蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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孤児院、或いはローランド

「……本当に良いのか?」

 「おいおい、この国の皇子さまの言葉をそんなに疑わないでくれ」

 再三確認してくる少年に対しておれは笑う

  

 「最近まで片腕食われた元冒険者のおっさんが泊まってたんだけど、新しい就職先が見つかったってんで出てってさ

 そんな感じで、家の孤児院は割と自由なの」

 因にだが、あの片腕喪って働けなくなったおっさんは2人前くらい食った。流石にロリコン?ではなかったのか、それとも何かあったらぶっ殺すと脅していた事が功を奏したのか本当に子供達に何かする事は無く、半月ほど(3週間24日)くらいしておれが斡旋した土木工事の監督役という仕事を得て出ていった

 え?監督が素人に務まるのか?あのおっさん、片腕無くしたとはいえ魔法については鋭いからな。魔法の使用を監督する役なら出来るのだ。やりすぎるから使っちゃいけない所とかの判断は正確……のはずだ

 本当はもっと大きな事をしなきゃいけないんだが、おれにはこうして目先の人間を助けることしか出来ない

 それも、他人に頼る形でな。本来、ここはおれが分かったと工事を発注して雇用を産み出す、くらいの事はやれなきゃいけないだろう。何たって皇子だからな

 だが、それが出来ずにおれは……。妹に頭下げて、妹の名前で国営の宿泊施設の改築という工事を産み出したという訳だ。割と老朽化していたのであっさり申請は通ったというか、誰かが言い出すの待ってたっぽいが……

 おれの名前じゃ忌み子なので通らない。第一おれにそんな予算はない。だから皇位第四継承者(因にだが、8年後には第二になる)の妹に、妹に渡されている予算でやって貰ったのだ

 いや?アイリス派として、妹は国民のためにこれだけの事をやった……って実績を作りたかったってのもあるんだが、利己的な意味もある。全く、情けない

 

 「おっさん……良いのか、それ」

 「一度だけ、師匠と共に修行で天空山の麓まで行ったときに出会ったんだ

 悪い人じゃなかったよ」

 あの時は、師匠にとりあえず食えるものを狩れ、と言われて探している時、珍味狩ってこいと言われた彼に会ったんだっけか

 子供とバカにされながらも、おれには使えない拘束魔法を使ってもらって動きを止めたところをおれが隙間を切り裂くって形で大亀の魔物(って言っても防御は60ちょいしか無いしHPも120程度、ちゃんと反撃を受けずに魔法を撃てれば彼一人で勝てたろう)を倒し……彼におれはこいつじゃなくて良いからってカッコつけた結果、後は毒ありだの食えたものじゃない味だので結局何も取れずに師匠にアホかと言われたな

 

 閑話休題

 「だから、気にしないでくれ竪神

 単純に、国民が困ってたら助ける、それが皇子の仕事ってだけだ」

 「でも、ステラは特別だよねー

 ステラは国民じゃないしー」

 「いや、それはそうなんだけど」

 「それなら、私も助けて貰えないな」

 「そうなってしまうから、あまり気にしないでくれ

 おれが勝手に言ってる理想論だ」

 「自分で言ってしまうのかそれを」

 「良いだろ?現実的には全部は無理でも、言えるところくらい理想論を言わせてくれよ」

 

 「と、此処が家の孤児院だ」

 と、見上げるのはローランド孤児院と書かれた割と新しい看板の立ったこじんまりとした建物

 ローランド。帝祖ゲルハルト・ローランドの名を冠し、帝祖に連なるものの縁があると示す名。皇族以外がその名前を騙ると罪になる、偉大なる名前だ。ぶっちゃけると、詐称するとローランドの名を書いた時点で火が出ると神の名にも近い力を持つ

 最近のおれがあまり顔を出せないから、一応これでも皇子の息が懸かってるぞという主張として最近おれが立てた

 なので、元々の孤児院名は全く違う……ってその辺りは良いか

 

 「あ!お帰りなさい、皇子さま」

 なんて、厚手のモコモコした猫耳フードの付いた寝間着(ちなみに元々はアイリスが発注したものを貰ったらしい)を着こんだ銀髪の少女が、扉を開いておれに向けて頭を下げる

 「アナ、起きてたのか」

 「えへへ、あんまり寝付けなくて」

 そう、少女ははにかむ

 因にだが、アナが此処に居るのは明日孤児の皆を引率するためだな。初等部から向かったら遠いし、皆を起こして支度させてってのは時間がかかるからな

 「……しっかり寝てくれよ

 これから成長するのに体壊すぞ」

 ……おれ?おれは仮にも皇子だし、数%魔神だからな。2徹くらいで壊れる体してないというか……

 「でも、明日だって思うと眼が冴えちゃって……」

 と、少女は見慣れない人影に気が付き、不思議そうにその少年を見る

 「皇子さま、彼は?」

 「倭克の竪神頼勇。左手のは父の竪神貞蔵さん

 とある理由で旅してるらしい。金が厳しいらしいから、泊まってくか?って」

 「あ、そうなんですね

 わたしはアナスタシア、この孤児院の子で、ちょっと出稼ぎに出てることが多いです

 あんまり会うことはないかもしれないけど宜しくです、ライオさんとテグラ……」

 そして、少女は眼をぱちくりさせた

 「あれ?石がお父さんなんです?」

 「そうらしいな」

 正確には、頭を開かれて死んだ父の魂とデータをこの世に繋ぎ止めているのが左手に埋め込まれたレリックハートって白石だ。半ば食われた脳味噌と魂が素材らしく、頼勇と繋がってるから離すと二人とも死ぬ

 「え?どういうことなんですか?」

 「さあな?その事について、後で聞くか……って思ってた

 とりあえず、死霊術の類いじゃないか?」

 「……多分、違う」

 冷静に少年を見て分析するのはアルヴィナ

 死霊術、つまり死者を使う術は影魔法と天魔法に属する。名前からして天魔法と死霊術は相反するようにも見えるが、死者の魂を呼び出すってのは案外イメージ的にも神の所業だし可笑しくないのかもしれない

 そしてアルヴィナは天/影だからな。適性はこの中ではトップだ。似た匂いがするかどうかで判別できるのだろう

 おれにはどうにも分からない感覚だ

 

 「ま、そこら辺は良いや」

 「良いんですか」

 「良いのか本当に」

 「良いんだよ、お前は悪い奴じゃなさそうだし

 アナ、ジュースあったろ、ちょっと出してやってくれ」

 そんな言葉に、申し訳なさそうに少女は頭を下げた

 淡い銀髪に寝る時には何時も枕元に置かれている桜色の髪留めが揺れる

 

 「それが……みんな、全部飲んじゃって……」

 「明日の分も含めてだから半分残しとけって言ったろ全く……」

 軽く左手で髪を掻き、残りの金を試算する

 ……まあ、足りるか

 「まあ、仕方ないよな」

 「ごめんなさい、皇子さま」

 自分はジュースを全部開けたりしてないだろうに申し訳なさそうに呟く少女の頭を軽く撫でて落ち着かせる

 

 考えてみたら、おれも……日本人のおれも、普段は遠足のおやつなんて買えなくて……。ある確か小学4年の遠足前日、ゲームしながら食べようと思ったけど数多くてと近所の高校生のお姉さんに5つ綴りのポテトチップス小袋から3つを貰い、明日の遠足に……取られる分と合わせて2つは取っておこうと思いつつ、つい一袋だけ……どうせ取られるからもう一袋……って二袋前日に食べてしまった記憶がある

 当然当日の最後の一個は取られたけど、あれ食べるのだけは思いとどまって良かったと思う。他の同級生におやつ寄越せよって矛先が行かないだけで良いんだ。だっておれ、もう二袋も食べたしな

 だから仕方ないな!うん!責めるべきじゃない。あったら食べたくなるよな普通

 

 「分かった、とりあえずお茶……は湯湧かす必要があるか。でも良いか

 お茶、頼勇に出してやっててくれ」

 言いつつ、おれは逆の方向を、背後を振り返る

 「皇子さまは?」

 「すぐ帰るけど、この時刻だ」

 ちらりと首から下げた懐中時計を見せてくれるアルヴィナによると、今の時刻は虹の刻の半分ほど。日本風に言えば午後10時半

 考えてみれば遅すぎるというか、結構危険な時間だ

 「アルヴィナとアステールちゃんを送ってく必要があるだろ?」

 「ボクは不要」

 「ってアルヴィナ」

 「此処に泊まる。家より落ち着く」

 「アルヴィナ、お前なぁ……」

 そもそも、家じゃなくて寮に送る気だったんだが……

 「分かった。アナと一緒の部屋しか無いんだが、アナは大丈夫?」

 こくり、と頷く少女

 「……なら、おれはアステールちゃんを送って、ちょっと買い出しに行ってくるよ」

 

 すっと、影から出てくるカラス

 「ああそうそう。頼んで良いか、シロノワール。頼勇の事はあまり危惧してはいないけど、何かあったらアルヴィナ達を守ってやってくれないか」

 応と左翼を拡げて返事する三本足のカラスに軽く会釈して、おれは狐少女の手を引いて歩き出した




???「そろそろだね、君が来るのを待っているよ
僕の可愛い灰被り(サンドリヨン)
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