蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……灯火よ」
火属性は無いが、雷でも似たことは出来る
二角を頭に抱く男が発火魔法を唱え、薄闇に染まったこの地……場所によっては傾斜が50度にも達する天空山の9合目付近に、ひとつの火が灯った
流石は魔法の火、空気ではなく魔力を燃やすものだからか、空気薄いなとなるこんな場所でも気にせずに薪をくべられて燃える
それを眺め、おれは……
「竪神、魔物は狩るなよ」
師と共に平坦な夜営に良さげな地を見つけてくれていた少年に、そう声をかけた
「……そうなのか」
持ち込んだエンジンブレードを整備していた少年は、その言葉に虚をつかれたように顔を上げる
「この辺りは大型の獣が居ない。だが、小型の生物は居る
それを狩れば、わざわざ干し肉を初日から使うことも無い、と思ったのだが」
「駄目だ、竪神
此処が、どうして小型の生物が多いと思う?
天狼のテリトリーだから、だ。此処で狩りを行うものは、天狼に捕食される。天空山といっても、麓の方はそんなこと無いけど、この辺りまで来るとそういうルールなんだよ
それを分かっているから、争いを好まない小型の魔物がこうしてこの辺りに暮らしているんだ
新しい肉が欲しいなら、明日以降にかなり降りて、天狼のテリトリーを出ないとな」
「幻獣の縄張りか。言われていなかったら危なかったな
私は、てっきり蛇王の躯に現れるというから、この辺りは範囲外なのかと」
「結構広いよ、テリトリー
といっても、下手に蛇王の躯に足を踏み入れなければ、普段は何もしてこないけど
例えばさ、此処で他の生き物を巻き込もうとしないで軽く修業するとか」
「あとはー、ステラに絶景を見せてくれるとかもだよねー?」
ニコニコとたのしみーと耳を動かしながら尻尾をばったばった振る狐の少女に、おれはそうだなと頷く
「そういうのも咎めない。この辺りでの狩りは咎めてくるけれどね」
「……だが、それでは蛇王の躯の先には行けないのではないか?
私は、その先が本来目指す場所と聞いていたんだが……」
と、少年は首をかしげる
確かに、アステールに見せたい景色はあの先にあるって言ってたな。有名な絵画の景色だ
「ああ、それ?
天狼って、ちゃんと言葉通じるからさ。雷で抉られた線があるから、その前で待ってたら、そのうち天狼が姿を現すんだ」
「それで?」
「こういう理由で此処に行きたいから通って良いですかって聞いたら、良い場合は背中を向けて去っていくし、駄目な場合は近付いて追い返しにくる」
「……賢いな」
「一例として、50年くらい前くらいに、天空山からの景色を描きたいって馬鹿な夢を追う絵師が居た。彼は天空山に登って書き始めたけれど、うっかり絵筆を落としてしまったんだ。魔法でも見付からない。傾斜がキツくて、下手に探せば自分が滑落する
意気消沈して眠りについたら、翌朝微かに天狼の体毛が付着した無くしたはずの筆がキャンバス前に置いてあったって逸話もあるくらいには、人類を分かってるよ
それで描かれたのが、あの有名な天空に駆ける雷光って絵。アステールに実物を見せてやるって言ったアレ」
そんな事を言いつつ、おれは干し肉を鍋に入れ、スープに味を付ける
そして、周囲を見回した
えーっと、師匠に、頼勇に、アステールに……
四肢をだらりと投げ出した死んだフリでおれをからかって遊んでるオルフェゴールド、何時ものことながらちょっと心配そうにそれを見てるアミュグダレーオークス、涎を垂らす羊の角を持つ女の子……
よし、全員揃って……ん?
「誰だお前!」
見覚えの無い少女の姿に、おれは思わずそう叫んだ
「じゅるり……」
涎を啜る音、小さく鳴る腹の音
恐らく、天空山に天狼の縄張りのルールを知らずにやってきた誰かだろうか。自給自足のつもりで来たら天狼に睨まれて、そのまま狩りも出来ずに……っての。たまに話を聞くしな
そう当たりを付けて、仕方ないなとおれは軽く頭を掻いた
「一緒に食べるか?」
ぱあっと目を輝かせる羊の女の子
「ただ、事情は聞かせてもらう、良いね?」
こくこくと頷いて、手に小型の弓を持った少女は、よく聞こえない声を張り上げた
……響きとしては、エルフが使ってたあの言語に近い音
直ぐに姿を見せたのは、一人の長耳の……中性的な……少年、いや少女?多分少年だ
その長い耳、左右で色が違う瞳、鮮やかな金の髪
色の違う瞳については良く分からないが、長耳と金の髪についてはしっかりと見覚えがある
「ノア姫……じゃないな、流石に」
女の子女の子してたあのエルフ少女と、少年だろう彼は似てはいても、同一人物にはとても見えない。推測すると、彼女の弟か兄か……血縁だろう
「のあ、しってる?」
たどたどしい発音で聞かれるのは、そんな事
ってこれ、ティリス公用語じゃないか。話せるエルフ居たのか
にしても、女性声優の少年声というか、声でも判別できないなこれは
「ノア、見たこと、ある」
それに合わせて、おれも単語を並べる感じで返してみる
「……にんげん、のあ、うらむ?」
「人間、ノア、心配」
これ、通じるだろうか
おれに敵意はないこととか
この辺りにエルフが見られるってことは、多分星紋症のあれこれは解決したんだろうとは思う。七天の息吹も使われた形跡はないし、多分盗人に追い銭に過ぎなかったんだろうなアレ
でも、良い。勿体無いけど今更返せなんて言わない
「やまい、なおった」
「一安心」
……で、頼勇?どうしたんだそんな微妙な顔で
「竪神?」
「いや、何時言い出そうかと思ったんだが……
ティリス公用語にならば、MPを込めて話せば言葉を変換できる」
もっと早くに言うべきだったか、と苦笑する青髪の少年
「そのレリックハートで?便利だなそれ」
因みに、レベルやステータスの概念に関連する魔力はMP(ミスティック・ポイント)とは異なりマナと呼ばれている別種だから、おれには効果がないらしい
ただ、必要なのはエルフ少年?の言葉を公用語にする為にだけだから、特に問題は起きないな
「竪神……お前、頭良いな」
「元々は、意志疎通が出来なさそうな天狼相手に使う気だったんだけど、違う形で役立ちそうだ」
ひとつ頷き、少年はその左手の白石に手を添える
「行こう、父さん」
『セェェット!アーユーレディ?』
「何時でもどうぞ」
『ティリス・フィールド!パワー、オォンッ!』
相も変わらず五月蝿い音と共に、白石に緑の光が走り、小さな魔力フィールドが広がる
「あ」
「どうした、竪神」
しまったなと顔を歪める少年に、おれは声をかける
「ゼノ皇子、今更なのだが……私はこれをして良かったのか?」
「ん?」
「いや、天狼の縄張りで、不用意に魔法を唱えても……本当に良かったのか?」
不意に、おれの背後に影が射す
所々に赤の走る、白い甲殻と体毛。その頭の3点だけが目立つ蒼に染まった、雷のように歪曲した一角と双眼。赤く輝く雷を迸らせる胸殻と、雷光で黄金色にも見える爪と牙
そして、今は見えないが肉球と舌は綺麗な桜色
蒼、赤、桜、金。四色の雷を纏い使い分ける伝説の巨狼、天狼が其処に居た
因にだが、雷の色の使い分けは良く知らない。桜色が活性、蒼が不殺、赤が撃滅……だっけ?と言われているが、情報が無さすぎるので桜色の雷が身体強化や治癒能力の活性に使われる以外は正しいかも不明。ゲームでも、人の姿になれる天狼は居ても、あまり多くを語ってくれないし
ぽたり、と牙の間から垂れた血が、おれの頬を濡らす
「くっ、やはり……」
自分のせいだとばかりに、少年がエンジンブレードを構え
「おーじさまー!」
焦ったようにアステールが立ち上がり、怯えたようにエルフの少年と羊少女は身を寄せあう。そして、駆け出すべきかとアミュグダレーオークスが此方を見て……
そんな中、おれと師匠、そして未だに死んだフリを続けるオルフェゴールドだけが冷静だった
「……大丈夫だよ竪神。オルフェがふざけてるってことは、それだけ安全ってことだから」
剣を収めさせるように、おれはゆっくりと呟く
「単純に、昼の間に干した果物を挨拶として置いてったから、その返礼を置きに来ただけだよ」
「……そうなのか?」
そうだとばかりに、天狼は一声吠える
空気を震わせる咆哮だが、敵意はなく
手を伸ばしたおれの両腕で抱えきれないほどの大きさの熊の腕肉が、おれの腕の中に落とされた
「ほら、ね」
振り返り、おれは天狼に一礼する
「有り難う御座います」
おれの礼を受け取ると、その白い巨狼(何となく見分けが付くんだけど昼間に出会ったのとは別個体でどうやら夫婦らしい)はその背に身の丈を越える仕留めた巨熊を背負い、身体機能を活性化させる桜色の雷を軽く身に纏うと軽やかにおれ達を飛び越えて山の上へと去っていった
「焦げるぞ、馬鹿弟子」
「……おわっ!?」
頼れる仲間枠の頼勇くんのヒロインですが……
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リリーナ(桃色)だよ
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リリーナ(金色)だろ
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実は原作でフラグあるアイリス
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隼人君とヴィルジニーを取り合うのです……
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機械が恋人だから女は要らない