蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「皇子、だぁ?」
「お、お、お……皇子ぃぃぃッ!?」
空気が固まる
比喩である。実際に空気を固定するエアロックなる魔法は……風属性に存在する。のだが、そんな空気が固まり一切動けないままに、本来は詠唱を妨害されやすい高火力魔法を全員から叩き込まれて死んだ魔王の側近が居るという、伝説の停止魔法なんぞ使われた時点で負けなので無視で良い。神話の時代にしか出てこないのだし
兎に角、おれの宣言を受けて、人拐いの者達は暫し、おれに全注目を集めた。集めて……しまった
「そこっ!」
その隙を逃さず、背中に鞘ごと背負っておいた短刀を抜き放ちぶん投げる。的とするのはアレットを捕まえてげへげへしていた男
鉄格子を斬る際に歪んだ短刀では真っ直ぐは飛ばず、狙った場所ではなくその男のまだ組んだままの右の太股にざっくりと突き刺さる。しっかりと貫通しただろう
「い、痛でぇぇぇぇっ!」
最悪拾われても構わない。所詮は鉄斬ったせいで刃が潰れまともに斬れない小刀だ。それなりに投げる練習積んだおれでもブレは酷く、使いにくいことこの上ない。どうぞ拾って使いにくさに振り回されてくれ。突き刃に関わらないが、刀身歪みすぎて上手く狙えないだろうし
「此方へ逃げろ!」
「は、はいっ!」
太股を抱えて呻く男の腕の中から少女はあっさりと抜け出せる
……名乗った意味はあったようだ。それほどまでに、皇子というものは概念的に衝撃だったのだろう
「エッケハルト。任せられるか」
「分かってる!」
そのまま、駆け寄った少女を焔髪の少年が後ろに庇う
「貴方も、早く」
「でも、出口は向こうじゃ……」
「他にも捕まってる人は居る。だから、全員蹴散らしてから堂々と出る」
「やって、みろよ……皇子サマァッ!」
よろよろと、股間を蹴り飛ばしておいた男が、棍棒を杖に立ち上がるのが見えた
「やっちまえ、アーニキー!」
「てめぇが本当に皇子サマってなら、そんな醜い傷がある訳ねぇ!
ハッタリもいい加減にすんだな、殺すぞガキぃっ!」
「単純に、自分の至らなさへの戒めだ」
大嘘である。忌み子故に魔法で治せなかっただけだ
基本大貴族ともなるとどんな傷も魔法で跡形無く治してしまうので、こんな火傷跡が残っているわけもない。それ故に、疑いが薄かったというのもあるのだろう。皇子サマに怪我跡なんてある訳がない。そんなものすら治せない貧乏なはずがないのだから
「言ってろ、ガキィ!」
駆け寄りながら、男が棍棒を振り上げる
十分返り討ちは狙える範囲の速度。だが……
おれは、ゆっくりと目を閉じる
「失った目で、戒めなぁ、俺達に歯向かったことをよぉぉっ!」
そうして、棍棒は振り下ろされた
「……で、何を戒めれば良いんだ?」
バキッ、と。それはもう軽い音を立てて棍棒は根元から折れた
まあ、当然の結果と言えば当然の結果。仮にも皇族、下級職業の振るう棍棒なんぞ避けなくてもまともにダメージは無い。兵士の剣でも気にせず受けられるのだから当たり前である
目を見開く
「……何を、戒めにするのかと聞いている」
「は?棍棒の、ほうが、折れ……?」
横凪ぎに一閃。呆然とする男のわき腹を、鉄棒で打ち据える。手に残るのは嫌な感触、肋骨でもへし折ってしまったろうか
「くぺっ!?」
気の抜けた声とともに、男の口からなにかが溢れた。まあ、何かというか、男がさっきまで口に放り込んで咀嚼していたろう食べ物なのだが。ああ汚い
「「「ア、アニキぃっ!」」」
「アニキがこんなガキに……ありえねぇ!アニキは……アニキは……」
「上級職でもないんだろう?」
おい煽るなエッケハルト。隠れてる魔術師……ゴーレム使いはまだ居るんだぞ分かってんのか
「そろそろ上級職だって笑ってたんだぞ!」
「成程。帝国内で奴隷で稼ぎ、金次第で通してくれる異国に渡って上級
せこいこった」
「てめぇ!」
「だが、それも終わりだな。皇家のものに手を出すからだ。こうして直々に潰される」
「バケモンがぁっ!」
「バケモンだから、皇族なんて中央を存在させる理由になっている」
そう、皇帝という最大戦力、皇族というそれに継ぐ化け物達。その存在を、恐怖をもってこの帝国は成り立っている。絶対的な力故に、小国の王達を貴族として封じ直し、纏めあげた一つの帝国として外敵を迎え撃った。それが、帝国の成り立ちであるのだから。今や皇族のチートさは広まり、かつて小国の王であった者達は貴族としての世代を重ねすぎて帝国への忠誠心も割と高いのだが、初代の頃は俺が俺がで、逆らう気すら起きない力でぶん殴らなければ纏まれなかったという
「他の皇族は、おれより強いぞ
投降しろ」
それに対し、隠れているだろうゴーレム使いは反応すること無く。お頭ですら敵わないと悟ったらしい盗賊達は、静かに頭を垂れた