蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
わたしと……あと、皇子さまにちょっと近付いてくる事もあって、何となく狙ってるのかな?って桃色の子……初めて名前を知りましたリリーナ・アグノエルちゃんに呼ばれて、シノロワールさん?だと思う金髪のイケメンさんとお揃いの軍服を着た灰っぽい髪の青年はほんの少しだけ、此方を振り返ります
その片方しかなくて多くの人から侮蔑的な視線を向けられていた血色の瞳がわたしを、そして次にリリーナちゃんを捉えて……
昔みたいに「アナ」ってぎこちなく笑いかけてくれるような表情ではなく、良く見せていた眉を寄せて奥歯を噛み締めるような顔つきに変わりました
どう、して?やっと、会えたのに。なんでそんな、苦しそうな顔をするんですか、皇子さま?
二匹の仔犬のうち一匹しか助けてあげられなかったって言った日のように……悲しそうな目をしないで下さい
そして、ほんの少しだけ目を合わせてくれたかと思うと彼は無言で前を向いて
閃光一閃。横凪ぎに抜刀された蒼い刃が空を裂き、門を踏み越えようとしていた化け物二体の足を根元から切断、大地に転がしました
「いよっし!完成!
サンキューゼノ!『クリエイト・ファイアゴーレム!』」
そうしているうちに、エッケハルトさんが作ろうとしていた魔法が完成。もう一度炎が集まっていって……
『グルシィィッ!』
えっ?
無くなったはずの、皇子さまが切り落とした筈のドラゴンの首から先が復活していました
それも……二頭になって。その二つの頭の両方から、熱線が放たれ……
「ゼルフィード!『霧消のクラウドフォグ』」
そのうち一本は、巡礼者の巨神がその翼状の肩掛けマントを翻すと拡がった霧のようなオーラに飛び込んで完全に消え去りました
けれど、わたし達を狙う方はそのまま門の隙間を縫って……
ドゴン!という音だけが響き、熱さすらなく。真横を抜けていく熱線の前に突っ立って、一人の少年が真っ正面から左手の甲でそのブレスを受け止めていました
「え?ゼノ、くん?」
「問題ない。こんな!炎属性の"物理"攻撃、効くかよ!」
そして、彼は……顔の前に翳した左手で、熱線を振り払う。その手の甲には火傷こそあるものの、大怪我には程遠いくらい
完成前のゴーレム?は一発で破壊したのに。あ、相変わらず滅茶苦茶な身体能力……
「……だから、行かせないと言っている」
トン、と軽い跳躍。途中で一回半端に閉じた門の扉を蹴って、それだけでわたしの身長の5~6倍くらいの高さまで飛び上がり、彼を飛び越えようとしたモモンガのような魔物の顔の高さにまで来ると、そのまま右足の力だけで支えの無い横蹴り。
膝で顔を潰すと……めり込んだ右膝を軸にくるっと体を回転。モモンガさんの上を取ったかと思うと、左踵落としで彼が跳躍している間に門を抜けようとした触手の化け物に向けて蹴り落とし、二体を地面に叩き付けます
そんな空中の彼を狙って飛んでくるのは、きりもみ回転する鳥のような……嘴がどりる?っていう硬いものを掘る土属性の鉄魔法そのものになった魔物
それが、空中で足場もない彼の脇腹を狙って
「皇子さま!」
「……すまない」
でも、灰銀の少年は少しだけ悼むように目を閉じて、小さく口火を切るだけ
下方向に迸る雷撃。それを……どうやってか足場にして、空中で更に背面方向へとアーチのような軌道でちょうど鳥魔物を飛び越えるように跳躍した皇子さまは、鞘走る刀の一閃で鳥をまっぷたつに両断
「伝哮雪歌!」
更に、縦半回転して門の外を向いた切っ先と地面の一点……いえ、悠然と更新する熊のような巨体と装甲を持った鼻が腕より長い変な前屈み二足歩行の生き物の胸元に、ぱちりと赤い雷線が結ばれた瞬間、彼の姿は空中で紅と蒼の閃光と化す
次の瞬間、完全に踏み込んで貫いた形で真っ正面に刀を伸ばして地面を踏みしめていた彼の背中が、大穴を明けて灰になりながら崩れ落ちる熊?の背後から現れた
「つ、つっよ……」
って、ぽかーんと口を開けたリリーナちゃんがぽつりと漏らしますけど……当然ですよ?だって、皇子さまはずっと戦ってきたんです。わたしは見ていたくなかったけれど、傷だらけになりながらも、ずっと、誰かのために
自分の為だよって、寂しそうに笑いながら
「さっすが、序盤お助けキャラ……」
って、その言葉の意味は分かりませんでしたけど
助けてくれる人なのはそうですけど、その他の言葉は何なんでしょう?
そして、双頭になったドラゴンを見据えながら、皇子さまはバックステップで身長の数倍の距離を駆け抜けながら、追い抜いた魔物を最小限の動きで斬りつけて地面に転がして、門まで戻ってきます
その間に、何体か門を越えてきちゃって……
「皆!ゴーレムの後ろに!
盾になるから安全の筈!」
って叫んだエッケハルトさんが、気が付くと何故かターバンを巻いて何処からか持ってきた弓を構えてながら叫びます
「良い、エッケハルト!
これを使え!」
って、ゴーレムの背後に逃げ込むわたし達を見ながら、銀髪の少年は手にした銀の鞘に収まった神器を、ドラゴンの方を向いたまま、門から後ろ手に投げ、鞘はゴーレムの目の前に突き刺さります
「
唖然と呟くエッケハルトさん
「使え!今のお前なら振るえるだろ!」
「でもさ!?」
「門から雪崩れ込む相手が多いが、全部が全部じゃない!
シロノワールと共に聖女を初めとした皆を護るなら、おれよりお前が強い方が都合が良い!」
「っ!分かったよ!後で突っ返すからそれまで死ぬなよ!」
「……当然!」
って、エッケハルトさんがターバンをほどいて、代わりに変な兜を取り出して被る中、神器を手離した少年は静かに腰に差していた二本目の……鉄の色をした普通の刀を鞘ごと左手で引き抜き、構える
「皇子、さま」
「アナ。ごめん、勝手なことをいうけど……皆の傷を治してあげてくれ」
「はいっ!」
よかった。忘れられてた訳じゃ無いんですね?わたしは、わたしだと認識して貰えてたんですね
でも、なら、なんであんな目を?
声を掛けてもらってこんな時なのに嬉しくて、悲しくて、感情が浮き沈みして……
暫くして、巡礼者の拳が、残った片方のドラゴンの頭を叩き潰し、ドラゴンは地面に倒れ伏しました
「やった!」
その言葉と共に、リリーナちゃんは駆け出して……
「来るな!」
でも、険しい顔のまま、皇子さまは叫びます
「……え?」
「魔神族はマナの塊のようなもの。死ねばその体は結晶になって砕け散る!
それが無いということは……」
振り返った皇子さまの背後で、ドロドロになって溶けていくドラゴンの体。半分液体になった肉と、まるっと残る……黒い骨
そして、それぞれが起き上がる
濁流のような腐肉の竜と、骨だけの竜。完全に二頭になって、大地に立つ
「……ガイスト、行けるか?」
「不吉な赤星は、僕の頭上に落ちないさ」
「上等!決めるぞ!」
巨神へのアイコンタクト
それだけで、皇子さまは通じあったみたいなんですけど……
「ついていけねぇ!?あと神器の火力スゲェ!?」
わたしにはちょっと着いていけなくて
皇子さまみたいに一閃で終わらせるんじゃなくてブンブン振っているだけで、それでも乱雑に放たれる雷撃でわたしやリリーナちゃんや集まってくる生徒達に近づく皇子さまにもゼルフィードにも対処しきれなかった残りの魔物を蒼く透き通った刀で追い払い、ゴーレムって呼んでいる炎で出来た巨大な四足歩行のデブネコちゃん?のパンチやシロノワールさんと共に最後の砦になっているエッケハルトさんも同じだったみたいで、目を見開いて言ったのでした
そして……
「ライオォウ!ランサーッ!」
骨だけの翼で飛び立とうとした骨の竜の胴が、放物線を描いてわたしの背後から飛んできた大きな鉄の槍に串刺しにされ
「死霊術……」
ぽつりと呟く皇子さまが、それでもシロノワールさんと
「分かるな」
「分かるさ!」
って、やっぱり分からない一言のやり取りを交わしたかと思うと
「雪那!」
わたしには到底見えない速さで普通の刀を抜刀。明らかに刃は相手に届いていないのに、見えない刃に切り落とされたように、そのおっきな頭蓋骨が縦に真っ二つに割れて……黒い骨全てが砕けて、消えていく
「征嵐のテンペスト!」
同時、巡礼者の巨神の合わせた両の掌の間から膨れ上がった竜巻が、流体になっても竜の形を保って動き出した肉の塊を粉々に引き裂いた
そして……
「皇子!ガイスト副団長!川から上陸してきた軍勢の掃討は私が済ませた!」
一息の跳躍で一気に結構大きな5階立ての建物……自身の全長よりも大きな建造物を当然のように飛び越え、わたしたちの頭の上に影だけ一瞬被せて、正門の先に、一度見た、蒼い鬣の巨神……タテガミさんのLI-OHが着地する
「ら、LI-OHだ!」
って、わたしの横で目をキラキラさせながら、名前の知らない男の子が叫び
「え、え、あぇぇっ!?頼勇様!?
LI-OHってことはそうだよね!?ナンデ!?
ちょっと説明してよゼノ君!?」
って、リリーナちゃんが更に興奮気味に言ったのでした
その最中……魔神達が消えたおかげが、割れた空が元に戻って。戦いは、何とか……何人か被害が出ちゃいましたけど、それで食い止められたんです
「あ、あの!誰か怪我しちゃった人とか居ますか?
居たら、わたしに出来ることなら治しますから、言ってください!」
皇子さま達は頑張ったのに、何も出来ないのが嫌で
今更ながら、わたしはそう周囲に向けてきゅっと腕輪を左手で抑えながら叫びました