蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「レオン」
おれはそうして、今は別行動である団長達との連絡役としておれに付き従う乳母兄の名を呼ぶ
一年前なら着いてこなかっただろうな、レオン。とは思うのだが、今は違う
今も少しぎこちないながらも、ちゃんとした関係性を築いている筈だ
その証拠に、当然でしょう?とどことなく保護者面を……
「保護者面だと言葉が固いわね
ママ面なんてどうかしら?」
なんて、茶化してくるノア姫の横で、なんだなんだとばかりに合流してきた緑髪の少年が口を開けて此方を見ていた
「ノア姫。人の思考を読まないでくれ」
「魅了の応用よ。寧ろ魅了の基礎段階と言うべきかしら
アナタ、普通の面の後ろでどんな危険な行動を考えてるか分かったものじゃないもの、少しくらい覗かせて貰える?
大丈夫、アナタの尊厳を踏みにじる程に深くは覗かないわ」
悪びれずに言うエルフの姫に苦笑して、まあ良いかと割り切る
この右耳に掛かっていたアルヴィナの盗聴魔法なんかと同じだ。それで安心して信頼してくれるなら別に良い
「……ゼノ、殿下」
「レオン。魔神族が姿を見せたとはいえ、まだ軍勢は現れていない
何らかの理由で封印を抜けただけのはぐれ魔神ではなく、高位の者の存在を近くに感じたことから、そう遠くない時期に彼等が現れるだろう事はほぼ確実
だが、現状分かってるのはそれだけだ」
その言葉に、乳母兄はそうだなと頷く
「だからレオン、ゴブリン達への避難誘導なんかは……今はリハーサルみたいな形になる
まだ、襲撃は起きていない。基本は狩りと収穫な生活をしているゴブリン達は、貯蓄というものが少ない」
「それがどうしたんだ?」
「貯蓄という余裕が少ないということは、そのうち敵が攻めてくるからといって、早々と避難して何処かに閉じ籠るという事が出来ないんだ」
ああ、と少年は手を打つ
「すぐに食糧難が起きるんだな」
「ああ、持って1週間。それ以上は食料が足りない」
「よく生きてるなその獣人達」
と、呆れたようにレオンは呟いた
「……アナタ達人間に比べて、確かに神々の慈悲は持っていないでしょうけれど、逞しさと自然との共生能力は数段あるのよ」
と、憮然としたノア姫が言葉でレオンに噛み付く
「……ゼノ、なんで怒られてるんだ俺は」
首を傾げるレオンに対して、おれも一瞬理由が分からなくて……
「レオン。ノア姫達エルフも自然と共に生きる民だ」
「ええ、自然と調和した自給自足
命を戴いて生きていくのだもの、敬意を込めて基本的に全ては自分で。それがエルフよ
彼等と女神に祝福されたワタシ達を一緒にして欲しくはあまり無いけれど、無闇に命を奪い貯蔵しておく野蛮な行為を行わないのはゴブリンと同じことだし、今回は良いわ」
「あ、ああ……」
要領を得ないように気圧されて、エルフの姫より頭一つ以上は背の高い少年は曖昧に頷かされた
「つまりだ、レオン。ノア姫達エルフも、貯蓄が嫌いなんだ
大半の場合、食料の大元は動植物の命。今必要なくて、後々も必要ないかもしれないのに
だから、ノア姫は今おれ達に合わせてくれてるけど、本来穀物とかほぼ食べない」
「……ええ、ワタシは無闇矢鱈と溜め込まれて保存されてるアレ、正直な話をすると好きじゃないわ
ああ、味は良いわよ?それは認めるけど、有り様が嫌いよ」
ピクリと耳と形の良い眉を動かして、エルフの姫は持論を語る
「けれどもそれは良いわ。人間の考えを否定する気はないもの。そんなことしたらアナタと同じレベルだものね」
レオンをじっと見据えて、エルフは静かに威圧しながら語る
「だから、アナタもワタシ達の考えをバカにするような発言をしないでくれると有り難いわね」
「き、気を付ける」
そうして、一歩ノア姫から離れて、少年はぼそりとおれに向けて呟いた
「……ナニコレ」
「何時ものノア姫」
「……良く着いていけるな……」
「ノア姫はエルフだ。相手がエルフであることをちゃんと尊重しようと思ったらそんな難しいことじゃないよ」
分かりやすいし、ヒントもくれるし、分かってなさげならこうして理解しやすいように教えてもくれる
ちょっとプライドが高くて自分に
寧ろ、おれへも苦言を呈してくれつつ、ノア姫なりに改善の手を教えてくれるからアナ達に比べて気楽だ
いや、勿論同じくプレッシャーは感じるんだけど、おれには重すぎる信頼より、至らないと責めつつも手を差し伸べられた方が救われるというか……
「俺にはちょっと無理、任せるわ」
「元からおれがノア姫係だよ」
……痛くはないんだが、脇腹をつつかれた
「ワタシが面倒で手の掛かる
アナタに迷惑かけたのは2度だけの筈よ」
中々に不満げな顔のノア姫
「分かってる。頼りになるノア姫と、人々の間を繋げる係がおれってだけ
何度も何時も助かってるよ」
「そう。なら良いわ」
そんなおれとノア姫を、やっぱり着いていけないわとばかりにレオンは腰の鞘を叩く何時もの暇なときの行動をしつつぼんやりと眺めていた
「……話が逸れたが、とりあえずゴブリン達を誘導する場所を見付けるというんだな」
「ああ、幾つかな」
その言葉に、少年は首を傾げる
「幾つか?何匹居るかは知らないけれど、一ヶ所に固めればいいだろう?」
「大体100人ちょっと」
おれも時たま匹と呼んでしまうが、意識して
「ただ、一ヶ所に固まって貰うにしても、幾つかの候補が要る」
「どうしてだ?」
不思議そうなレオンに向けて、おれは……寧ろ何で候補が一個で良いんだ?と首を捻り返した
「レオン?」
「いや、獣人なんかを護るために自分の命を危険に晒すのが理念としては分かるが違和感を覚える……のはまあ置いておくとする」
それにはおれもまあ民を護るのは義務だからなと軽く返す
「だが、何故複数の候補が要る?
魔神族ということは、遺跡から来るんだろ?」
その言葉で漸く納得したおれは、ああ違うよと首を振った
「レオン。確かにあの遺跡は魔を封じたと言われているし、禁忌として殆ど情報は残されていない」
「だから、魔神族が封印されてるんだろ?」
「一般的にはそう思われてるな」
だが、おれは知っている
その理屈だと可笑しい存在を
「魔神王達を封印し閉ざされた禁忌の遺跡……って言われてるけど、本当にそうだとは限らないだろ、レオン」
そう、ティアだ
ティアは遺跡を護る守護龍の"末裔"の少女だ。だが、アルヴィスとティアの絆支援Bによれば、「これでも1000歳越えたおばあちゃんです」らしい
読書好きでちょっと世間知らずで幼さを感じれど、あの子は1000年前には生きていた筈なのだ
そして……四天王スコールを帝祖が倒していたりする伝説から分かるように、魔神王襲来の時代……俗に言う聖女伝説期とは、帝国の暦が始まる少し前となる
おれが今のおれになったのが皇暦850年、龍の月。そう、魔神王が封印されたのって、大体850年前でしかないのだ。その時既にティアは最低限100歳を越えていた事になる
つまり、"一族の末裔"という言葉を、使命を負った時点で既に物心ついてたどころか下手したら成人している龍人娘が自分に対して使うか?という話
おれの勝手な感覚かもしれないけれど、末裔なんて単語を使うの、始まりが曾祖父……つまり、ひいひいおじいちゃんの頃に~くらいからのイメージだ
だとすれば、あの遺跡が封じているのは魔神王等の魔神族ではなく……もっと恐ろしいものの可能性がある
即ち、七大天がこの世界を切り開いた神話の時代……創世記の怪物
なら、そんなものと同じ場所に魔神族を封印する筈もない
「……そうか?無駄な考えすぎだろ」
「そうかもしれないけれど、猿の魔神が最後に逃げようとした方向は、遺跡とは別方向だった
考えすぎかもしれないけれど、遺跡から来ると決めつけて一個だけ場所を見繕っていた場合、万が一その避難場所方向から攻めてこられた時に対応が出来ない
だから、2~3個は見繕う必要があるんだ」
「そうか。勝手にしてくれ」
と、レオンは少し呆れげに言った
「ああ、勝手にするよ
……だけど、おれたちが護るのはゴブリン達だけじゃない
騎士団の皆、プリシラ達、そして……おれ達が此処で止めなければそのうち襲われるだろう人々
それら全ても護るための戦いになる。だから……
ちょっとくらい頼らせてくれよ、レオン」
「他人の、特に獣人の為になんて命を懸けたくないけれど、俺だってプリシラの為になら全身全霊振り絞るさ」
少しだけ顔を得意気にして、緑髪の少年はおれに笑った
狐娘……そろそろ保護者面黄金比ツンデレロリエルフに倍差つけられるぞ狐娘……萌えポイントだけなら勝ってる筈なのにどうしたんだ狐娘……
まあ、今が半ばノア編なので仕方ないと言えば仕方ないのですが……
おまけ、メインと言われてないヒロインの中で好きなのは?
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アイリス・ローランド
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アステール・セーマ・ガラクシアース
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ノア・ミュルクヴィズ
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金星始水/ティアミシュタル=アラスティル
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アウィル・ガイアール
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エッケハルト・アルトマン/遠藤 隼人
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竪神 頼勇