蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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死霊術、或いは魔神の疑い

 今日も今日とて、日の終わりにカラドリウスにアルヴィナの話を聞こうとする

 

 あれから更に一週間。まだ、遺跡にとばされて二週間だが……既に外が不安になってきた

 増援は来たのだろうか、カラドリウスは一応居なくなって、魔神族のあの砦はどうなったのだろうか。下手に戦端が再度開かれていたら、増援無しでカラドリウスが居なくなって抑えが効かなくなった残りの魔神族が雪崩れ込んできていたら……

 不安は尽きない。数日ならば、流石に何とでもなるだろうって安心感があったんだが……。こうも日が経つと、不安がふつふつと沸いてくる

 

 「どうしてだ?」

 そんなおれの意識を現実に戻したのは、そんな疑問の一声であった

 「どうして、お前はそんなにアルヴィナ様を気にするんだよ、人間」

 警戒するように眼を細めておれを睨み、右腕には小さく渦巻く風を残しながら、休むために膝を折った影はおれに向けて問い掛けてきた

 それは、最近全然答えてくれなかったカラドリウスからの興味の声

 

 「何でそんな事を聞くんだ?」

 「その言葉はそのまま返すっての」

 ……アルヴィナとの仲を疑ってるのか?

 

 そう考えて、どうなんだろうなと横の始水をちらりとおれは見るが、恋だ愛だに付いてはおれより詳しいだろう幼馴染はというと水で作ったクッションで高さを調節しておれの肩に頭を預けてすぅすぅと寝息を立てていた

 ……とりあえず、答えてくれそうにない。カンニングはダメだという事なのだろう

 おれが、おれの言葉で答えなければ意味がない

 

 「アルヴィナとは友達だから。アルヴィナが今おれをどう思っているかは知らない。また出会った時、恐らくは敵同士

 それでも、おれは今もアルヴィナを友だと思っている。演技だとしても、役だとしても、おれと話していたリリーナ・アルヴィナという人のフリの仮面の中にも真実の心があったと信じている」

 「友達、か」

 「友達を心配しない奴が居るか?

 これは、それだけの話なんだよカラドリウス。魔神族の動きが知りたいんじゃない。動向を教えてほしいとは言わない。そんなものを流せば裏切りだってのはおれでも分かる

 ただ、それでも友達の安否を知りたいんだ」

 

 信じられない、とばかりにカラドリウスの背の翼が上を向いた

 「そもそもなぁ、どうやって信じろと言うんだ?」

 頭のアホ毛……いや多分冠羽根を逆立て、苛立たしげにカラドリウスはおれを指差す

 

 「そんな人間の嘘を、どうして?」

 「……嘘。か」

 「信じてる?アルヴィナ様と友達?

 よくもまぁ言うよな。ニーラは純真だから何日も嘘付けば騙されるかもしんないけど、俺には効かない」

 「頑なだな。嘘は言ってない」

 「ぬけぬけと。俺は悪いが、死んでももう二度とアルヴィナ様を裏切る気はない」

 「どうしてそうなるんだ」

 

 ……何故こいつは、おれとアルヴィナが既に敵同士……それも隙あらば殺すレベルのように認識している?

 

 「その眼、戦い方だよ人間

 随分と戦いにくそうにしている」

 「……そうだな」

 おれは静かに始水を起こさないように小さく頷く

 

 「片眼をアルヴィナ様に奪われて、それを気にしていないかのようにいけしゃあしゃあと嘘を吐く」

 ……おれを睨み続けるカラドリウスに、漸くおれは理解した

 

 ああ、成程

 おれがアルヴィナへの復讐のために情報を集めていると思ったのか。おれの左目に治らない呪われた傷を付けた、忌まわしき敵を倒すために、と

 

 「へぇ、なら、この眼はどういうものだ?

 アルヴィナは、どう言っていた?」

 そこで違う!と真実を言うことは簡単だ。アルヴィナにあげたんだと幾らでも語れる

 だが、それで良い訳ではない。アルヴィナの現状が分からない以上、下手に此方から情報を出すことは、アルヴィナへの害にもなりえる

 

 「自慢げに見せてくださった。皇子から奪ったものだとな

 二度と治せない、大事な戦利品だと」

 カッ!と青年魔神は翼と眼を大きく開く

 「実際、左目を喪ったお前はとても戦いにくそうに動いていた」

 それが証拠だと言わんばかりに、カラドリウスは吐き捨てる

 

 ……戦利品、か

 小さくおれは息を吐く

 裏切ったのか、アルヴィナ?元々敵だったのか?

 そんな暗い気持ちが少しだけ沸いてくるが……頭を振って、その翳りを振り払う

 

 振り払える程度には、おれはアルヴィナを信じられる

 

 だってそうだろう?アルヴィナがどれだけおれ達の為に動いてくれた?

 例え死んでも大丈夫な影だろうが、おれの左目と引き換えにするには頑張りすぎだ。ぼったくり価格にも程がある

 

 だが、聞いて良かったな、と思う

 

 「……そうかよ

 そこら辺そう分かってるのか」

 わざと、どうとでも取れるように、左手で傷を撫でながらおれは言う

 

 この眼はアルヴィナにあげたもの。恨みも何もないと言うことは簡単だったが……気軽に言うべきでは無かった

 アルヴィナは裏切ってない証明書のように、おれの左目を使っているらしい。ドサクサで片眼抉って二度と治らないようにしたとか、そういった行動を取ったからという事で、酷い目に遇うんじゃないかというおれの不安をやり過ごしたのだろう。実際に片眼の実物があるんだ、事情を見てなければ通る

 

 それが嘘だとおれが言ってしまったとして、それがテネーブル……全部分かってアルヴィナに憑いているだろうシスコンではない方に知られたら、アルヴィナの扱いはどうなるだろう

 今より悪くなるのは間違いない

 

 アルヴィナが本当に敵に戻ったのかは分からないが、まだおれと友達なら、真実を簡単に言うことこそがアルヴィナへの裏切りだ

 

 「……カラドリウス

 お前、誰の味方だ?」

 始水が預けていた体重を、ひんやりした体の熱をおれから離してくれる

 それを受けておれは、愛刀を握るも突きつけたりせずにそう問い掛けた

 

 「……決まっている

 アルヴィナ様だ」

 その言葉に、きっと嘘はない

 ならば良いか、そう思って……一息つくとおれはもう一度眼の傷を撫でた

 

 「本当にそうか?」

 「アルヴィナ様に誓う」

 此処で魔神王や万色の虹界ではなくアルヴィナを出すなら、信じよう

 

 「そもそも、あの眼は……欲しがっていたからおれがアルヴィナにあげたものだ

 それでおれがアルヴィナを恨む訳がない。寧ろ大事にしてくれているならそれで良い」

 「……」

 「そもそもだ、カラドリウス」

 

 おれは父から聞いた話を思い出す

 おれがあげた犬は、どうなっていたかの顛末を

 「アルヴィナがそうやって持っているのは自分が気に入ったものだろう?

 それに、死霊術は死者と想いを繋ぎ継ぐものだとアルヴィナは言っていた

 それならば、単なる敵同士であれば、おれの眼を死霊術で持っていられることは可笑しいだろ?」

 その辺りは良く知らない。おれに魔法の力持ち知識もない。それでもおれは、口からでまかせで都合の良さげな解釈を言葉に乗せた

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