蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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カラドリウス、或いは婚約者

「……人間か」

 やつれた顔でおれを見るのは、四天王の中では一番話が通りそうな青年姿の魔神族

 

 やはりというか、アルヴィナが普通に会話できたし、話は出来るようだ

 さっきまでは、おれの耳が鼓膜破ったせいで聞こえていなかっただけ

 

 「カラドリウス」

 月花迅雷を下げたまま、おれはそう言葉を紡いだ

 「兄さん、良いんですか?

 弱っている今なら、きっと倒せますよ」

 と、少し魅力的な提案をしてくる始水

 「というか倒しましょう」

 

 ……幼馴染は、やけに物騒だった

 「いや、どうしたんだティア」

 「私、彼にはかなりの私怨がありますから」

 息を荒げ、カラドリウスを睨み付ける始水

 「兄さんの敵になる相手に容赦したくありませんから」

 

 ……そう言ってくれるのは嬉しい。嬉しいんだが、危険な私怨そのもの過ぎるな

 

 「ティア。おれに任せてくれ」

 「ええ。私だと、つい手が出そうですから」

 と、少女は三歩後ろに下がった

 

 「さて、カラドリウス

 とりあえずは、話をしよう」

 と、愛刀の切っ先を床に向けて笑いかけようとするおれ

 しかし、彼は……

 

 「お前が、アルヴィナ様の……」

 その手を振るい、風を飛ばして攻撃してくる

 「っ!と!」

 それを縦に切り払うと、おれはふぅ、と息を吐いて再び刀をさげた

 

 「アルヴィナがどうかしたのか

 何があった」

 「……人間の皇子。一つ聞くが……」

 「アルヴィナ・ブランシュの事ならば覚えている

 無事か?」

 アルヴィナとは敵になるだろうが、今は敵じゃない。それを明かすように、わざと名前を出してしっかりと聞き返し……

 

 「やはり、か!」

 飛んでくるのは更なる風

 閉じられていた大鳥の翼が風を纏い、魔力の光が輝き始める

 「アルヴィナ様を(たぶら)かす悪童め!」

 

 そうして、風の爪がおれに向けて振るわれる。威力はカラドリウスもやつれているからか、前ほどではないが……

 「いや、何でだよ!?」

 思わずおれは叫んだ

 

 「アルヴィナ様の婚約者として、お前を……っ!」 

 ごもっとも過ぎるなオイ!?

 

 「うぐえっ!?」

 思わぬ正論に抵抗の意志が一瞬途切れ、おれはまともに風の爪を腹に喰らい、壁に叩き付けられた

 

 「……兄さん」

 「だ、大丈夫だ、ティア

 ちょっと、婚約者ならそりゃキレるわなって思って、自分が滅びるべき悪に思えただけで……」

 「もう、しっかりしてくださいね」

 

 「……まあ、テネーブルに言って一方的に結んで貰ったものではあるのだが」

 そんなおれに毒気を抜かれたように、四天王はぽつりと言った

 「アルヴィナ側は」

 「『ボクはまだ認めてない。本気なら、ボクに認めさせてみて』と」

 それは自称婚約者では?

 何だろう、いきなり恐ろしい筈の四天王がエッケハルトの同類に見えてきた

 

 「というか、何を話しているんだ」

 「話したいから話しているんだ、四天王アドラー

 おれは、アルヴィナに言ったことがある。魔神族とだって話し合えるなら話し合うさ」

 始水に目配せして、おれは愛刀を壁に立て掛けると、手を柄から離した

 

 「どの口が言うんだ?」

 見据えるような、カラドリウスの瞳。その責めるような眼が、此方を何体も殺しておいてと言っているようで

 

 肩を竦めて、おれは返す

 「何人にも被害を出しているならば、おれは皇子だ。止めなければいけない。おれ個人の理屈で、見逃せない

 だが、それだけの被害が出てないなら。おれはアルヴィナ(ともだち)を信じたい。例え魔神族だとしても、魔神王の妹でも、分かりあえるし手を取れる

 そんな相手だったと、アルヴィナの事を思いたい。だから、同じ魔神族である君にも、アルヴィナの自称婚約者にだって、言葉の手を出すよ」

 「兄には認められているから自称ではないんだがな!」

 何処か元気なカラドリウスは、背の翼から羽根を数枚おれへ向けて矢のように射出して答えた

 

 「……これ以上兄さんに何かするようなら、もう兄さんには任せておけませんね」

 置いた月花迅雷を取るには少しだけ時間がかかる

 それを見越してかもう既におれの右横に立っていた始水が、魔法で何処からともなく産み出した水の壁で全ての羽根を受け止める

 

 「……悪い、でも大丈夫だよ、始水」

 恐らく、ステータス的に当たっても痛くないだろう、あの羽根

 「兄さんは、痛くないから私が弓矢で射られているのを無視しますか?」

 「……いや、無理だ」

 「それと同じです。今の兄さんなら体に怪我は負わないと思いますが、兄さんが射られているのをただ見ていることで私の心には傷が残るんです」

 そんな事を言ってくれる幼馴染な龍少女を宥めるように、やっぱり置いておくのは不味いなと月花迅雷を手に握り直して、おれは青年魔神の前に立った

 

 「対話をしよう、四天王アドラー・カラドリウス」

 「……貴様を信じた、アルヴィナ様を信じるだけだ」

 と言いつつも、カラドリウスは背の翼を閉じ、風を消し去った


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