蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
空に輝く星を見る
見上げた空には2つの太陽。そして、それですらかき消せない輝きを放つ煌めく風……カラドリウス
これから奴は地面へ向けて墜落し、片方を殺す
そう、おれに宣言した
ならば、おれがやるべき事は護り抜くこと。あれだけ啖呵切ったんだ、結局プリシラ達は死んだじゃ話にならない
護り抜く、護り抜かなきゃいけない。ならば……どちらに墜ちてくるか、それを見極め、切り裂け
そう思うが……おれの足は動かない。ひたすらに地面を掘った手は流石に爪がひび割れ血に染まっているが、足はそうではない
単に怖いだけだ。流石に数十mもの距離は、刹那のうちに駆け抜けるとはいかない。おれが、カラドリウスの言う『おれが護る筈の方』を間違えた時、間に合う距離じゃない
間違えれば団長かプリシラは死ぬ。その恐怖が、どちらかへ向かわなきゃという歩みを止めていた
小さく歯噛みする
こんなんじゃいけない。動かなければどちらかではなく、両方死ぬ可能性がある。どちらを殺しに来るのかを見極めてから、そちらを護りに行く?それで間に合わなければ……後悔するだけだ
でも、おれには……
そんな思いを振り払い、強く鞘に納めた愛刀を握り締めて覚悟を決める
「おれは、プリシラを護りたい。レオンに誓ったんだ」
そう、だからこそ……
立つのは、ゴルド団長が吊るされた十字架の方
そうだ。護りたいとか色々と考えるから悩む。だから、難しくなる
プリシラを助けて何になる?レオンとの壊れた縁が少し直せるだろう。それはおれにとって嬉しいことだ
だが、団長を助ければ、プリシラが死んだとして……誰か他の民を護れる。彼は騎士団の長だから
そう。最初から答えなんて決まっていたんだ。護るべきは、より多くを護れる方
例え向こうがアナだとしても、答えは変わらない。おれにとって大事かどうかなんて、考慮に値しない
その覚悟で、空を見る。星の如く輝くその生きた流星は……
っ!
思わず走り出しかける。空から錐のように降ってくる嵐は、確かに……此方ではなくプリシラをミンチに変えるべく落ちる挙動
だが……歩けない、間に合わない
ならばっ!
「伝っ!雷」
中腰に構えた愛刀の雷撃を解放。鞘の中で炸裂。魔力の大半を通さない性質故に雷撃を放つ刀なんてものの鞘として成立する金属……オリハルコンの性質を利用して、放たれる雷は鞘に一つだけある穴から噴出する
そのエネルギーの爆発で揺れる鞘を腕の力で抑えこみ、砲身として……噴き出す雷撃をレールとした疑似レールガン
魔法ならざる魔法擬き
本来は、放つのは特注の魔道具のナイフなのだが、手元には生憎ない。ならば、本体を飛ばすまで
「砲刀ォォォッ!」
伝来宝刀ならぬ、伝雷砲刀。雷速のレールガンによる、刀の射出投擲
今回の玉は……本来は使玉としてわない、月花迅雷そのもの。振り抜いた手を離れて加速する刀は、おれには届かぬ速度で空をかっ飛んで降り注がんとする嵐の錐へと衝突し……
「っ!」
咄嗟に残された鞘を順手へと持ち変え、大上段から振り下ろす
オリハルコンという硬質の希少金属で出来た鞘は、それ自体がそこらの剣よりも強い。そんな鞘が……へぇ……とばかりに不意に降りてきたカラドリウスの爪を捉えた
ガギンという硬質な音
「カラドリウス、お前……」
睨みながら横目でプリシラの方を見る
嵐を吹き散らし、プリシラの頭の上に突き刺さる月花迅雷。その風の中にカラドリウスの姿はない
そう、あの嵐の錐は単なる遠距離攻撃。強烈なものではあるが、ただの囮であり、本体はその隙にゴルド団長の首を狙ったのだ
……気がついていた訳ではない。間に合うと思えば、団長の元を離れて駆け出してしまっていたろう
だが、その……言いたくはないが怪我の功名が、何とかカラドリウスを止められたのだ
「お前ぇぇぇっ!」
「おいおい、俺はお前が護る筈の方を殺しに行くとは行ったけど、もう片方は許してやるとか一言も言ってないんだが?」
挑発するように、風を纏う四天王はおれを見下すようにそう告げる
「ってか、最初から両方殺す気だった訳で、片方護らせてやったろ?」
「お前はっ!」
わかり合えた。敵同士なのは変わらずとも、少しは理解できた
そう思っていた……
苦々しさと共に、鞘を握る。神器本体は投げてしまったので、鞘頼みだ
「……まあ良いや。お前は結局、相手が誰だろうと護らなきゃいけないものは覚えてるって事は分かった」
何かを値踏みするように、少しだけ険しい眉を緩めて、カラドリウスはそんなことを呟く
が、その意図はおれには分からなくて
「じゃあな」
数十m先に嵐が巻き起こる
……防ぐことなど、止める術など無かった
正眼に構えた鞘でその喉を突きに行こうが、宙を舞う翼を捉えきることは出来ず
局所的な嵐がプリシラを捕えた十字架を中心に吹き荒れ……
消えたその時、ズタズタになったメイド服の切れ端だけが、風に舞い上がって突き刺さったままの月花迅雷の角に引っ掛かった