蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝・銀髪少女と狐耳

アイリスちゃんが初等部を卒業して、メイドのお仕事の期間が終わってしまったわたしが孤児院に戻ってから暫くたった頃

 

 ある日、エルフさん達の時にわたしたちを助けてくれた七大天様にお礼を言うために、そして数年後15歳になって成人した後に生きていくためのお仕事体験として、わたしは……メイドのお仕事とかを習っていたから割と評価高くて長く体験させて貰っていたわたしは、今日も夕方までの七天教の教会の人々がやっているお仕事のお手伝いを終えて、孤児院へと歩みを進めていました

 

 あんな別れかたをした皇子さまに手紙を出したいけど、嘘でわたしを遠ざけて、自分は悪い奴だって……皇子さま自身も信じてそうな言葉で(うそぶ)く彼に、今のわたしがどんな手紙を送れば良いのか分からなくて

 タテガミさんみたいに皇子さまの横に並べるだけの力があったら、あのあとらす?っていう巨大な鋼の怪獣とわたしも一緒に……って言えるけど、今のわたしはそんな事聞いて貰えるような力がないから

 だから、今日も少しだけ悩んだまま、家路についていました

 

 そんなわたしを出迎えるのは、皇子さまとアイリスちゃんが作った騎士団の少年兵として雇われる事になったお兄さんを持つけど、まだ二人で生きていくお金がないから孤児院に居るエーリカちゃん達……の、筈なんだけど

 

 今日のわたしを出迎えたのは、物々しい騎士達だった

 

 「……な、なに?」

 思わず、数年前の事を思い出して足がすくむ

 それは、皇子さまが初めてわたし達を助けてくれた時、星紋症事件の時の再現。武装した騎士と兵士が、孤児院を囲んでいる形

 

 でも、わたしはほっと息を吐く

 怖いけど、でも、あのゴーレムの時みたいに人浚いが来たんじゃないって分かる

 騎士の胸元に輝く紋章は、わたしでも良く知ってる有名なものだったから

 

 紅き猿、皇猿騎士団の紋章。偽造は犯罪で、そもそも特別な魔法の光りかたをするあのエンブレムはほとんどの人が作る魔法の構成を知らない特注品

 だから、彼等はちゃんとしたこの国の偉い騎士団で、何かあったにしても話は分かると思う

 

 だから、安心してわたしは一歩踏み出して……

 「きゃっ!?」

 その手を、少し乱暴に掴まれた

 

 「な、何!?何ですか!?」

 混乱してわたしは掴んできた相手を見上げる

 それは……胸元に皇猿騎士団のエンブレムを輝かせた、一人の騎士であった

 

 「……あ、」

 わたしの脳裏に浮かぶのは、このまま死んじゃうんだって最初に思った、あの日の光景

 あれは、皇子さまが払ってくれたけど……今、皇子さまは居ない。遠くで、わたしの知らないところで、きっと傷だらけになって無茶している筈

 

 思わずわたしは踞りかけて……

 「団長、発見しました

 報告にあった銀の髪と雪の髪飾り。特に重要とされていたアナスタシアです」

 それすらも許されない。わたしは手を引かれて、無理矢理に歩かされる

 

 そして、厳しい顔の騎士団長さんの前にまで連れてこられた

 傷一つ無い顔をした、30歳くらいの男の人がわたしを見て、連れていけと指示を出す

 

 「あ、あの、どうして……」

 震える喉で、それだけを絞り出す

 

 何で?どうしてわたしたちが、またこんな目に遇うの?

 また、星紋症が起きたの?だから、殺されるの?

 

 ……助けて、皇子さま

 

 「……犯罪者を捕らえ、占拠された土地を取り戻せ。それが命令だからだ」

 本人も少しだけ疑問があるのか歯切れ悪く、団長さんはわたしの疑問に答えた

 

 「はんざい、しゃ?占拠?」

 「そうだ。この地を占拠し、勝手に居住する犯罪者を排除せよ、と」

 「そんなの、へんです!」

 理解できない言葉に、わたしは声を荒げる

 

 「ここの土地は、ちゃんとわたしの……じゃないですけど、わたしたちが暮らして良いって許可と保証があったはずです!

 皇子さまが、此処は孤児院に使うって……」

 

 「四天王アドラー・カラドリウスと交戦後行方不明。敵前逃亡による職務放棄。死亡と判断し、その皇族としての全ての権限を凍結

 それが、君の言う第七皇子へ下された判断だ。彼の保証は、今や紙切れ一枚よりも意味がない」

 

 ……皇子さまが、死んだ?

 ううん、きっと……あの日みたいに、何処かに飛ばされて……でも、あの時はわたしたちが一緒だったから、話も出来たけど、皇子さま一人だと何の魔法も使えないし……

 大丈夫ですよね、皇子さま?本当に、死んじゃったりしてないですよね?

 

 ……ううん、考えちゃ駄目。悪いことばっかり思い浮かんじゃうから

 

 「それに、エッケハルトさん……じゃなくて、アルトマン辺境伯の息子さんも」

 「彼は領地に帰還した。地を遠く離れ名代も置いていない者に管理者としての資格なし」

 「そうだ、タテガミさん達……それにアイリスちゃんも、きっと」

 なおも食い下がるわたし

 

 でも、本当は分かっていたんです

 元々、そういったわたしが思い付く反論が通るなら、こんな事態にはなってない、なんて

 「……タテガミ準男爵等は第七皇子の敵前逃亡により辺境へ出立している

 アイリス殿下は療養中。どちらも、この件には一切関わらない

 

 ……立ち退き命令は出ていた……らしいが?」

 「そ、そうなんですか?」

 

 わたしは全く知りませんけど、出てたらしいです

 と、思ったんですけど……

 

 「あー、なんです?数日前に届く筈だったもの、うーっかり別の区の担当に回してて……」

 悪びれもせず顔を出すのは、そんな郵便の人。その手には、公文書の印のある手紙

 

 ……隠してたんですか?と、ちょっと暗い気持ちになる

 こうやって届いてなかったら、わたしたちが分かる筈もないのに

 

 「でも、どうして!」

 「……性急すぎるかもしれない。君達に罪はない

 だが、我等としても……アイリス派の最近の行動と躍進はあまり喜ばしくない」

 わたしに敵意なんてなく、貴族な騎士団長さんはそう語る

 

 少しだけ、申し訳なさそうにするけど、なら……わたしを離して欲しい。皆をこんな目に逢わせないで欲しい

 

 「……アイリスちゃん」

 「これは、皇族4人による連名の判断だ」

 ……アイリスちゃんを、皇子さまを貶めるために、こんなことするの?

 アイリスちゃんが継承権高いってことは聞いたことがあるけど、それを蹴落としたいから、わたしを……わたしたちを狙うの?

 皇子さまはアイリスちゃんをちょっと分かりにくいけど大事にしてて。そんな皇子さまが同じく大事にしてるわたしたちを潰せば、わたしたちを見殺しにしたとか見捨てたとか、そういった話で、二人を責められるから

 

 ……そんな、理由で?

 

 そう思うけど、わたしには何にも出来なくて……

 

 「恨みはないが、君達はもう犯罪者だ。大人しく……」

 「おー、たいへんそうだねー」

 でも、救いの手は、予想外の姿で現れた

 

 「……アステールちゃん?」

 「うん、ステラだよー?」

 尻尾をふりふり、耳をぴこぴこ。先っぽが黒い狐の耳を揺らして、先が白い二本の尻尾をピン!と立てて。のんびりした様子で緊張もなく騎士団の間に割って入ったのは、皇子さまの縁でちょっとだけ知っている聖教国の教皇様の娘、アステールちゃんだった

 

 「亜人、何をしに来た」

 忌々しそうに、騎士団の人々が剣を構える

 

 ……あ、何にも効いてないです

 アステールちゃんって、わたしは皇子さまから教皇様の娘ってこと聞いてますけど、世間的にはあんまり知名度とか無さそうですし、単なる亜人の娘と思われてそうです

 

 「ステラの眼、きれーだよね?

 おーじさまもきれーだって誉めてくれたし、ステラの自慢なんだよー?」

 けど、アステールちゃんはそんな剣呑な空気をものともせず、キラキラした瞳で騎士団長さんを見上げた

 

 「亜人が邪魔を……」

 でも、そんな上目遣いも虚しく、アステールちゃんの持つ瞳の中に輝く星を湛えた『流星の魔眼』の存在にも気が付かれてないようで

 近づいてくるアステールちゃんをその赤髪の男の人は乱暴に振り払おうとして……

 「止めんか、阿呆狐(あほぎつね)

 星野井上緒(アステール)、貴様は馬鹿息子の評判を上げたいのか下げたいのかどちらだ?」

 焔と共に、突然更なる乱入者が降ってきた

 

 「皇子さまの、おとうさん?」

 一瞬のフリーズ

 皇子さまが話しやすくて、偉そうさが無くて、皇子だって事を忘れそうになるから、少しの間そんな皇子さまのお父さんだから……の先が結び付かなくて

 

 「こ、皇帝陛下!」

 漸くその事に辿り着いた瞬間、わたしは頭を下げていた

 「陛下!?何故このような場所に!?」

 「あ、おーじさまのおとーさんだー

 やっほー」

 狼狽える騎士団の人達と、暢気そうなアステールちゃん

 

 そんな中、空気を変えた当人は……

 「そこの銀髪馬鹿息子の未来の嫁候補

 阿呆狐(アステール)(オレ)にすらも断りも無く他国の都を一人でうろちょろしているというのでな、コスモの奴に色々と難癖付けられおかしな要求を通される前に保護しようと来てみれば、これは一体全体何事だ」

 なんて、呆れた顔でわたしに聞いてきたのだった


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