蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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血華、或いは白影

「屍天皇!」

 「おれは、唯の!ゼノだ!」

 相変わらずおれの事を四天王だの何だの呼んでくる相手に対して、怒りと共に雷火を放つ

 

 激しく輝く雲角から迸るのは蒼き雷。此処で出会ったが100年目……ではないが、捕獲を優先させて貰う!

 「してんのう?」

 「彼に騙されるな!彼はもう屍の皇女の……」

 

 ……何となく違和感を覚える

 屍の皇女?それはアルヴィナの事を彼が勝手にそう呼んでいた言葉だが……その記憶はほぼ全員から抜け落ちている筈だ

 

 『兄さんが覚えているのは彼のせいですよ

 記憶という地獄の業火……辛いことを覚えていたら自傷するのが兄さんですからね。兄さん虐めですか』

 ……始水、気が散る

 『はい、すみません兄さん』

 と、声は途切れる

 

 そうか、何でおれだけ……と思っていたんだが、あの道化の果実がその原因だったのか。本当に、神々はおれの為に色々としてくれてるんだな

 

 だが、つまりは……

 「遅い!」

 彼等は別の理由で消える筈らしいアルヴィナの記憶を保持しているということ!

 中々に危険だ、早急に決着をつける!

 

 「しかばねのおーじょ?」

 青い結晶壁に刃を擦るおれに、不思議そうな視線が被さる

 「奴は魔神王の……」

 「ひっ!」

 怯えるような声

 

 遅かったか……と思うも、一度飛び下がって攻撃に際して発生する壁をリセットしようとしたおれの袖を少女は小さく握った

 「ゼノ君!あの人……変だよ!」

 「変?」

 「私を見る目が怖いの!好感度が40近いの!」 

 その言葉にそういえばこのリリーナ嬢は他人の好感度が見れる目を転生特典で持っていたなと思い出す

 ニコニコと教えてくれた数値によれば確か……±49の99段階。0が別に悪い数字ではなくあまり関心がないとなる感じだったか

 

 それで40近い見知らぬ相手……怖いな普通に!

 「信じてくれ、ゲーム主人公!」

 「転生者!?」

 「前から、知ってるよ!」

 抜刀して飛ばすのは斬撃。ついでにとばかりに腰にとりあえずで持ってきていたナイフを引き抜いて内鞘に残留する雷魔力をレールに電磁砲として加速させてぶん投げる

 

 「屍天皇!無駄だ!

 今すぐに屍の皇女と共に滅ぶが良い!」

 いや、アルヴィナは此処に居ないんだが!?

 

 「シャーフヴォルから聞いていないのか?」

 「『貴様と屍の皇女が私達の願いを阻んだ』、とな!」

 そりゃそうだった!彼を撃退したのはアルヴィナの影が砕け散る前。顛末なんて伝わってる道理がない!

 逆に言えば……彼等円卓の救世主はアルヴィナが帰ったという情報を知らないくらいの活動範囲。オーウェンや転生者だというテネーブルの肉体に宿る今の魂は参加していないということだ

 彼等がもしも仲間ならば、こんな発言は飛んで来ない!

 いや、有り得るか?単純に刹月花は確かに特に対人で恐ろしい神器ではあるものの、現実と化したこの世界では非戦闘タイプの支援ユニットを時止め暗殺連打もこうしておれに止められるくらいには厳しく……AGXみたいなバケモンに比べれば二段階は弱い。そんな彼は正直使いっぱしりにされていてロクに情報を流して貰えない等で……

 

 って!考えている!暇は……

 「くっ!おのれ屍天皇め!リリーナちゃんまで!」 

 ……何だろう、このエッケハルト感ある台詞 

 

 「だが、ユーゴから外回りしてこいと投げ付けられたこの蒼輝霊晶ある限り!」

 ……本当に雑用係かよ!?

 「ってことは」

 「……口を封じる!」

 額に眉を寄せて叫ぶ青年

 凡ミスだったのかよしかも!?抜けてるなオイ!?それで拠点入り口……かは微妙だが何らかの理由で彼等が此処に出入りしていたのは間違いないようだ

 

 ということは、変な音の原因はあの足跡の主ではなく彼等

 「……何をしていたのか、吐かせて……」

 といっても、相手にエネルギー切れでも無ければあの結晶を突破する方法はおれには思い付かない

 

 ならば切れるまで粘るまでの事。月花迅雷の柄を強く握り、意識を向けさせるために横凪ぎに抜刀したその瞬間

 青年の背後にぬっと白くてオーラを纏う巨大な影が現れた

 ガキン、と幾度めかの硬質な音と共に刃が受け止められ……

 「無駄無駄無駄む……」

 雪積もり白く彩られた時の止まった世界にぱっと鮮やかな血の華が咲く

 

 「あ、ぎゃがぼっ!?」

 青年の頭が突然()ぜた

 それはもう、花火玉のように、炸裂した

 「っ!リリーナ嬢!」

 和装だったら袖が長いからやりやすかったんだがな、なんて思いつつ。こういうのに耐性無いだろう桃色少女の視線を軍服の袖で遮りながら、おれはただ唖然と背後から……おれの刃を止めるために前方に向けて展開した結果守りが疎かになっていた背中から青年を爆破した影を見詰めていた

 

 「ゼノ君!?」

 崩れ落ちる青年の肉体に構わず、白い巨影はおれに躍りかかり……

 

 「ゼノ君、だ、だいじょ……」

 ペロペロとおれの顔、特に火傷痕周辺を舐め回した

 「や、やめてくれないかアウィル?」


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