蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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鋼鉄、或いは巨人

「アイアン、ゴーレム……」

 呆然としたエッケハルトの声が、耳に反響した

 

 「走れ!何処へでも良い、兎に角逃げるように!」

 即座にその言葉を吐けたのは、おれにしては凄かったと思う

 恐怖にかられ、居場所を知らせる松明なんて放り出し。子供たちは各々蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。それで良い。それで逃げられる子供が出るならば、十分じゃないか

 

 ……だというのに、だ

 「アナ、お前も逃げろ」

 一人、逃げない少女が居た

 「皇子、さまは?」

 「おれは良いんだよ!誰かがこいつを止めないといけないだろ!」

 「そうだぜアナスタシアちゃん!皇族がそのプライドで時間を稼いでくれている間にこの俺と逃げるんだよ!」

 「おいこらエッケハルト!お前は残って戦え!」

 「死ぬわ、殺す気か!」

 「当たらなければ死にはしない!」

 「当たったら死ぬんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 「必殺でなければ一発は耐えるかもしれないし、死ななきゃ安い」

 そんな漫才も、半分くらいは現実逃避で

 「アナ、自分が生きることだけ考えて」

 既に子供達が投げ捨てた松明の火は草原に広がり出している。まだまだマシとはいえ、燃える中を突っ切れと女の子に言うことは出来ない、逃げるのはもう無理だろう

 

 アイアンゴーレム。鋼鉄の巨人

 ゴーレム関係の魔法の中でもその強さから特に良く使われ、脅威とされる魔法だ。より強いゴーレムは、ゲーム版アイリスとかいうチート以外だとどう足掻いても上級職のしかもレベル15以上でなければ作れない為製作出来る者がまずとても少なく全然使われない

 術者によって多少色々な能力に差こそあるものの、大体の場合は……HP250、MP30、攻撃90、防御80というのが基準値

 おれの攻防が50ちょい、人拐いのリーダーが40無いだろうくらい、アナが多分一桁と言えば、そのヤバさが分かるだろう。というか、ゲーム版でのおれ、つまりは上級レベル10加入の序盤お助けキャラであるゼノでHP153、攻撃96、防御93なのでHP以外そのおれと同程度である

 この世界の基本は攻撃引く防御=ダメージであることを念頭に置くと、HP+防御が90無ければ一発で殴り殺される。おれのHPも90くらいなので、おれだと大体3発食らえば死ぬ計算だ。因みに、エッケハルトは耐えるかどうかは知らないが、とりあえずアナ達普通の子供はオーバーキル。3回くらい間違いなく軽く死ねる大盤振る舞いだ

 ……絶対に、彼女らにその拳を向けさせてはいけない。そんな苦しみの中、死なせてはいけない

 そして此方は、とりあえずダメージ通す手が現状無いので数万回殴っても勝てない

 

 「エッケハルト、魔法は?」

 「無理。何もない」

 「知ってる」

 だが、そこはゴーレム。人間ではないので脅威とはいえ弱点はある。魔法だ

 当然ながら、鋼鉄だろうが木だろうが泥だろうが、ゴーレムの魔防は0である。簡易対魔法バリアを付けられている個体も居たりはするが、それも所詮は後付けのバリア。元々の魔防0には変わりがないのでバリアをガス欠にすれば素通りする

 なので、どれだけ堅かろうが魔法で滅多撃ちにすれば倒せる訳だ。だからこそ脅威とはいえ、騎士団等からはたとえ敵が使ってこようと被害は出るが勝てる相手と認識されている

 

 ……だが、それは魔法を撃てる人員が揃っていて、の話だ。魔法書が無い現状、その手は使えない。正確にはあのヒートブレードはあるのだが、射程1である。死んでこい宣言でしかない

 必殺は1.5倍なのでおれの必殺ならば数値的には通りそう……ではあるのだが、武器が鉄格子の成れの果てでは無理だ。必殺なんて出せる訳もない

 正確に隙間なんて狙えないし狙えても幅広過ぎて入らない。ゲーム的に言えば必殺マイナス武器で必殺にマイナス補正がかかるゴーレム相手に現状必殺は出せない

 つまりだ、勝ち目はない。いや、ひとつあるにはある。致命必殺が

 

 「ふははははっ!これがっ!切り札だぁぁっ!どうだ皇族さんよぉっ!」

 高笑いをあげるのはリーダー

 成程、切り札のゴーレムはアジト外に埋めて隠しておいていたようだ。道理で、あそこで大人しく捕まった訳である。道中恐らく埋まっている辺りを通る、そうすればゴーレム起動で逆転が出来るという訳か。ストーンゴーレムくらいなら何とかぶちのめせるから行けるかとたかをくくったおれのミスだ

 まさかアイアンとは。上級職になる直前まで行けたならば、天才肌の傀儡師ならば行けなくもない領域であるのだ、アイアンゴーレム作成も。まさかそんな人材が人拐いのゴロツキなんぞやってないだろうと思っていたのが甘かった。騎士団でも食っていけるだろうに

 

 「惜しいな、騎士団来る気ないか?

 良い線行けると思うんだけど」

 「ざっけんな皇族ぅっ!淫行多発だ何だで解雇しておいてよぉっ!」

 その場で何とかしとけそこの騎士団っ!追放した結果コレかよ!

 と、叫びたくはなるがまあ、仕方の無い事といえば仕方の無いこと。多分、ゴロツキ云々で自分達に仕事が回ってきて解決して……とか思っちゃったんだろう。真実は知らないがおれの中ではそういうことにしておこう

 「手は傷つけられて弱くなったが、こいつがありゃ関係ねぇ!

 あんの騎士団のヤロー共にも隠していたアイアンゴーレムでやってやらぁっ!

 年下に、欲情することの、何が悪いぃぃっ!」

 その言葉と共に、ゴーレムが青い目から……ビームぅっ!?

 間一髪、横に避けて事なきを得る。背後の石が、綺麗にビームの円にくりぬかれた。一部ゴーレムに搭載されていることがある魔法、ビームライフルだろう。ゴーレムビームかもしれないがそのどっちかだ。何でそんな名前なのかは、魔法書の作者に聞いてくれ

 ゴーレムにビームを打たせる魔法だ。予め製作時に唱えておくことでバリア用の貯蔵魔力(MP)を消費してビーム魔法を撃てるようになる。威力は出回っている魔法書ならば70固定、減衰は魔防、射程は1~10で直線上に貫通する

 一発撃つだけで貯蔵が大きく減るため数発が限度(アイアンゴーレムに貯蔵されているMPは大体25が基準値で、ビーム一発で10消費する。バリアは一回1なのでバリアの10倍は魔力を使うわけだ、低級ゴーレムならばそれ相応に貯蔵魔力も低いので一発しか撃てない切り札だったりもする)

 だが、まあ、70固定の時点でその驚異は分かるだろう。おれや魔物なら70素通しである。魔物退治にそこらの騎士団で使われたりした際に、最強の壁であり最強の砲台にもなれる訳だ

 

 「行け、我がゴーレム!」

 「「「やっちまえ、アニキーっ!」」」

 やんのやんの。まだまだ縄かかったまま元気なことである。形成は向こう有利なので仕方はないが

 「ってか、何歳に手を出したんだよぉっ!」

 「14だ!」

 「犯罪じゃねぇか!」

 因みに成人は15だ。15以上ならセーフである。何故あと一年待てなかったんだ

 「そうだぞ!ロリコン!」

 「ロリコン?意味は知らんが、うるせぇぞ貴族のガキ共!体はどんどんと花開きつつも心は蕾のままってアンバランスさが良いんだろうが!」

 「「そうだそうだ!さっすがアニキ、わかってるぜ!」」

 「いやもっと幼い子をオトナにするのが……」

 なんのかんの。実に賑やかな事である

 その間に致命必殺を狙おうとは思ったのだが……間合いが難しい。恐らくはコアだろうあの青い光を、目を破壊しようとは思ったのだが、子供の体格ではどうにも遠い。成人男性の倍の体格のゴーレムの頭まで駆け登るにも時間がかかり、対応されてしまうだろう。摺り足でこっそり近付いてはいくが、決定的な動きはやれない

 

 「はっ!ゴーレムだってお前を倒せば……」

 「いやエッケハルト、術者自身が死ぬと無差別暴走モードになるようにしたゴーレムは割と多いぞ」

 「そうだったわ!畜生!」

 「その通り!」

 「「アニキぃ、オレ達もっすか?」」

 「無差別なんだからそうだろ。いっそ殺すか?この縄で繋がった奴等を殺してる間にアナ達は逃げられるかもしれない」

 やった時点で皇族失格ものである。上手くいっても酷い扱いだろう。人拐いとはいえ、問答無用で殺して良い法律はない。捕らえるべきなのだ。あくまでも気を引くための冗談

 「さあ来いクソ皇族!実は俺はお前に勝ち目はないがこの俺を殺したらゴーレムが無差別に皆殺すぞぉっ!」

 

 「ふざけんなぁぁっ!」

 だが、迷っていても仕方はない。覚悟を決め、おれはゴーレムへと走る……!

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