蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
たった一人、何でかひどい場所に用意された個人の部屋に入り……
いや、一人じゃないな
灯りの無い部屋に入るや否や、完全に闇に溶け込んだおれの影から渡るようにすーっと何かの気配が移動し、そのまま暗がりに潜む
シロノワールだ。おれがゲームで知る方の人格の魔神王の魂。アルヴィナが肉体から切り離して連れていた彼は……おれから離れることは出来ない
具体的に言えば、おれから離れられて数百m程であり、それ以上になると強制的に姿が崩れておれの影に戻される……らしい。いや、数百m先の話なんでおれは本当かは微妙にしか分からないんだが
アルヴィナが肉体を用意していたらしく物理的に触れられた昔と違って今は普段は其所に居るように見えるだけ。カラドリウスの遺したマントの力を借りなければ現実に干渉できないっぽいし、そのマントは……やはりおれの魂に食い込んでいるせいか勝手に戻ってくる
そのせいか、彼はおれと同行し続けるしかないのだ
そんな彼と二人の為の、灯りのスイッチも何もない掘っ建て小屋というか、板張りの小部屋
周囲を見回しても真面目に何もない。いや、あるか、昔使ってたハンモックが
……いや、子供用だから正直狭いんだが、此処で寝ろと?
ついでにハンモックを吊るす柱の上の方に止まり木らしき突き出した棒がある。カラスはあそこってか?
それを一瞥し、シロノワールはというとガン無視を決め込んだようだ
「な、何もないな……」
板は薄く、下手に大声を上げたら外に聞こえるだろう
ってか、真面目におれの部屋これなの?
そう叫びたくはなるが……これも一種仕方ないことなのだ
そう、おれ達にはリリーナ嬢やアナを護る責務がある。アイリス派が護衛の座を他の派閥等とやりあって得たのだから
……いや、リリーナ嬢の恋路の為にはおれが邪魔なんだが……それは今は諦めて貰うしかない
いや、今やリリーナ嬢は聖女になったんだし、無理矢理誰かと結婚なんて話は一蹴出来る立場。なら相手のためにもとっとと婚約解消して良くないか?と思ったんだが、アイリスこそ頷いてくれたものの、頼勇に止められたんだよな
あいつが言うなら仕方ない
まだ早いって……いや、おれなんて馬鹿にされ馴れてるんで何も感じないんだけどな?
というか、おれのような塵屑、真っ当な人類からすれば侮蔑の対象で当然だろう。リリーナ嬢にもそれなりの想いがあると分かった以上、おれが近くに居て彼女にまで侮蔑の害が及ぶ可能性の方が危惧すべきだと思うんだが……
ニコレットとか、再会時には二度と顔も見たくないとまで言ってきたからな
「……はぁ」
それにしても、だ。適当に女子寮の横に立てた小屋がおれの寮って、舐められてないかこれ?
いや、女子寮に部屋を用意する訳にはいかないが、護衛として近くに居なきゃいけない。それは分かる
分かるが……幾らなんでも粗末じゃないか?
いやまあ、おれは別に良いんだが……婚約解消して、他の誰かがおれの代わりに護衛になったときにこれが寮だと困るだろう
そんなことを思いながら、この先に何をすべきかを整理しようとして……
あ
って、あ、じゃねぇよおれ!?
何やらかしてんだよおれ!?
「馬鹿かおれは……っ!」
ギリッと左手の爪を額に立てて呻く
「馬鹿だろうが」
と、シロノワールが捨てるように呟いて……
「ああ、お前馬鹿だろゼノ?」
と、その声は外から聞こえた
「うわ暗っら!お前灯りくらいさぁ……」
と言いながら、ぽんと魔法の火を灯して勝手に入ってくるのは炎の髪の少年エッケハルト
「いや、買わないと灯りがなくてな
なら、暗がりでも目は利くし要らないかと」
「俺達は要るの!」
ドン!と壁を叩いての主張
それもそうかもしれない。他人を招くには……いやこの部屋に招いてもな……
「……ってかゼノ!帰ってきたなら色々と説明してくれ!」
と、意気込む友人を前におれはというと
「ア……シエル様については?」
と、まずは気になることを聞いておく
「あと、ハンモックは狭いけど勝手に使ってくれ。それくらいしか座れる場所がない」
なんという物の無さ。いや良いけど
「お、おう……ってか、良くこの部屋で文句言わないなお前」
呆れられた
「いや、別に良いだろう?」
「よくねぇよ!?ってか、良くアイリスちゃん他が許してんなコレ!?」
と叫ぶ少年
「アイリスなら、家族だから相部屋で問題ないって言ってたな」
そもそも何で通う前なのに部屋があるんだアイリス?と言いたかった
「いやそれで良いだろ!?」
「男が女子寮に居て良いわけ無いだろエッケハルト」
「俺は正直憧れるんだが!?」
「……シエル様に告げ口するぞ。ハーレム気分になりたがってるって」
冷たく突き放すように言ってから、おれはふぅ、と息を吐いた
「ってかゼノ、何やらかしたんだお前」
と、知ってる筈の彼はそんなことを聞いてきたのだった
「分かるだろうエッケハルト」
「いや、何とかアナちゃん達は護れたじゃん?何をそんなに」
「そこだ、エッケハルト」
「ん?」
「今回の戦いは、何だ?」
シロノワールが静かに聞き耳を立てているが、そもそも知られてるから無視
「ゲームのプロローグの戦いだろ?」
「お前は、難易度の想定幾つだと思う?」
おれ的には2~3候補から絞りきれない。だから、相手に訊ねるのだが……
「いや分からん!ってかお前分かるのかよゼノ!」
「いや、空を舞う龍の時点で3種類しか候補がないだろう?」
「いや知らねぇよ!?」
驚愕に目を見開くエッケハルト。ハンモックが揺れてひっくり返りかけ、慌てて綱を掴むのがどこか滑稽
「難易度ハードのケイオス深度5、ハーデストの深度1以上、或いはハデスの深度1以上の3つしかプロローグで空飛ぶ敵画出てくる可能性は無いだろ?」
プロローグマップとかRTAで幾らでも見たからな……
「いや、高難易度やってないから。ストーリー追ってただけだから」
だがエッケハルトはそう返し、おれはむぅ、と唸る
そういう人も居て当然か、少し擦り合わせたかったんだが仕方ない
「……だが、何も可笑しなものがなかったから所謂最高難易度じゃないな。それだけは助かる」
「いや最高難易度だったらどうしたんだよゼノ」
「その時はユーゴに土下座する」
当然だろ?というおれ
というか、無いと思ってたが万が一この世界がアレ準拠だったらそれこそユーゴ等に土下座するしか勝ち目がない
「いや分からん。何であいつ等に……」
「エッケハルト。おれはゲームとしての最高難易度をやったことがあるが……」
一息置く
「ゲームじゃない、アレは」
因にだが、初見時のおれはというと、そこらのモブに迅雷抜翔断を耐えられて返しの絶星灰刃・激龍衝+で普通に初手でゼノがワンパンされてリセった
「というか、あのリセゲー、そもそも敵のスキルを一通り確認して馬鹿みたいなスキルが無いパターン引くまでリセットがデフォというか……」
しみじみとおれは呟く
「そこらのモブが下手したら迅雷抜翔断+だの雪那月華閃だのバーストカウンターだの、果てはロストパラディオンロンドだエンドオブハートだ轟絶なる魂だ、ボスの奥義を持ってるからな……」
正確には、ケイオス補正でランダムでスキルが増えてるんだが……専用スキル系すら範囲内なんだよな。流石に強制全滅のリベリオンヴァンガードだけは見たことがないけど、単なるモブ雑魚が不滅不敗の轟剣を持ってたりお完全に世界観壊れるレベルの馬鹿ゲー、それが
おれ?おれは……リセット回数4桁は多分行ってるなアレ
「あんなクソゲー、異次元の存在に頭下げるしかまともに勝ち目がない」
苦々しくおれは言い……
「というか、そうではない、だけは確実だから良いんだよ。有り得ないスキル持ってる敵は居なかった」
「じゃあ……」
「じゃあ、じゃない。そもそもだ。チュートリアルが一番与し易いのに、そこでおれ達が無双して経験値独占してどうすんだよ!?一番聖女達がレベル上げ易いタイミングあそこだぞ!?」
何やってんだおれは!と、おれは再度髪をかきむしった