をへし折るのか」

 「争いを止める力をってな」

 「力を求めすぎて闇落ちでも仕掛けてるのかよその時代のおれ」

 いや、多分父の言葉の真意を理解するのも遅いし、結構すさんでたんだろうから分からなくはないけどさ

 そして、それを反省して、月花迅雷はおれが持ってて良いのかとか悩み出してたのが原作時期か?

 謎ばっかだな

 

 「てことは、原作ゼノの頬の爪痕は天狼事件の時に?」

 「いや、一応挿し絵あったけど付いてなかった」

 「てことは、カラドリウス説は否定できない、か……」

 「って、何話してるんだ俺達」

 「アルヴィナが魔神王の妹というのが正しいのか、それを言った側が魔神族側なのかの検証……だろうか」

 「兎に角!可愛いからアルヴィナちゃん無罪!」

 「いや、おれもアルヴィナが敵だとは欠片も思ってないけどな」

 可愛い無罪だと、ガチめに殺し合う四天王二人も無罪に……ってか、逆襲の四天王ルートで出てくる方も無罪にならないか、それ

 「いや、可愛いは無罪だけど、皆を傷付けるなら別だ」 

 やけにキリッとした顔で、焔髪の少年はそう言った

 

 「まあ、おれも……こんな風に本来の世界から色々ズレた今、和解とか出来ればとは思うんだが」

 因みにだが、原作の四天王は女性二人のうちゴリラの方は人類滅殺派の魔神王に恋し殉じているので一切の説得が通じず、人魚の方は人を誘惑して破滅させて遊びたいから滅ぼさずに飼われてくれてもと、やはり話が通じない

 男の方は……カラドリウスはまだ行けそうだが、ナラシンハは無理だな。奴は人殺しを楽しみすぎている

 復讐に来た奴を殺す!という楽しみの為に頼勇を見逃し、結果的に復讐のためにエンジンブレードを改良し続けた頼勇に討たれるって形でシナリオ的な敗因になるんだが……

 「ニーラはテネーブルが此方側に付いてくれるって奇跡でもなければ本気で何一つ聞いてくれないだろ多分」

 「俺、四天王だとニーラちゃんが一番好きなんだけどなー」

 「幼い子の方が好きかよ」

 「いや、外見アナちゃんに似てるじゃん?」

 「まあ銀に近い淡い青の髪してるけど、それだけかよ!?」

 「外見は重要だろ!」

 「でも外見ゴリラになるぞ」

 「うぐっ!」

 痛いところを突かれたのか、胸ではなく額を抑えるエッケハルト

 いや、ゴリラ形態忘れてたのかお前

 「まあ、本人ゴリラモード嫌ってるし?大丈夫だって

 ゼノは誰が仲間に来てほしい?」

 「おれもニーラかな」

 「ん、意外だな」

 「そうか?おれ、魔神王の為に!って四天王唯一HP0になってなくても味方半壊した段階で変身するのとか、あの辺りのイベント好きだけど?」

 「真面目か」

 「外見だけのお前が可笑しいんだよエッケハルト

 まあ、理想論では魔神王。現実的には……魔神王の妹、来てくれると助かるんだけどな」

 戦いが平穏に終わるからな

 

 「でさ、何で俺達またこんな仲間になってほしい魔神族談義してんの?」

 「お前がアルヴィナが魔神でも可愛い無罪したから

 とりあえずだ、話を戻すと……」

 あれ、何の話だっけと一瞬迷い

 

 「おれが見た二人は、不思議な神器を使ってきた

 きっとそれは、真性異言(ゼノグラシア)としての力だろう」

 「そうだろうな」

 「だけど、多分なんだけどおれの時は違う」

 「え、お前が転生特典でデュランダル持ち込んでたとかそんなオチかと」

 「いや、そもそもな?

 おれがデュランダル持ってたら手の皮膚がどろどろに溶けてプラモの武器腕になりましたとかやってねぇよ!?」

 「……あっ」

 エッケハルトは、こつんと自分の頭を叩いた

 

 「ってことは、バグか!?」

 「多分バグだよ!?その話をしに来たんじゃないのか」


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