蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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ガイスト、或いは考察

「……ふぅ」

 「あ、皇子さま、お茶どうぞ」 

 「飲んできたんだけどな」

 「んなこと言うなら貰うぞ」

 おれの前に置かれたカップをひょいと取る少年に、飲むなら飲みきれよと呟いて

 

 おれは、戻ってきた寮の部屋で一息吐く

 結局、何も起こらなかったな、あの後

 必要かと思って傘を持っていったものの使う場面はなく。友達になりに来たとは言ったが、あまりガツガツ話しすぎても逃げられるので、あの後はアステールから貰っていたお土産(鳥のような意匠のガントレット……と言って良いのか微妙なものと、赤いAとスペードのスートが合体したような二色のクリアパーツエンブレム)を渡し、二人でアステールによる小説話を聞くだけ聞いて別れた

 お陰で収穫は……2週間後、子供達の為に劇やらされることになったんだが、来てくれよって言っておいたくらい

 来てくれるかは分からない。あのガントレットを素直に受け取っていた辺り、興味はあると思うんだけど

 

 ちなみにガントレットだが、アステールが聖教国で作らせた小道具だ。小説では、連れている鳥が右手に止まると手の甲から二の腕の1/5辺りまでを覆うガントレットに変化し、其所にエンブレムを嵌めて右手を天へと甲を前に出しつつ突き上げて変身する。その再現用だな

 つまり、言ってしまえば変身手甲DXマジンガントレットである

 おれもアステールから貰っているが、ちゃんと音が鳴る。天/風属性魔法を込めた石が中に入っていて、持ち主の魔力を吸って起動し、エンブレムを嵌めることで歯抜けにされていた呪文が完成して電源が入り、嘴を閉じることで魔術が発動して録音した音声と指定した発光が発生する感じ

 ……つまり、おれが変身遊びしてもうんともすんとも言わない。電池は切れないが亜人獣人忌み子には使えない悲しみのDXアイテムだ

 

 「あの、皇子さま」

 眺めていると不意に声を掛けられる

 「わたしとしては……なんですけど、良いんですか?」

 「良い、とは?」

 「あの、アステールちゃんと別れてきて」

 ああ、そんなことかとおれは問題ないよと手を振った

 

 「……シロノワール」

 返事はない

 さらっとおれの影の中(影の中に空間なんてないよ。メルヘンじゃあるまいし……と言いたいが、影属性魔法に存在する。何たってこの世界ファンタジーだからな)に住み着いたあの八咫烏は、おれが呼べば基本的に出てくる

 鬱陶しげだったり、のんびりだったり色々だが、居るならば無視することは無い

 それが反応しないのは、いないということ

 「ってことで、シロノワールが見てくれてる」

 「シロノワールさん?」

 「なあゼノ、そいつ本当に信頼できるのか?」

 口ごもる少年に、どうしてだ?とおれは返した

 

 「いや、八咫烏ってのに嫌な思い出が……」

 「おれにも割と嫌な思い出はあるけど、それでも信じてるよ」

 敵ならおれは死んでるからな、と笑って見せて

 「なら良いけどさ」

 「……あ、すみません皇子さま。そろそろ冷やしていたデザートの時間なので、ちょっと失礼しますね」

 言って、少女は席を立つ

 本当にデザートというよりは、恐らくは二人で話しやすいようにしてくれたのだろう

 おれは有り難うとその背に声をかけ……エッケハルトへと向き直った

 

 「で、どうだったゼノ」

 「お前は?」

 「なんにも」

 と、肩を竦めて見せるオレンジ髪の少年

 「おれも、収穫があったって訳じゃないな

 ガイストと話は出来たとはいえ、あいつは原作と同じだった」

 「原作と……同じ?」

 首を傾げる少年に、おれは頷く

 「タナトスが呼んでるって」

 「……ゼノ!」

 身を乗り出してくる少年に少しだけ身を反らして引きながら、おれは逆に疑問を返した

 

 「いきなりどうしたんだエッケハルト

 あいつが厨二なのは原作からそうだろ?」

 「いや、可笑しいぞゼノ。馬鹿になってんな皇子」

 「いや、何だよ藪から棒に」

 「なあゼノ。お前もちゃんとガイストルートのシナリオ知ってるよな?」

 「当然だろ」

 と、おれは首肯する

 だから、原作そのままだなと言っているんだが……

 「ガイストルートへのフラグは?」

 「ガイストとの絆支援がA、」

 「ってそうじゃなくて、ルートに入る際に一個イベント起きるだろ?

 そのイベントってどんなの?」

 少しだけ天井に目を向け、おれは思い出そうとしてみる

 「4年前の事件について話してくれるイベントだな」

 「それだよ、ゼノ

 2年の時に、4年前の事件について話してくれるんだ

 家族全員が、兄によって殺された日の事を」

 静かにおれは頷く

 「その事件で一人生き残ったから、彼は自分を死神と呼んで距離を取ってる

 その距離感が崩れていくのが、あのイベント」

 ……あっ

 と、おれは手を叩く

 

 「そうか!そもそも、まだ兄が凶行を起こしていないこのタイミングで、既に自分を死神としているのは変なのか」

 「そうだぞゼノ。ってか、気付いてなかったのか」

 呆れたような眼を向けてくるエッケハルト

 はは……と誤魔化すように笑いながら、おれは肩をすくめた

 「おれ、ニーラのイベント好きだからニーラが空気なあのルートあんまりやってなくてさ」

 苦笑して、眼を瞑る

 「って、関係ないな。気が付けた筈の事に気が付けなかったのは、悪いことだ」

 

 一息吐いて、結局少女が二つ置いていってくれた茶の片割れを一気に煽る

 「……何らかの、理由がある訳だな」

 「まず考えられるのは……彼自身が転生者って感じかな」

 「原作の性格エミュしてるからって事か?」

 少しだけ考えてみる

 エッケハルトも、おれも、そしてリリーナも。原作においてメインどころのキャラに転生した真性異言(ゼノグラシア)の性格は、どれも原作とは違う

 一部の人はおれはほぼ原作ゼノそのままと言うが、おれは原作の彼ほど凄くない

 その上で、他の転生者にバレないように原作っぽく振る舞ったが、おれと同じく今のガイストはまだ厨二でないことを失念していた

 

 あり得る話だろう

 だが、そうとは限らない。一つの推測で凝り固まっていては足元を掬われる

 「あり得るが、他には……」

 少し悩んで、一つの仮説を立てる

 「別人が転生者」

 「ん?どういうことだゼノ?」

 「例えばだエッケハルト。彼の兄が真性異言で、AGX-ANC14Bを持っていたとしよう」

 「……考えたくもないな」

 「だな」

 二人して顔を付き合わせ笑う

 「ま、仮にだよ。ゼルフィードを越える異次元性能のアレを見せ付けられていたら?」

 「勝てるわけ無いって思うわな普通」

 「だから、まだ凶行が起きる前から凶行を予期しているのかもしれない」

 そのおれの言葉に、オレンジの少年はいや、そうかなと首を傾げた

 

 「たしかにそうかもしれないけど、死神ってなるかなー」

 「おれも可能性低いかなーとは思ってる」

 言いつつ、そのまま続ける

 「そして第三の可能性」

 そしておれは、おれの分のガントレットを空に……というか天井に翳した

 

 「原作では嵌まらなかった……というか、存在しなかったろう小説に嵌まって、単純に厨二に目覚めた説」

 うんともすんとも言わないガントレットを翳して、言ってみる

 「……身も蓋もないっ!」

 「スカーレットゼノンは魔神の力を借りたヒーロー。だからその影響でタナトスがーとか言い出した

 有り得なくもないと思う」

 「それなら、平和で良いんだけどなー」

 「だな」

 

 一息吐いて、おれも席を立つ

 「って何処行くんだゼノ」

 「練習だよ。2週間後には、おれが主役でこいつの劇だろ?

 ガイストもその劇を見に来るんだ。その時に……色々と聞くさ」

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