蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「だ、団長が……」
「負け、た?」
「……まさか?」
口々に呟かれる声。ユーゴの時と違い手出ししてこなかった兵達が、ぽつりぽつりと感想を漏らす
「……それが、力か」
「はい。おれと、月花迅雷の力です、ゴルド団長
分かっていただけましたか?この力が必要になる敵が現れないとも限らない。だから、渡せません」
「……そもそもね。それはアナタの私物でしょう。何で賭けの対象みたいになってるのよ。可笑しいんじゃないの?」
と、何時しかおれの横にまで歩いてきていたノア姫が、手にした短杖の先でおれの脇腹をつついた
「相手が何を言おうと、ソレはアナタが天……違ったわね、かの元
使わずに挑む理由や決闘の理由はしゃんとしてても、自覚が足りてるようでまだまだ駄目ね」
くすりと言葉はキツいながら微笑して、エルフの少女は続ける
「見守るワタシから良いかしら
決闘の勝者はゼノ、完勝よ。文句はないでしょう?」
「……怪我をしている割に、実力だけは確かに皇族だった
認めよう」
と、団長は静かに頷いた
「ええ。ワタシ達エルフを救うために、圧倒的脅威に挑んだ傷よ。治らない事は情けないと言えば情けないけれど、本来それは彼の落ち度ではないわ
王公貴族も傷付かない訳ではなく、その傷を治せるだけだもの。本来責められるべきは、傷を治せない側なのよ」
あの子が居る時に言ったら勝手に背負い込むから言えなかったけれどもね、と。少女はそのエルフ特有の長耳をぴくりとさせて言った
「……忌み子皇子
いや、ゼノ第七皇子」
と、騎士団長は悩みながら、そう言い直した
「噂を聞く限り、君に指揮権を委譲する訳にはいかない」
その言葉には素直に頷く
何というか、自分でも分かってるのだ。おれは他人を命令するのに向いてない。指揮官とか、団長とか、皇子とか、皇帝だとか本来おれの気質に合わないだろう
そういったものは、人の上に立てる誰かがやるべきだ。例えば竪神とか、ノア姫とか、ヴィルジニーとか
「それは知っています。おれ自身、団長の座や権利は要りません
おれ自身、多くの人の命はとても背負えませんから」
「ええ、向いてないものね、アナタ」
と、ノア姫が後ろで呟いていた
「おれ自身、仮にも皇族、それも上級職……ロード:ゼノ。本来の意味で人を越えた身です
七つの皇騎士団以外に負ける気はありませんでしたが、貴方は強かった」
「勝った側がそれを言うとは」
そんな青年に笑い返す
「本来、皇族の決闘とは、どれだけ圧倒的に、華麗に勝つかが問題ですからね
父とシュヴァリエ
けれど、とおれは鞘に納めた月花迅雷の柄の角を撫でて呟く
「けれど、貴方は華麗には勝たせてくれなかった。正直、魔鎧の時間切れか、或いは月花迅雷の力かが無ければ攻めきれなかった
間違いなくそれは力です。それも、おれのように誰かを護るには不適な攻撃一辺倒な力ではなく、受け止め、周囲を見回し、フォローしながら戦える形の力」
少しだけ機嫌良さげに、団長の口が綻ぶ
「……忌み子に褒められても、案外嬉しくはない」
「少しは嬉しいのね、つまり」
「ただ、おれは……魔神王四天王の影を見掛けた事があります
魔神族の尖兵も。前回は冗談だと一蹴されましたが……あれは嘘でも何でもありません」
一息吐いて、おれは続ける
「そういった相手と、この魔を封じた遺跡を見守る騎士団は対峙することにきっとなります。その時に、おれの言葉を無視しないで欲しい
おれを、おれの力を信じて欲しい」
「……誓おう」
「そして、月花迅雷は渡せない」
「……寧ろ本当に賭けてたのか」
「……バカ?」
と、口々に呟いたのは、レオンとプリシラ
「レオン。プリシラ
おれは、君達を省みてこなかった。だから、ゴルド団長に色々言ったんだろう?」
「当たり前だろ」
と、あまり……それこそ原作ゲームよりもきっと縁の薄い乳母兄が呆れたように言う
「おれの近くに居るのは、竪神の次くらいには君達なのに、それを蔑ろにしてアナ達の相手にかまけすぎた」
言いつつ、エッケハルトは竪神側に加えるべきだったか?とちょっとだけ悩むも、まあ良いかと流して、おれは頭を少しだけ下げて続けた
「すまなかった。腹が立ったと思う
その上、給与含めてゴタゴタして。そりゃゴルド団長も聞いてキレる」
「ええ、ワタシも怒りを覚えるもの」
と、要らないフォローまでしてくるノア姫
「だが、最近色々と痛感した。自分の弱さ、至らなさや、その他色々
君達への態度の不味さも」
きゅっと、罪の象徴である愛刀の柄を握り締める
「だから、此処からで良い。もう一度、おれと関係をやり直してくれないか?」
それに対して浮かべられるのは微妙な表情
嫌悪や呆れ、そうしたものの混じった……諦めの顔
「今更都合の良い」
と、レオン
「ええ。確かに都合が良いわね。何様よって感じ
アナタ達が、ね」
冷たく、ノア姫がレオンを睨む
「ワタシ、これでも暫くこの
給与だけ貰って仕事してない環境にのうのうとしていたアナタ達が今更なんて呟くなんて、それこそ虫が良すぎる話ね」
「ノア姫、それは言いすぎだ」
「それを良しとしていた側にも当然問題はあるわね。馬鹿馬鹿しい。配下への教育があまりにも疎か」
と、エルフの姫はおれも一瞬睨んで、けれどもすぐに目線を戻す
「それはそれよ。のうのうと可笑しな恩恵を享受していたから、今更真っ当になられたら困るというの?
……
アナタからせしめた給料を使いきったらきっと野垂れ死にするわね。でも、彼等が自分でその道を選ぶのだもの。文句はないでしょう?」
その言葉に、プリシラがきっ!と此方を睨む
……おれも流石にノア姫の言いすぎだと思うんで、おれを睨むのは止めて欲しい
「止めてくれ、ノア姫」
「止めないわよ。ワタシは約束でアナタの手助けをしてるだけ。立場としては一応対等よ。恩を返している途中だから多少は仕方なくアナタを立てるけれど、決して唯々諾々と従う配下じゃないの。勿論、彼等のように従わない不遜な配下でもね
勝手に言動を制限しないでくれるかしら?」
「……皇子」
団長が、意外そうな顔でおれに声をかけた
「エルフって、こんななのか?」
「……大体は、気品とプライドの塊です」
「エルフを連れてきて何かと思ったら、割と……」
「協力してくれて本当に有り難い話ではあるんですが、ね」
「ノア姫。おれの口から話したいから抑えてくれないか?」
と、相手を刺激しないようにおれは言う
「……なら良いわ。アナタが言うならワタシがわざわざ言ってあげる必要もないもの」
大人しくノア姫は引き下がり、おれの後方でプリシラを静かに威圧する瞳で見返す
少しだけ後方妹幼馴染面ですよと言っていた始水を思い出すが、後方……何面だろうか。保護者面?
「レオン。プリシラ
ノア姫の言動は流石に言いすぎだ
でも、全くの間違いと言う訳じゃない。正しさもある」
ぼそりと、正しさしかないわよというノア姫を今は無視し、言葉を続ける
「お互いに都合が良い事を言ってるんだ
おれはやり直したいと。レオン達はそれで良いとずっとおれがそんな態度だったのに今更だと
……なら、互いに少し折れないか?」
その言葉に、全く仕方ないな、と緑髪の少年は頷き、横の相変わらず誰のメイドか分からないメイド少女もそれに同調した