蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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ガイスト、或いは攻略対象

「ゼルフィードか……確かあれはガイストの機神だよな」

 言いつつ、おれは思い出す

 ガイスト。正確には、ガイスト・ガルゲニア。ガルゲニア公爵の息子だ

 

 「ガルゲニア公爵の息子だっけか」

 「ああ、そうだな」

 「他の攻略対象って割と会えやすいんだけどさ、ガルゲニアは無理だったんで良くわかんないわ」

 「だろうな」

 エッケハルトの言葉に頷く

 というか、おれがこの塔で半ば遊んでいる……は言い過ぎにしても、そこまで進んでいない間に、彼はせっせと他の攻略対象を見ていてくれたらしい

 

 「おれが見る限り、皇族に転生者は居ないな」

 「お前みたいに分かりにくい感じじゃなくてか?」

 「おれ、そんなに分かりにくいか?」

 「いやマジで。最初に会った時、さてはこいつ転生とか無い普通のゼノだな?って思ったくらい」

 いやー、それとこんな風に話すとは、とオレンジ髪の少年は、おれの枕元のテーブルに置かれた果物を取り、皮を剥かずに口に含んだ

 「普通のゼノって何なんだ」

 「いや此方の話」

 「……お前、星紋症を使っただろ」

 静かな威圧

 おれは可能な限りおどろおどろしく、少年にそう声を掛けてみる

 「いや、あれは……」

 少しだけ遠い目をしてから、少年はそのオレンジの瞳をおれに向けた

 「あれは違う。星紋症を使ったのは俺じゃないただ、原作……ああ、小説版な

 あそこでお前が出張ってきてやらかすんだ」

 「……本当か」

 「マジだって

 星紋症は治せたよ。でも、護れもしないのに安請け合いしてさ、すぐにあの孤児院は潰されて……アナちゃん達は不幸になる

 そんな話が、小説版にはあるんだよ」

 「そう、か……」

 その言葉を、おれは重く受け止める

 確かにそうだ。あの孤児院に手を出して、今のおれと小説のゼノは何も変わらない

 変わるとすれば、まだ孤児院は存続しているということだけだ。それも、おれが居なくなれば瓦解する

 例えばユーゴの時。あの時、アステールに助けられていなければ、おれはあのまま死に、孤児院は潰れていただろう

 

 「いや、それとお前がってのは繋がらなくないか、エッケハルト」

 「それが繋がるんだよ。小説では、孤児院はアイリス派を安請け合いしたからって、アイリス派の悪評のために他の皇族に潰されるんだ」

 「……そういうことか」

 実際にありそうな話だ。シルヴェール兄さんは裏で手を回すとはいえ、ここまで露骨な悪評は立てないだろう

 いや、部下は面白おかしくおれについてバカにしていたらしいが、あれはあれで、アステールを助ける方向に働いていた

 そこら辺まで考えて動くのがあの伊達眼鏡のイケメン教師な兄。潰すなんて直接的なのは第一皇子か第三皇子だろう

 いや、アイリスの覚醒の儀に直接関わって目の敵にする感じと思えば、多分第三皇子だな、下手人は

 

 「多分あの兄さんだな、ってのは分かった

 分かったからって意味はないけど」

 「そう、そして小説のゼノは守れなかったからって、力なき正義に意味はないとして……」

 「天狼事件で天狼の角を折るのか」

 「ああ、力なき正義を終わらせ、力が欲しいと」

 「それが、月花迅雷……」

 これ、本当におれが月花迅雷なんて持ってて良いのか?

 原作では深くは語られなかったから使ってたけど、そんな闇が深い代物だったとは

 

 「ってまあ、今のお前なら大丈夫だろ、流石に」

 「どうだろうな」

 曖昧におれはごまかす

 実際にその時、おれが力に抗えるか、それは分からないから

 あの時、ユーゴに立ち向かう力を、と。おれは本来使えるはずもない轟火の剣へと手を伸ばした

 あれはアステールの為だと叫んだ。けれども、心の奥底では……生きるための力が欲しかったんじゃないか?

 力に溺れない保障なんて、何一つ無い。そこまで、おれはおれを信じられない

 

 「って、それは良いんだよエッケハルト

 重要なのは、ガイストだ」

 「そ、そうだな」

 向こうとしても言いにくい話だったのだろう。ほいほいと少年は話題転換に乗ってくる

 

 「ガイスト……って、あの暗いのだよな」

 「ああ。兄に父と母を殺された、元公爵令息」

 「その過去のトラウマから、聖女と二人で立ち直り前を向くってのがシナリオ……で合ってるよな?」

 「合ってる合ってる。人間不信な攻略対象。公爵だから俺じゃ会えなくてさ……」

 「て、おれでも会えないぞエッケハルト。皇族でも強権とか使えば文句出るし」

 「それもそうか、そういや、我らが麗しのリリーナ嬢は?」

 ここ一年以上、あまり塔の外には出てない友人が呟く

 その少ない時間、同性の攻略対象の調査をしてくれてたっぽいからな、まあ、あのピンク髪とは会わなかったのだろう

 「残念ながらあれ以来音沙汰がないぞエッケハルト

 多分だけど、おれはちょろいから後回しで良いやされてるな」

 原作的に、もう一人の聖女に勝手に惚れてるレベルなので、ちょろいのは否定しない。シナリオもおれは君に相応しくない、って台詞が出てくるようなシナリオだしな

 

 「で、他の皆は?」

 「さあな?フォースは多分見つけてない、皇族で気軽に押し掛けられるのはおれだけなので、他の皇子とも多分会えてない、って所だろうな」

 「転生者……だよな、あいつも」

 「だろうな。ただ、現状ユーゴに比べて平和な奴だ」

 語りながらおれは

 「ってか、お前だけ食べるなよ」

 と、再びリンゴのような果実を齧る友人へ抗議しようとして……

 

 「はいどうぞ、おーじさま」

 「おわっ!」

 何時しか横でニコニコと果物(因みにぱっと見柑橘類)をウサミミ型に皮を剥いて切り、笑顔でおれへと差し出す狐耳の少女の姿に気がついて背を仰け反らした

 

 「あ、アステールちゃん!?」

 「うん、ステラだよー?はい、おーじさま、あーん」

 「いや待て、何で居るんだ!?というか、何処まで聞いてた?」

 完全に転生者丸出しで話していた訳だが

 「?ステラはおーじさまの事なら基本全部知ってるよ?」

 「いやそうじゃなくて」

 「おーじさま、ステラはおーじさまの事、何て呼べば良い?

 おーじさま?ゼノさま?それとも、三千矢さま?」

 「ちょっと待ってくれ、その最後のミチヤ様って何なんだ」

 「おーじさまは、ゼノさまで、ステラのおーじさまで、ニホン?人のミチヤシドーって名前なんだよね?」

 「いや初耳なんだが」

 おれ、というか今のおれになっている日本人の名前、獅童三千矢(みちや)って言うのか。初めて知った

 

 「いや待て、何でそんなこと知ってるんだ」

 「全部、竜姫様と道化様が話してくれたよ?」

 「七大天ッ!」

 うんまあ、そりゃ話せるわな。おれを第七皇子ゼノに転生させた張本人だ、情報くらいある

 というか何やってるんだ七大天……

 特に竜姫。いや、原作でも眷属である竜人娘がゼノの事を兄さんと慕ってたし、何か縁はあるんだろうが……

 というか、おにーたんとも呼んでたシナリオがあったな。ティアと……アルヴィスの絆支援Bだったか。ゼノが生きてると兄さんで、死んでるとおにーたんになるんだっけ

 

 「ってそうじゃなくて」

 「?」

 首を傾げる狐娘に、おれは疑問を投げ掛けた

 「いやおれ、真性異言(ゼノグラシア)な訳だがそれは良いのか」

 「ステラを助けてくれたおーじさまと、真性異言は別に、喧嘩する要素じゃないよ?」

 「そういう、ものなのか?」

 割り切れるものなんだろうか、それ

 「それにね、竜姫様は何にも信じられない頃のステラに、直ぐに助けてくれるおーじさまが居るって励ましてくれたよ?」

 「……いやだから、何やってるんだ七大天!?」

 「おーじさまが真性異言で未来を知ってるように、ステラも七大天様から未来を教えて貰ってたのー

 これって、いっしょだよねー?」

 「あ、ああ」

 何か可笑しい気がするが、押しきられておれは頷いた

 

 そんなおれの口に、無駄にウサギに剥かれた柑橘類が放り込まれた




補足
読者の皆様はご存じだとは思いますが、今回のエッケハルトの言葉は嘘混じりです
こいつ、アナとゼノの関係性を誤魔化すためにアホ言ってんなくらいの認識をお願いします
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