蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 早坂桜理と伝説の剣

「僕の、手を?」

 こくり、と青年は頷く

 

 『turn on!』

 その左手に埋め込まれた父の魂を物質化した白石が輝いたかと思うと、青年の機械の腕の中には一本の輝く黄金の剣……いやその柄が現れた

 刃の無い豪奢な金装飾の柄。横に広がる鍔の部分に大きな亀裂が入っていたのだろう色の違う金属による修繕痕を色濃く残す一本の剣が忽然とその姿を見せていた

 

 「皇子が言うには、エクスカリバーと呼ばれるらしい」

 「エクスカリバー……」

 何かを知っているかのように、少年はその言葉を復唱する

 

 「生憎と、私にはそんな名前の剣に心当たりは全く存在しないのだが、君達真性異言にとっては有名な武器だったりするのだろうか」

 「えっと、伝説の王様の持つ王の剣で……」

 しどろもどろに少年は告げる

 元々、気の強い質ではないオーウェンにとって、鋭い空気を纏う攻略対象は刺激が強すぎるのだ

 

 「構造的には私達の使う特殊剣にも似ている。刀身そのものが異様に硬質化したエネルギー結晶というあまりにも大胆な構造は驚愕するしかないが、つまりは伝説の剣の名を関しただけの別物、という事で良いのだろうか

 言ってみれば、不滅不敗の轟剣(デュランダル)の名を与えられた燃える剣、のようなイメージだが」

 こくりと少年はうなずき、ゲームで見覚えのある剣に目を落とす

 

 男らしさがほしくて、男だと主張したくて、はまりこんだ巨大ロボットのゲーム

 だから、シナリオは良く覚えてなくとも記憶に残っている

 

 「うん。伝説の剣そのものじゃないけど……」

 でも、何で?

 疑問と共に少年は彼が持つはずの無い剣の残骸を取り出した青年を呆けた顔で見上げた

 

 「なんで此処にあるの?」

 「ユーゴ・シュヴァリエ」

 「え、誰?」

 オーウェン……というか、その人格の元になっている早坂桜理はその名前に聞き覚えがない

 「……知らないか。私も知らないし、会ったこともない

 ただ、皇子が言うには彼がAGX-ANC14B(アガートラーム)を所持していたのだという」

 「あ、アガートラーム!?」

 

 嘘!とオーウェンは胸元のポケットに入れている時計を思わず掴む

 「アガートラームって……嘘、勝てるはずが……

 でもこれは確かにアガートラームに備えられた武器だしでも勝てる方が可笑しいからあり得なくて」

 目をしばたかせ、少年は困惑する

 

 ゼノ(獅童三千矢)も、エッケハルト/遠藤隼人も、リリーナ/門谷恋も、そして勿論……結局のところこの世界の七柱の一角であるティア(金星始水)もだが、AGXなる巨大機械の設定や能力には疎い

 この中で、それ等が実際に運用された此処とも地球とも異なる世界を知るものは……続編ゲームとして語られた異世界の歴史をまともに習ったことがあるのはオーウェンただ一人だ

 

 「やはりか

 皇子等は知識がないようだったが、君はあの脅威の事を良く知っている」

 「……うん」

 「そして、所持している」

 不意に自身の青い髪を左手で掻いて、青年はぽつりと告げた  

 

 「すまない、怖いか

 穏和な表情というのが、案外苦手なんだ。ただ、害意は無いし、力を恐れた君に、一つ正しい勇気を持った君に、戦えと言う気も実はない」

 「え?そうなの?」

 てっきりその腕時計で、最強のAGXで、アガートラーム等と戦えと言われるんだと怯えていた少年は想定外の言葉に目をしばたかせた

 

 「ゼノ皇子もだけど、戦えって……言わないの?」

 彼の脳裏に浮かぶのは……最近思い出さなくなってきたかつての自分。桜なんて名前に入っていて、名前の響きと文字だけだと男とはあまり思われない、小さな背丈の苛められっ子、早坂桜理の姿

 「それは僕が、男らしくないから?」

 

 「……違うさ、オーウェン」

 どこか空虚な優しい声音に、桜理は振り返る

 

 其処に立っているのは、黒い翼のマントを左肩から羽織り、蒼銀の雷刃を携えた隻眼の青年。忌み子たる帝国の第七皇子

 話題にも登った彼が、緊張感こそ残しつつも少しだけ楽しげに用意をする聖女等を残して離れた場所を訪れていた

 「君は優しい君である為に、貰い物の人智を越える力を使わない事を選んだんだろ?

 それは、優しさという勇気だ。力があるから好き勝手して良いっていう、円卓(セイヴァー)(オブ)救世主(ラウンズ)とは違う思いだ」

 「でも、ゼノ皇子!」

 「力で押し通すことしか出来ないおれよりも、誰かを大切に思って護ろうとする。それはよっぽど男らしいよ」

 その言葉に、左手の石に手を当てつつ蒼髪の青年も同意のうなずきを返す

 

 「だから、君に戦えとは言わない

 真性異言等から世界を護るとしても、魔神を倒すにしても……それは私達、それをすべきだと信じた者達の仕事だ」

 静かに語るのは青年竪神

 

 「そうだ。戦いたくないのに戦えってリリーナ嬢等に要求するのも、本来はいけないことだ

 ただおれ達は、聖女無しで何とかすることがきっと出来ないから、彼女に強要している」

 重苦しく、過剰なまでに考えるゼノが重い声音で続けた

 その右手が、愛刀の柄に埋め込まれた天狼の角を指先で撫でる

 

 「でも、なら……」

 「だから、私は君に頼む。君にしか頼めない、きっと……君にしか出来ないことを」

 そんなオーウェンの疑問は、覚悟を決めきった二人に出る前に封殺される

 「エクスカリバー。AGXのシステムに近いなにかを使う、彼等と同じ力を持つ剣

 君のその腕時計で、その時計が呼び出す力で……こいつをおれ達の切り札に修繕してくれないか?」




ということで、イラスト:えぬぽこ様によるラフ画となります。こんなアナちゃんによる耳かき、只今企画進行中です
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