蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 炎の公子と転生者契約

「え?あの子?」

 ぱちぱちと目をしばたかせ、考えて無いなーと桃色リリーナは小悪魔のように、無意識か意識的か男心をくすぐるように小首を傾げて、僅かに上目遣いをかます

 

 「あー、そうだよね。私ってばゼノ君のお陰で学園にも来れたし、レヴァンティンもこうしてゲーム通りに来たし……」

 と、手首を軽くスナップさせてみるだけで、少女の手の中には何処からともなく全体が太陽のような意匠の銀金の杖が出現する

 

 「これはもう、私が主人公(ヒロイン)!って事で間違いないって考えだったんだけどね?

 そういえば、あっちも一応何でか聖女って扱いなんだよね……」

 

 ねぇ、と尋ねるリリーナ。距離は詰めず、けれども胸元はチラチラと

 

 「エッケハルト君……えーっと、隼人君の方が良い?」

 「俺はもうエッケハルトなんだ。エッケハルトとして生きていく以上、隼人の名前はあんまり聞きたくない」

 真剣に、俺はそう返す

 いや、ゼノ程完全に同じじゃなくても、生きていくさ

 「オッケー!私もリリーナって呼んでね!ほら、ゲームだと姓で呼ばれてもプレイヤーちょっと困惑しちゃうよね?っていうのか、全員名前で呼んでくれたし……って、ボイスだと君とかお前とか貴女って変換されちゃってたけどさ」

 声優に自分で決められる名前を呼ばせるにはそれなりの容量を使ってボイスロイドのように読み上げ機能が必要だからな、と俺は頷いた

 

 「えへへ、だからリリーナって呼ばれるの、何か新鮮」 

 そう告げる少女の声は、聞き覚えのあるかなり甘いアニメ声。アナちゃんより甘いな。あの子、結構透き通った声してるから

 

 「エッケハルト君、もっと話してよ」

 と、少女はニコニコと催促する

 「何でも良いのか?」

 「うん、本当に何でも。だってさ、エッケハルト君の声、ゲームで声優さんが当ててたのとほとんどおんなじじゃん?

 他愛ない話でも、良く聴いてたASMRっぽいシチュエーションボイスでも何でもかんどーてきだから」

 言われてみれば確かに

 

 「ってそうじゃない

 頼み事があるんだ、リリーナ。ゼノから俺がゼノグラシアという事は分かってる……って教えてもらった?」

 まずは確認

 「うん、見つけたよーって言ったらあいつ味方だから大丈夫だって!」

 きゅっと自分の体を抱き締めるリリーナ。自愛なんだろうけど、腕で胸が抑えられて盛り上がるのが何とも艶かしい

 寄せて上げたらアナちゃんくらいあるな……。いや、別に俺はアナちゃんの事、胸だけで見てるわけじゃないから、それで釣られたりしないけどな!

 勿論、おっぱい大きいのは一目惚れの原因だけど!外見だけの恋じゃないから!

 

 「……そう、基本的にさ、俺ってゼノに色々と話をしてるんだ。リリーナがゲームでは主人公だったとか、色々

 だから、君の言葉を簡単に信じてくれたんだと思う」

 いや、あいつ封光の杖コンプしたって言ってたガチ勢なんだけどな実際は。その事は言わずに、あくまでもあいつ単なるゼノという嘘を突き通す

 

 「へぇー、そうなの?」

 「でも俺、ゼノに一個嘘を教えてるんだ

 昔は二個だったんだけど、今は一つ」

 「それが?」

 どこか真剣な表情で、聞き逃すまいと少女が身構える

 さては、嘘によってはゼノにチクられるなこれ?

 

 「まず既にバレた嘘が一つ。アナちゃんが何者なのか、俺は知らないってもの

 実はさ、何でだったか忘れたんだけど……」

 と、額に手を当てる。何で俺、ゼノ相手に眼前のリリーナが居る事を分かった上で別主人公の存在の有無とか話したんだ?昔の俺馬鹿か?

 リリーナが居るんだからあいつが主人公に決まってるで通せば良かったんじゃ……

 いや駄目だ、アレットちゃん達を助けるために小説版の話をしたからそこで話さざるを得ないか

 

 「俺、ゼノに全主人公の話をしてるんだ

 そのうち、来るならプロローグの戦いのときに居る筈の勇者は来なかった。でも、もう一人の聖女の話はしててさ。それとアナちゃんは関係ないって誤魔化してたんだけど……多分バレた」

 「え?寧ろ良く隠せたね」

 目をしばたかせるリリーナ

 「小説版容姿だったからさ、最初に話した3つの容姿の何れかってゲーム設定を信じられた」

 うん、小説版読んでなくてマジで助かった

 

 「まあ、知らなかったら信じても仕方ないよねー

 私はりますたー?っていうか、あっちの容姿でも出来る版だったけど」

 「んなもの出てたの!?」

 や、やりたかった……

 

 がくりと肩を落とす俺に、くすくすという笑いが返される

 「うーん、エッケハルト君としては変だよね、隼人君って」

 「まあ、アナちゃんの同人誌書いてたから……」

 「んー、その辺りは私は漁ってないんだよねー」

 「ま、まあ、俺は置いておいてだよ

 もう一個が重要な話なんだけどさ、リリーナはあの小説版ってどんな話か知ってるよな?」

 「ゼノ君ルート!読んだよちゃんと!」

 「実は……何となく分かると思うけどさ、俺はアナちゃんが好きだ。だからゼノには、『小説版は武器の関係で序盤お前がちょっと目立つけど、ラインハルトルート』って嘘をついてるんだ

 ゼノはあくまでも月花迅雷という武器の存在からフォーカスされるだけで、もう一人の聖女の運命の相手はラインハルトだって」

 「うわぁ……」

 ドン引きされた

 完全に引いてるわこれ。距離が遠い。ちょっと背を反らして椅子に座ったまま距離を取られてる気がする

 

 「自分のための嘘だー!」

 「そうだよ!でも、俺はアナちゃんの事を好きで!現実に出会って惚れ直したんだよ!仕方ないだろ!」

 「いや、そんなに気になってたならさ、ゼノ君に成り代わろうとか思わなかったの?」

 不思議そうに見上げてくる少女に、俺は無理だったって肩を落として返した

 

 「小説版での出会いは覚えてる?」

 「流行り病に掛かったアナスタシアが熱に浮かされて王城に迷い混むんだよね?」

 「それが、普通の流行り病じゃなくて、致死率100%の星紋症だったんだ」

 「え?死ぬじゃんそれ」

 「死ぬよ!だから騎士団を動かして封鎖しつつどうしたら良いかって悩んでたら……」

 「たら?」

 「私物を売って数百ディンギルを自腹で払ったゼノに助けてくれた皇子さまの座をかっさらわれた

 あいつ頭可笑しいだろ。何で見ず知らずの少女の為に一般家庭の年収以上の額を即刻叩きつけれるんだよ」

 「え?ゼノ君ならやるよそれくらい?」

 「原作のあいつはそこまでの多額払ってないし、騎士団が孤児院を包囲したからもう大丈夫と思った

 アナちゃん既に助けを求めて逃げ出してたから無理だった」

 頭を抱える

 

 地獄かよ、まともにやりあって勝てるわけ無いだろ。相手はアナちゃんの皇子さまだぞ

 助けてくれステラのおーじさま。頼むから他人と付き合って消えてくれ。流石に死ねとは言わないからさ

 

 「だから、リリーナ。頼む。俺と口裏を合わせて欲しい」

 この通り!と頭を下げて頼み込む。机に頭を擦り付けるくらいに、誠意を込めて

 

 「んー、それ、エッケハルト君は攻略出来ないし、寧ろ手伝ってって話だよね?

 私が誰かとくっつくのをゼノ君に助けて貰うみたいに」

 複雑そうに瞳の光が揺れる

 

 「ガイスト君はどうなのかな」

 不意に訊ねられる言葉

 「彼は……気が付くとアイリスちゃんの方見てた」

 「あー、やっぱり?騎士団に入るってそういうことだよね?ゲームでは違ったけど」

 「そもそもゲームでは機虹騎士団って無いじゃん」

 「うーん、トラウマももう無いし、だとしたら今更私が入り込めないよねー」

 困ったなーと首を捻る少女

 

 「えっと、攻略対象のうちガイスト君はアイリスに惚れかけ、エッケハルト君はアナスタシア派……って、結構原作と違うじゃん。攻略対象はゼノ君くらいしか婚約者居なかった筈なのに

 あ、死別したシルヴェールさんもかな?」

 「まあ、そこは色々と」

 

 でも、と少女の顔は明るい

 「その分、ゼノ君と頼勇様が居るし、現実になった以上良いんだけどね!

 その分、私の事も手伝ってよエッケハルト君!」

 真っ直ぐな緑の瞳に見詰められて、俺は……その柔らかく白い手とがっちりと握手した




予告:次回はゼノ君が何やってんだおれのアホ……と頭抱えてる所からスタートします。勿論ですが、アナちゃんの扱いにではありません。

そろそろあの子泣くんじゃなかろうか(もう泣いてる)

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