蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「あ、あう……」
耳まで真っ赤な聖女様と、呆れた表情のノア姫。そして不思議そうな表情のオーウェンと、何か怒り気味なエッケハルトとアレット
そんな不思議な空間に小走りで戻る。おれのせいで色々と遅れ気味だからな、手早くしないと
「エッケハルト、何か」
「何か、じゃない」
胸ぐらを掴む勢いで赤毛の青年に詰め寄られ、睨まれる
「アナちゃんに何をしたんだお前は」
「……ん?」
いや、会ってないが
「お前一人じゃそもそも魔道具を使えないからって追い掛けていって、直ぐに真っ赤になって慌てて帰ってきたんだぞ
その時、何か変なものを……」
「いや、アナとは会ってないし、シロノワールの手を貸して貰った筈なんだが」
確かに暫く行ったところにあるシャワーみたいな魔道具で水は浴びた。元々は敷地内を流れる川……王都でも水源の一つとなるそれに入った後等に使うための施設であり誰か来ないとは限らないから、しっかりと見えてはいけない辺りは隠していたから……
アナが実は近くに来てたとして、見えたのは背中と胸元くらいじゃないか?
「男の胸元くらい、見ても仕方ないだろ?」
オリエンテーリングの日だからと気合いを入れて着てきた和装のような西方礼服の胸元を少しだけはだけてみせる
そこにあるのなんて、色素の薄い肌、見ても面白くない筋肉バキバキのマッチョマンと呼ぶには軟弱な体つきだ
「ううっ……」
あ、アナ?
何で顔を抑えて踞るんだ……
「このバカ!頭ゼノ!」
げしげしと足を蹴られるが……特に痛くはないな
「あいたっ!?」
「エッケハルト様!?」
なんて、逆にアレットと漫才が始まるくらいだ。ステータス差って怖いな
「鉄かよお前の足」
「鉄よりは頑丈だと思う」
「うげぇ……人外かよ」
「超人。実質人の姿の化け物だよ、上級職なんて」
その事は、何度も感じた
ニホン人のおれだったら不可能な動き、散々やってきたからな……
この身体能力で人間名乗れるなら、今頃地球のオリンピック種目のマラソンなんて成立するか怪しい。今のおれなら、全力疾走すれば10分切れるだろうし
「というか、何が……」
ぺしん、と頭に軽く当てられる何か
ふと見ると、丸めた冊子である。つま先立ちして手を伸ばし、精一杯の背伸びをして小さな教師がおれの頭を叩いていた
「バカは止めてくれる?話が進まないわ
あと、分からないなら教えてあげる。アナタとあの聖女様の
いや、どういう……
「アナタ」
と、エルフの少女はぴらりと自身のスカートの袖を摘まんだ
む!とエッケハルトがそれをガン見し、アレットに右手の甲をつねられる。オーウェンが目をしばたかせ、シロノワールはガン無視してアナ観察と洒落込んでいて……
「ワタシは恥ずかしい体ではないから見られても良いけれど、アナタは太股や胸元の時点で目を逸らす。それと同じよ
あの子、アナタの傷だらけの胸元とか見るだけで毒なのよ。しっかり着込みなさいな」
「そういうものなのか」
「ええ。夜半に散歩していた彼……」
紅玉の瞳がエッケハルトを睨む
「みたいなラフな服装だと、アワアワしてフリーズしかねないわよ」
「どんな服だよ!?」
思わず叫ぶ
「シャツ1枚に、短パン?」
「何やってんだよエッケハルト!?」
「いやー、暑くてさ」
「それで女子寮近くまで来てるのだもの、教師として通報するか悩んだわ」
「大丈夫。誓って女子寮には踏み入らなかった」
「服を着てても入っちゃ駄目だろ!?」
そんなこんなで、ぐっだぐだになりながらも話は何とか進む
今回のオリエンテーリングは、学園側が用意した大規模イベントだ。大きな森を丸ごと使い、3日がかりという規模を持つ
生徒達は4人1組でリーダーにスタンプ帳が配られ、そのスタンプ帳に7つのスタンプを集めさせられる。そうして、グループが出発してから7つのスタンプを埋めてゴール地点に辿り着くまでの時間を競うのだ
森の中にスタンプは確か24。それぞれ魔法で姿を見えなくされていたり、そもそも常に特定ルートを空から巡回している鳥ゴーレムが持っていたり、池の中に沈められていたり……と、魔法の力を駆使していかなければそうそうスタンプを押せないようになっているらしい
なので、グループで協力し、魔法適性に合わせてメンバーの得意魔法で何とかして7つ集めようというルールな訳だな。
スタート地点は7つ。一斉スタートにならないように、それぞれの拠点から時間差でグループが出ていく形で……別のスタート地点の1つがゴールに設定される。スタート兼ゴールにはこの魔法を使えばスタンプが取れるだろうという魔法書や食料や水なんかがふんだんに用意されており、拠点として使わせて貰える
「大体そういうシステムよ、分かったかしら?」
その言葉には大人しく頷く
「あと、アナタ達向けの警告。魔物は居るけれども、基本的にはこうした演習用に飼われている魔物よ。アナタの妹のゴーレムなんかも混じってるわ」
腰の愛刀を見据えるように、ノア姫は告げる
「あまり、大被害をやらかさないように。手加減して追い払うに留めてくれる?」
「ああ、分かったよ。でもノア先生、貴方は?」
「ああ、ワタシ?単純に不測の事態の際に聖女を護るための付き添い。普段はなにもしないわ」