蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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怒り、或いは隠し事

「シロノワール、どう見る?」

 周囲の警戒を怠らずに見回しながら、かつて人工沼だった部分を目指して歩みを進める

 腰の愛刀に手を掛け、その柄から僅かな震えを感じて気を引き締める。月花迅雷が震えているということは、何かある

 鞘から微かに抜いて放電しておかなければ危険かもしれないほどに反応している

 

 天狼の角は死して尚雷を作り続ける。角には魂が宿ってるんですよとは始水の談だ

 その天狼の魂がこうして何時もより雷を産み出していると言うことは、影の正体は分からずとも何か居る事は間違いないのだろう

 

 「……返す気があるならば、即座に返せ」

 ああ、そっちの話か、と意識を話に戻す

 

 そうだよな。おれ達は……シャーフヴォル等と何も変わらない。唯の肉体と人生の簒奪者、端から見ればそうでしかない

 それは、自分自身を奪われたシロノワールが誰よりも嫌っている事だろう

 

 「今更何を、とそう言いたいが……」

 優しげな笑みを浮かべ、青年魔神は俯く馬上の聖女にその右手を差し出した

 「望んでそうなった訳でもない者を責めても良いことはない

 せめて悼む心を持つ者を無為に追い込むのは悪だ」

 その背の翼が苛立たしげに乱雑に閉じられているのが見える

 リリーナ嬢は気が付いていないだろうが、あの言葉は本心からではないんだろうな

 

 それはそれとして死ね、くらいは思ってそうだ

 

 「シロノワール、(くん)……」

 「天光の聖女よ。私はシロノワール」

 瞳に小さく影が生じ、すぐに消える

 「すまないが、話を聞いていた

 貴女の思った通りだ。正しく名乗ろう。私はシロノワール・ブランシュ」

 いやテネーブル・ブランシュだろお前

 

 「ブランシュ……」

 「ブ、ブランシュ!?」

 と、横でエッケハルトが目を剥いているが、お前も気が付いてなかったのかよと思わず振り返る

 髪の毛の色補正って凄いな……

 

 「そう、私は貴女の感じた通りの魔神族。今の魔神王テネーブル・ブランシュに着いていけなくなって離反した存在だ

 彼の……弟みたいなものだと思ってくれて良い」

 弟で良いのか其処。アレが兄とか嫌だって態度になるかと思ってたんだが……

 ってまあ、おれは転生者だというテネーブルを見たことが無いから、本体から切り離された結果嫌悪感を顕にしていたカラドリウスや、後はお兄ちゃんは死んだって言っていたアルヴィナから推測するしかないんだが

 

 「そう、なんだ……」

 「本当は、魔神族ということは隠しておきたくてな。そこの人間の皇子とは話すなという方向で話を纏めていたが……」

 少女の手を引いて、長身の青年は聖女の割と小さな体を自身の腕の中に収めた

 「きゃっ!?し、シロノワール君!?」

 「私とて魔神だ。それも、今の魔神王に対して反旗を翻すような、な」

 少しだけ寂しそうな笑みを浮かべ、真なる魔神王は心をとろかすように口当たりの良い言葉を続ける

 

 「気に病むな。公言できないようなものを抱えているのは、私も同じだ

 故、思い悩むならば……少しくらい手を貸そう」

 「……良い、の?」

 「そもそも私は、今の魔神王を止めるために、貴女等聖女を導く烏となったのだから」

 ……うん、イケメン!実情ちゃんと知ってなければ惚れるわこれ

 実際、リリーナ嬢も少し頬を上気させ熱っぽい瞳で見返しているしな!

 

 「……ゼノ、お前知ってたのか?」

 で、さすがにそれでもあの取り入り方ではさくっと魔神側に落ち無いだろうからとリリーナ嬢はシロノワールに任せ、聞こえてきたその言葉に軽く頷く

 「ああ、出会った時から知っていた」

 「なら言えよ!」

 「言えるかよエッケハルト

 おれはそれなりにシロノワールを信じている」

 少なくとも、おれは原作テネーブルそのままな妹を何より大事に思う彼の人格を信用している

 

 「だからこそ、おれは彼との約束を裏切る訳にはいかなかったんだよ

 向こうが……」

 少しだけ背の翼を苛立つように震えさせながらも、ぱっと見はそれを見せずに少女の背と膝に腕を回して抱き上げた青年へと目線を移す

 「リリーナ嬢等に対して明かしてでも、彼女の不安を和らげようとしたから、おれも隠す必要がなくなっただけだ」

 「ゼノ、お前……」

 胸ぐらを掴む右腕

 

 ……あれ?で、なんでおれはこんなにキレられてるんだろうな?

 いや、真面目に分からないんだが助けてくれ始水

 

 『兄さん、只今圏外です』

 そもそもエッケハルトとの関係はおれの問題、始水よりおれの方が彼には詳しいんだから聞いて悪かった、と頼りになる幼馴染で居たいからか分からないことは圏外で誤魔化す神様に脳内で謝罪

 

 『兄さん、分かってるならそれは考えない方が優しいですよ』

 ……悪い

 

 そんなやり取りをしながらもエッケハルトがキレる理由を考えるんだが……

 いや、分からない

 

 「エッケハルト」

 「ゼノ!お前はっ!

 俺は、お前を友達だと思ってた」

 「おれはお前を友達で仲間だと思っている」

 聞こえてきた言葉に少し慌てた反論

 

 いや何を

 「お前、俺に色々と隠し事をしてるだろう!」

 「いやそれはしてるが」

 アルヴィナの事とか、エッケハルトが忘れてしまった事を結果的に隠してる形にはなっている

 「ゼノ!お前は俺を信用していないんだろう!

 だから、色々と隠す!」

 「信用しているに、決まってるだろう!」

 「なら話せよ全部!」

 「駄目だ。シロノワールや……アルヴィナ。お前を信じているのと同じだけ、おれは彼等だって信じている

 その信頼を裏切る訳にはいかない以上、話せることと話せないことがある」

 

 軽い音

 左手を痛そうに抑える青年の姿に、頬を叩かれたんだと理解する

 「痛っっぅっ!?」 

 「エッケハルト、分かってくれ。おれは皆を信じているし、仲間だと思ってる

 だからこそ、それぞれ隠したい部分は胸に秘めなきゃいけないんだ」

 おれが実は醜い転生者である事や、カラドリウスの想い。それらを明け透けに語るわけにはいかない。例え相手が誰でも

 

 「またそれか!」

 炎髪の青年が右手を振り上げ……

 「ちょちょちょっ!?止めてよエッケハルト君!?」

 おれと青年の間に、銀金の杖が割って入った

 

 ぷるぷると腕を重さで震わせながら精一杯に杖の先端を持って距離を稼いだ少女は、おれを庇うようにドレスの身を割り込ませる

 「駄目だよ、喧嘩しちゃ」

 「でもゼノの奴が……」

 「それより、ね?

 エッケハルト君はさ、あの事……どう思うの?」

 

 それは、少女からすれば自ら傷付きに行くにも等しい言葉

 

 「わぁーったよ、リリーナ」

 その言葉に、何故かキレ気味の青年は肩を竦めた

 「……またゼノかよ」

 という捨て台詞を残して

 

 そんな一行を、大きな白い影が眺めていた

 「……っ!何か居る!」

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