蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「カラドリウス!」
「俺に、頼るな!」
そんな軽口を交わしつつも、雷撃と烈風が開けた遺跡の広間を飛び回り急襲する巨大なブースターウィングと二槍を携えた影をクロスに斬り裂いた
「……終わりか」
「終わったな」
「私が認めている以上、本気の本気で排除まではしてこない筈なので恐らくは」
始水の言葉を受けて、おれはふぅ、と息を吐く
カラドリウスと和解?して少しは話せるようになってから、早3週間。そろそろ始水の言っていた1ヶ月……6週間が経とうとしていた
「明日には着くかな、始水?」
「いえ、もう着いていますよ、兄さん」
そう言われ、おれは広間の周囲をキョロキョロと見回すが……ここ一ヶ月で見慣れた場所だ。無機質な床と壁、サイバーな青いライン……いや、緑や赤、黄色いラインもそれより頻度が低いものの時折壁に走る他は、石のようで石より硬質な材質で覆われた何時もの遺跡だ
入ってきた道の他にも出入り口はあるし、これが目的地と言われても……門らしきものは何処にもない
「本当なのか、始水」
「マジかよ、何度か大部屋あったけど見分けが全くつかないわこれ」
おれだけかと思ったが、風の魔神であり転移だ何だに詳しいであろうカラドリウスがぼやく辺り、決して分かりやすいものではないようだ
「本当に見棄てられてるなカラドリウス」
「アルヴィナ様は気を付けるように最後に言ってくれたんだが?捨てられて無いが?」
「いや、アルヴィナ以外からだよ。此処で二度と出られず朽ち果てても良いと思われてたんじゃないか?」
「そもそも俺が消えてもフィードバックはほぼ無いからな。捨てられて無い」
「でもアルヴィナは一年寝込んでたんだろ?
起きれて本当に良かったと思うけど、そういう恐怖はないのか?」
ここ3週間で話は聞いた。アルヴィナが一年ほど本体へのフィードバックで昏睡していたこと等、色々と
どこまで話して、何を言っていなかったのかも擦り合わせておいた
朦朧とする意識の中見た帝祖皇帝等はアルヴィナの死霊術に答えた彼本人であり、完全復活して再起動したATLUSを撃破した事等、状況証拠からの判断がアルヴィナ視点でも正しかったという裏付けも取った
次に会う時は敵だと、敵として出てきた時に動揺しないように思い続けていたおれだが、ちょっと揺らぐ
アルヴィナが、おれとの友情を今も大事にしてくれている話を聞いては、刀を握りにくくてかなわない
それはともかくだ、一年眠るくらいのダメージを追う可能性とか考えなかったんだろうか
「あのなぁ、本当は何か次元の違う力持ってるのかよ人間。なら隠してると為にならないぞ」
「おれは何時でも全力だ」
「俺相手に、刀の腹を使ったりしてた癖にか?」
「お前を傷付けてもしょうがなかったからな。本当は軽々しく使うものじゃない神器なのに防戦に使った辺り、本気だったよ」
鞘がなく剥き出しのままの愛刀の峰を軽く撫で、おれは言う
「あー、話しにくい。お前の中では本気なんだろうな、それ
俺には手を抜かれたように思うんだが、そこは感性の違いか」
「ええ、兄さんは何時でも本気です。ほぼ冗談なんて言いませんし、正気を疑うような発言も大体正気で言ってます」
と、兄さんは何時も何時も……とカラドリウスとやりあって以降おれの周囲から離れなくなった龍人の少女が呟いた
「それ、フォローなのか」
「いえ、愚痴です兄さん」
そう言いつつも、少女はおれの横を離れようとはしない
でも始水、氷で作った手錠をちらりと見せるのは止めてくれないだろうか
「ま、最悪アルヴィナ様に造って貰ったこの体を捨てることにはなるが自殺すれば良いからな
アルヴィナ様から、ああした力は取り出してから降臨するまでに、お前らのえっと……」
ぽん、と青年は一つ手を打つ
「そう、ライオウ。あのライオウみたいにタイムラグが生じるって話は聞いてるからさ
今はリンク切れてるから意味がないんだけど、リンク繋がってるならば降臨の合間に自殺すれば良いやって判断」
ああ、確かにとおれは頷く
確かにおれが見たAGX系列って、黒鉄の腕時計のベゼルを展開したら何処かから転送されて姿を現すみたいだからな。腕時計を取り出してベゼルを回転させるというタイムラグが生じる
その間に攻撃した場合に通るのか障壁に防がれるのかは微妙なところだが、少なくともちょっかいを出さずに自殺して情報を本体に持ち帰るくらいは可能だな
それを言えば、おれのアレもそうだろうな。あれもノータイムで何時でも掌の中に現れる刹月花と違って、変身!ってやる時間が必要っぽいし
「そういう判断だったのか
おれが見た中では、刹月花以外には通用するだろうな」
「刹月花……アルヴィナ様を襲ったあいつか
一応、あれは直接攻撃力がそこまででもないとアルヴィナ様から聞いていたから問題ないだろうと」
「確かにあれが厄介なのは純白の決闘刀という点。誰か他人が狙われていたら、戦う二人以外の時が止まるせいでそれを助けられないという能力
自分を狙ってくる想定ならば、特に問題はないのか」
色々と考えてたんだな、カラドリウスも
「まあ、それは良いんだが……
近付けた上に、門の在処まで明かすのか」
「どうせ今の貴方では門の先で召喚だの何だのは出来ませんし、私の案内無しにもう一度此処を見つけられるとも思いませんからね
兄さんが居ることもあってサービスですよ」
「舐められてんなぁ……
それを残念と言って覆せないのが何とも」
と、肩を竦めるカラドリウス
「で?そもそもさ、人間とそこのクソドラゴンはどうして門なんて目指してたんだよ」
と、彼はふとそういえば始水と二人の時に決めたことだから話してなかったなーな話を持ち出してきたのだった
「契約の為」
「兄さんの為です。元の世界に戻るにも、門の辺りからしか外に出られませんからね
遺跡自体は物理的な出入り口なんて造られていませんし」
「そう、始水が遺跡から離れられるように、おれが遺跡の防人を共に……」
不意に、風が吹く
「てめぇら、何を企んでいる」
「カラドリウス?」
と、おれは少し不思議に思い風の主を見る
「どうしたんだ」
「どうしたもこうしたもねぇっての
ボロ出すにしても可笑しな所で出すなぁお前ら」
「いや、何を……」
「契約を交わすためだと?俺が真性異言どもとお前をやりあわせて相手の力を測ろうとニーラ達と組んで襲撃した時にはとっくの昔に契約していたろう奴等が良く言うぜ
本当の事を言えよ、人間」
「……へ?」
そんな風に呆けながらも、おれは……
内心やっぱりそうなのか、なんて妙な納得をしていた
だが、それはそれとして……
「いや、待て、本当なのか始水!?」