蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
改めて眼前の兄を見る
ルー姐……ルディウス皇子。七つの皇+七大天の名を冠する帝国最強騎士団群……って最強と群が並列してるのが可笑しい気もするが、帝国の軍部でも同列のトップ七集団のうち一つの長
スペックとしては……ゴルド団長の超上位互換の一言で済む
どれくらいヤバい人かというと、今より強い原作のおれとほぼ同等。月花迅雷の存在とアホみたいなステータスから基礎物理性能で劣るが、その分鎧装使いで平均的に強くバランスが良い
皇族の中でも特に強い側……ってまあ、ゲーム内では出てこないのでこれはおれが模擬戦して確かめさせて貰った際の所感なんだけどな
逆に強すぎる、つまり
いや、今から見れば未来の話だが、このまま行けばそうなるだろう。ルー姐はそれだけの強さ、聖女だ何だ無しに単独で騎士団を率いて立ち向かい護り抜くだけの力と心の持ち主だから
うん。外見が美少女で香水も薫るし声も変声前というか女で通る少年声のままだけど、そういった事情が無ければ普通に攻略対象行けるような人だとは思うんだ
おれがまだ7歳くらいの頃からずっと女装してるだけで。うん、良い人だし自慢の兄ではあるんだ。外見が姉な以外は。あと、男同士だから距離が近い以外は
目の前のアルカイックスマイルのツインテール軍服美少女は、本当に罪作りな兄である
「ルー姐。ルー姐はこれからどうする?」
「んー、ちょっとゼノちゃんの為に残りたい気はあるけど、あんまり長く騎士団を空けてられないしねー」
「あれ?あの騎士団に団長が居なければいけないような理由が?」
周囲を見ても皇狼騎士団は来ていないようだ。あくまでも、団長ルディウスが一応トップ?な皇族が行方不明な穴を埋めるために来た、という形なのだろう
「ほら、ナラシンハの出現とかあったじゃん?」
こくりとおれは頷く
「ゼノちゃんが警告してたアレ。あれが真実だと僕等が裏付けを取ったお陰で、警戒度が上がってね
ルー姐も忙しくなっちゃったんだ」
言われてみればそうだろう。おれ自身、父にはある程度こういうことが起きるかもしれないという話を残していた
ゲームの前日譚というか過去改装で存在した話通りに進むとは限らない。現に、本来はガルゲニア公爵家で起きる血の惨劇は下手人であるシャーフヴォルが既にATLUSを使ってエルフ等を襲い、そして逃走しているから発生しないだろうといったズレがある
それでもいくつか、止められるなら止めたい話があって……
「だから、ゼノちゃんに色々返したらルー姐は帰るよ
それとも……」
気楽におれに向けて中性的で整った顔立ちを近付け、軽いスキンシップのようにその兄は呟く
「ゼノちゃん、ルー姐にまだ助けて欲しいの?」
「いや、大丈夫
おれだって、皇族の端くれだから。でも、ルー姐、良く助けてくれましたね、おれの事」
「ん?」
「いや、結構厳しいイメージがあったから」
「んー、僕としてもシル兄ちゃんと袂を分かつみたいな噂とか困るからあんまりアイちゃん派に肩入れは出来ないけどさ」
スカートの裾を翻して距離を取りながら、その女装癖の兄は告げる
「ルー姐、アイちゃん達を買ってるから
少なくとも、ゼノちゃん達を蹴落として高い継承権を維持してのんびりしたそうなお兄ちゃん達よりも何百倍もね」
……まあ、それもそうか
僕は今美少女だからとか変な理屈で継承権争いだなんだを捨てて……って捨てれてないけど、自主的に継承権をおれの一つ上に変えさせて騎士団に入った人だものな
……いや、自主的に継承権放り投げてもおれの上なのか……ってなるんだけど、それはそれだ。そもそもおれ、父からも言われているが致命的に皇帝なんて向いてないからな。最下位固定もやむ無し
まあ、家の皇族というか皇帝に求められてる本来の役割というのも、普通の皇帝とは違うんだが
あれだ。曹操や諸葛孔明より呂布を求められているというか……
「ルー姐好きだよ、そうやって自分達が貰っているお小遣いは民の為に働くからこその金なんだって分かってる子」
それには素直に頷く
そりゃそうだろう。日本円にして月の小遣いが数百万……って明らかに可笑しいからな。自分のために自由に使うためのものじゃないだろこれ
「それに、ほら
ルー姐は信心深いから」
からからと少女……ではなく青年は笑う
実際、新年の祭りの前には基本的に白亜の塔で七大天の像への礼拝を欠かしたことはないらしい
「そんなルー姐が、未来の教皇から頼まれたらそりゃ断れないでしょ?」
「アステールが……」
「ステラ認めてないから、おーじさまを助けて、余裕が出来たら連れてきてねー、って」
「……困ったな」
「いやー、好かれてるね、ゼノちゃん?」
「何時か覚める夢、だとおれは思うんですがね……」
「いや、僕は男の人だから覚めなきゃいけない夢だけど、ゼノちゃんはどうかなー」
「
「その割には、女の子周囲に多いよねゼノちゃん」
「……まあ、確かに」
4つ上の兄だ。気楽に、男同士だからかそういった話にも踏み込んでくる
「というか、ルー姐はルディ兄に戻る気とか」
「それは、ゼノちゃんの回りに女の子多いからかなー?」
「いや違います」
今でもアイリスにノア姫に始水って三人も居るからな、女の子
「んー、女の子の味方する為に女の子の気分になったら、気に入っちゃったからねー」
さて、と兄はおれの頬をその細い指でつつく
本当に、こんな体の何処におれと同レベルの馬鹿力があるのやら
まあ、おれも体格は中学生くらいだし、ステータスが体格に依らないから、線の細い中性的な外見のままになってるんだろうな
「それで、ゼノちゃん
……僕がやろうか?」
不意に、『僕』という本来の一人称で、兄はおれに問い掛ける
「関わった相手には基本甘いからさ
一旦は共闘した相手、カラドリウス……本当に戦える?」
「戦うさ、ルディウス兄さん
おれは、民を、皆を護る皇族だ」
「いよっし!オッケー良い目!ルー姐満足!」
パン!とおれの頬を、ルー姐は自身の両の手で気合いを入れるように叩く
「ゼノちゃんは逃げてない。揺るぎ無い事実な以上、あれこれ言う他の兄ちゃん達はルー姐に任せといて!
じゃ、騎士団空けすぎたし、王都でやることも出来たから、帰る!
……あ、その前に」
と、踵を返そうとした瞬間に肩越しにおれを見て、騎士団の長はぽつりと言う
「面白そうだし、タテガミの子を家にくれたりしない?アイちゃんに言ってもお兄ちゃんが連れてきたからお兄ちゃん次第の一点張りでねー」
「民を護るための家の最強戦力で数少ない友人を取ってかないで下さい」