蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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談話、或いは提案

「さて、改めて話を聞かせてくれ」

 まだまだやっている屋台街で幾つか夜食と明日の為の飲み物を買い直し、少女を白亜の塔、つまり七天教の帝国総本山に送り届け……

 駆け抜けて初等部塔に戻り、疲れたのかすやすやと眠る妹の枕元に買い出しの序でに買った小さな猫のぬいぐるみを置いて、少しだけ頭を撫でてからまた孤児院まで戻ってきたおれは、ツンツン髪の少年と向かい合ってリビングに座っていた

 

 「……分かった」

 静かに頷いて、子供とは思えない落ち着きで、少年は右手でカップを持って薄い茶を啜り、言葉を紡ぐ

 「……甘いな」

 「南方の茶は渋みが強いんだっけか」

 「地域の違い。いや、慣れてしまえば行ける味だ、問題はない」

 「そうか、ならジュースは開けなくて良いか」

 そう、おれは呟いて、買ってきた肉串からちょっと大振りに切られた肉を二切れ外して、へーと興味薄そうに話を聞いているアルヴィナ前の木皿に乗せる

 ひょい、と八咫烏の嘴が伸ばされ、そのうち一切れを啄んだ

 「御苦労な、シロノワール」

 あのカラスは、あまり触れられる事を好んではいない。だからおれは手を伸ばさずに眺めるだけにして

 「アナは要る?」 

 そう、聞いてみる

 「あ、わたしは良いです。もう歯磨きしちゃったですし、わたしだけ食べるとみんなに悪いです」

 けれど、銀髪の少女はふるふると首を横に振った。少し肌寒いのか被ったの猫耳フードの耳が、頭に合わせて軽く揺れる

 それをジーっと眺めるツンツン髪と、気にも止めないで啄むカラスにボクは良いからと肉を譲る黒髪の少女

 その全体を見てからおれは……

 「すまない。図々しい事を言うのだが、私の分は……」

 「ん、はい」

 袋からもう一本の串を取り出さず、薄茶色の紙袋ごと少年に肉串を突き出す

 「……良いのか?」

 「資金が……というようならあまり食べてないんだろ」

 良いって、と可能な限り笑顔を繕って、おれは少年に紙袋を押し付ける

 「ならば、有り難く」

 実際、腹が減っていたのだろうか

 おれが良いよと言うや少年は肉串にかぶり付く。割と礼儀正しい立ち居振舞いとは少しギャップのある豪快な食べっぷりだ

 5切れしか刺さっていない肉のうち二切れを同時に歯で挟んで引き抜いて口に含み、一気に咀嚼

 「こいつも食うか?」

 その光景が何処かおかしくて。おれはそう二切れ外した串を逆の手上下を返して持ち変え、少年に差し出す

 口を動かしながら、ペコリと頭を下げて串を受けとる少年頼勇

 

 「あ、ライオ……さん。お粥、要りますか?」

 その食べ方を見て、銀髪の少女が問い掛け

 「あ、勝手にすみません皇子さま!」

 なんて、おれに謝ってくる

 「良いよアナ。おれが今竪神に聞こうかと思ってた所だ

 記念にちょっぴり豪華めに干し鳥と……あと卵も入れてやって」

 「分かりました皇子さま!」

 そう言って席を立つ銀髪の少女

 厨房に歩いていくモコモコの寝間着の少女の後ろ姿を眺め、おれは……

 割とアナを当然の事のようにこき使ってるなと自省した

 

 いや、あの子はおれの使用人でも何でもない。あまり彼女がおれの使い走りみたいな認識をしないようにしないとな

 

 そして、アナが持ってきてくれた粥をおれも軽く食べながら、頼勇の話を一通り聞き終わる

 「成程な。それで、お前はナラシンハと名乗った化け物の行方等を探しつつ、旅を始めたと」

 四天王エルクルル・ナラシンハに父親を殺され、利き腕の左腕を食われ、父の魂を石にして共に旅に出る

 この辺りの話は完全に原作と同じだな

 「ああ、私は父が遺した力であるライ-オウの完成と、復活の兆を見せた魔神への対応のために、こうして旅をしている」

 「なら、此処が一先ずの終着点だな」

 「そうなのか?」

 首を傾げる頼勇に、おれはそうだと頷く

 

 「とりあえずはナラシンハ……伝説にもあるエルクルル・ナラシンハについての話を、魔神王復活の預言を行った聖教国に持っていくんだろう?」

 「そのつもりだが、何か私の知らない事情があるのか」

 「いや、竪神、さっき会った狐の女の子、居るだろ?」

 「ステラと言っていたあの可愛らしい女の子か。亜人に対しての偏見が薄いと聞いていたが……」

 頷く少年に、そうそのアステールとおれは頷き返した

 

 「彼女、聖教国の出で、この帝国に遊びに来ている」

 留学って訳でもないらしいので、遊びと語る

 「亜人なのにか?」

 「亜人でもだ。後は……この国には今、枢機卿の娘が留学に来ていて、妹が学友なんだ」

 「何!?そうなのか」

 「ああ、だから、彼女にその旨をしっかりと話せば、枢機卿にまで伝わる」

 「そう、か……」

 安堵した表情を浮かべ、匙を進める少年

 だがしかし、その眼は直ぐにキリリとしたものに戻る

 

 「だとしても、他にも封印から抜け出した魔神が現れるかもしれない

 それを放置するわけにはいかない。私達のような悲劇は」

 「……流石に、伝説に謳われる四天王級がそうそう出てきてたまるものかよ」

 「……皇子、四天王って、誰?」

 ふと、二つとも肉を食み、此方をじっと見ている八咫烏を見詰めていたアルヴィナがそう問いかけてきた

 「四天王ってのは、伝説の魔神王直下に居るとされた4体の魔神だ

 エルクルル・ナラシンハ、ニュクス・トゥナロア、テネーブル・ブランシュ、そして……スコール・ニクス」

 うっかりゲーム本編での名前を言わぬように気をつけつつ、おれは記憶を辿って名前を羅列する

 そう。かつての伝説の時代ではテネーブルって四天王なんだよな。当時の魔神王の息子らしいけど

 「そのうち、スコールに関しては既に倒されている」

 視界の端で頷いているカラスが何か気になるが無視して、おれは話を続ける

 「といっても、かつての戦いで人間側が滅ぼせた有力な魔神はスコール・ニクスただ一体

 そのただ1体を倒せていなければ、多分おれ達が産まれてないけどな」

 「……そういうもの?」

 「"星喰"のスコール。私でもその名前は知っている」

 と、付け加えるように頼勇。それを聞きながら、おれは……

 何でか被っている帽子の下の耳が伏せ気味になった不満げなアルヴィナに頬を軽く引っ張られ、アルヴィナの愛烏に眼の近くを軽くつつかれていた

 ……アルヴィナは良いとしてシロノワール?割と痛いんだが。ギリッギリでダメージ通るから止めて欲しい

 

 「星喰さん……。エルフの凄い人と、初代皇帝さんとで倒した火を食べちゃう狼さんでしたっけ?」

 「そうそう。良く覚えてたなアナ」

 因みに、おれがアナにあげている授業ノートにも名前が出てくる

 さてはアルヴィナ、あの授業寝てたな?

 

 「……とにかくだ。私はあまり……」

 「いや、そういうのは本来皇族の仕事だ。特に帝国内で起こる場合はな」

 それにだ。大きな事件自体は暫く無いんだよな

 次にシナリオ上で話が聞ける魔神によるあれこれは、当初魔神との繋がりが見えないガルゲニア公爵家が当主を交代するその日に、パーティに出席した人間が呼ばれた気がしてとゼルフィードに触れた結果かの機神に吸い込まれた幼い少年ガイストを遺して全員が新当主に殺されたガルゲニア血の惨劇事件まで無い

 本来は天空山に住む天狼が地上に降りてきた天狼事件は、概要は知らないけどゼノから断片的に聞ける話によると天狼側に敵意は無かったらしいし、魔神案件ではない

 「……しかし」

 「竪神。おれの妹はちょっと体が弱くて、ゴーレムを使って他人と交流してる」

 見ただろ?とおれは話を振る

 「ああ、あの四本腕のゴーレムはその為の」

 「家の妹はゴーレム関係に関しては天才的でさ。体さえ弱くなければ倭克に留学とかもあったかもしれない」

 ……こうやって引き留めるのはおれのエゴだ

 本来、竪神頼勇とおれやアイリスの進む道はゲーム本編で漸く交わる。だが……

 アイリスにとって、おれ以外に信頼できる誰かが欲しかった

 おれはずっと居る訳じゃない。原作でも兵役帰りだったし、そのうち帝都には居られなくなる

 その時に、アイリスの友達が居てくるように

 

 いや、違うな。ゲームでのアイリスは頼勇と仲が良かった。絆支援を上げてれば婚約し、エンディングでのその後で結婚した事が語られるくらいには、妹にとって特別になりうる相手なんだ

 だから、引き留めたかった。頼勇の為なんかじゃない。おれが居なくなった後のアイリスの為に。そんなおれのエゴで、アイリスの側に彼を連れていきたかった

 「だから、きっと竪神達の言うライ-オウについても何か手伝いが出来ると思う」

 だからおれは、そう、少年に対して呟いた


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