蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
灰色の世界の中、硬質な音だけが響く
いや、違う!
「あぎゃっ!?」
悲鳴と肉の焼け脂の跳ねる音と共に、青年が純白の三日月……流麗な曲線を描く三日月型の刀を取り落とした。薄く蒼い雷鳴を纏う水の色をした刃を伝い、電流が走ったのだ
前回の襲来では兎も角、今のおれの武器は原作と同じ……というか原作ゲームでは経験値稼ぎの問題でおれが使わない方が大概強いぶっ壊れ神器、刀最強こと月花迅雷。ゲームでも本来の神器たる刹月花より強い説が根強かったこの刀があれば!
刹月花込みで普通の刀を振るうおれとほぼ互角だった彼が、おれよりも成長していない限り!
「負けるか、よぉぉっ!」
押し通る!
しかし……
「はぁっ!」
刀を持たず、気を解放するかのように腰に構えた両の腕。轟!と噴き上がる青いオーラ
それらは即座にかつて一度対峙した冷気を纏った蒼い結晶と化しておれと青年の間に立ちはだかった
「ちっ!」
月花迅雷でもあの謎結晶は砕けない。
故、即座に攻撃を諦めて距離を一旦離すためのバックステップ。至近で切り結ぶよりも多少の距離がある方が強いというだけ。臆する点はなく、逃げる気もなし
が、
「あ、きゃぁっ!?」
背中側から聞こえる悲鳴にちょっぴり近付こうとしてきていたのだろうリリーナ嬢に激突しかねない軌道で跳んでしまった事に気が付いて、
「でりゃぁっ!」
周囲にまだ走る雷撃を底に電気を流すと魔力に吸着する性質を持つ特殊金属を仕込んだ靴で蹴って大袈裟に宙返り。くるっと視界の天地が逆転し、リリーナ嬢の背後に着地
した瞬間、地を蹴って前へ
対刹月花の鉄則は……常におれがお前の敵だと全身全霊で見せ付けること!
「吼えろ!」
空中で納刀した愛刀の刃を半ばまで鞘から晒し、一拍置いて天へと掲げる
「降り注げ!雷轟!」
「無駄だぁぁっ!」
掲げた刀に反応し、跳躍したタイミングで漂い始めた雷撃が斜め上から青年の頭目掛けて落ちるも、やはりというか障壁に阻まれ……
「伝哮雪歌!」
「っ!油断も隙も」
「あると、思うか!」
ガキン、と硬質な音。踏み込み突きを落ちる雷撃に合わせた二点攻撃だが、どうやらそこそこに障壁展開の範囲は広いらしい!
が……と、大きく横凪ぎに刃を震いながら青年を見る
「おぉぉっ!」
「甘いっ!」
防御は完全に蒼い結晶任せに大上段から落ちてくる刹月花の一閃を逆手に握り振り上げる愛刀の鞘で迎撃
「凍て果てろ!雪花風葬!」
「そっちも、無駄なことを!」
雪花風葬……当てた刹月花の刃から相手を凍らせる技……だったかな。結局のところ魔力によるもの
魔力を通しにくい鞘を通して放っても!凍らない!
……格好付けた割には案外腕が痺れるが、アナがおれの首に掛けた鎖の方がまだ冷たいな!
「デュランダルッ!」
「っ!」
おれの叫びにびくりと肩を震わせ、青年がおれから逃げるように距離を取った。その背に向けてナイフをぶん投げるが、やはりというか障壁は背も護った
どうやらユーゴやシャーフヴォルからおれが何故かあの剣を呼んで戦ってきた事を聞いているみたいだな!
ちなみにだが、嘘である。此処で無理矢理に最強の神器を使っても障壁をぶち抜いて勝てるかは微妙。逆に月花迅雷だけでも負けない戦いは幾らでも出来る
ならば、わざわざおれから時間制限を付けることはない。此処で重要なのは……
「えっと、ぜ、ゼノ……君?」
事態に付いていけていない聖女様を守る事!
「……聖女様に何の用だ」
納刃。腰溜めに構えてから問い掛ける
「ゼノ君ゼノ君、怖すぎて何も話せないよ?」
と、袖を引かれるが無視
「そうだぞ、怖い」
なんて青年も迎合して言ってくる。ぽいっと刹月花を投げ捨て、やれやれと手を半端に拡げて肩を竦めた姿で……
「ほら、何か勘違いがあるらしいし、ちょっと武器を捨てて話し合おう?」
……怖くなければ敵ではないと時を止めてくる癖に良くもまあぬけぬけと
話し合う気がないのは百も承知。おれとしても話し合いなんて望まない。捕らえて腹の底まで吐かせるまでだ
「ほらゼノ君、相手の人も武器を置いたし……」
「
「あっ……」
うん、リリーナ嬢は馬鹿じゃ無かったか流石に。言えば分かるようだ。あの神器相手に何処にあるかなんて関係ない
「っていうか、さっきゼノ君が蹴り跳ばしてて……」
「あの刀は何時でも何処でも手の中に戻ってくる。彼は武装解除なんてしていない。無害になったフリをしているだけだ」
貴女の封光の杖と同じと言えば分かりやすいが……取り出されると困るので表現は婉曲に
「それにこれって」
「刹那雪走」
「自分と敵以外の時を止め、刹那の間に決着をもたらす刹月花の力」
何か今回はちょっと口が軽い青年に合わせて呟く。これで馬鹿じゃない彼女が理解できると良いが……シナリオは兎も角武装データなんかの記憶は曖昧みたいだからどうだろうな?
「えっと?」
「つまり、おれが何時でもお前の喉笛を切り裂いて殺すと脅し続けず、敵だと思われなくなったら……」
きゅっと握られるおれの袖。正直困る
「おれの時を止められる。止まった時の中に、貴女と彼だけが残る」
「ひゅっ……」
息を呑む調子外れの音
その先を理解したのだろう。助けはない。時を止められては何者も介入できない。1対1で彼と戦わされ……何をされるか分かったものじゃない
「そうだ、対集団、対絆。共闘する者達の各個撃破を旨とした決闘刃……魔神より人を倒すための神器。それが刹月花だ」
「う、うん」
「だから、リリーナ嬢。戦うな、封光の杖を構えるな。おれとセットで彼からしたらひとつの敵とならなきゃ、おれの時を止めることが相手には出来る
あと……おれの背後に隠れるのは良いが、袖を掴まないでくれ」
その言葉に、青年の瞳がおれの左手の袖を見て
「大丈夫、抜刀は来ないんだ……
刹な……」
「はぁぁぁっ!」
マインドセットしようとする青年の耳に向けて盛大に吼える!
びくりと構えた青年が此方を見て……
零の呼吸の反対、閃の呼吸。あの日見せた呼吸を乱さないことで攻撃の出を掴ませない方法とは逆に、わざと呼吸を乱すことで動くと誤認させる……
だが……恐らく障壁ありの戦い慣れしていない彼相手になら十分!そもそもだ、障壁慣れされていたらおれが脅威ではないから時止めに巻き込めるからな!
或いは……
いや、不確定要素を考えすぎても駄目だな。賭けなきゃいけないほど切羽詰まっても居ないのだし
「語るならば、牢で聞く!」
雪色に染まる世界。雪降るように色を保ったまま、けれども白く染まった時の止まった刹那の最中に、再度雷撃の花が咲いた