蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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重力圏、或いは死の雨

超重力に膝を付き、ひび割れていく大地から左手をつっかえ棒に身を起こす

 愛刀を突き刺した脇腹からは止めどなく血が流れ……そしてその紅の小川が焔と変わる

 

 燃え上がる血、吠え猛る力

 「『ブレイヴ!トイフェル!イグニッション!』」

 『スペードレベル!オォバァロォォドッ!』

 招来するのは赤金の龍大剣。燃え盛る焔の不敗刃

 

 「魔神!」

 『剣帝!』 

 「『スカーレット!ゼノン!』」

 この軍服とて耐火仕様。最早何時何処で彼等が突然来るのか本当に分からないから、おれの服は寝巻き含めて全てが耐火だ

 その分費用も馬鹿にならなかったが……今はそれが役に立ったってところか!

 燃え上がる焔を身に纏い……纏い……

 

 何だろう、何時もと違わないか?身を焼く焔は何時もの状況だが、それだけだ

 「出やがったかデュランダル!てめぇの転生特典!」

 ……違うんだが?

 

 「全く!全ての自分に都合が悪い事は神々から与えられたモノ扱いか、シュヴァリエ!」

 誤魔化すように煽る。デュランダルを召喚したは良いものの何時も程力が噴き出してこないから、剣を支えに無理矢理立ち上がる。地割れが起きていくかつて森と呼ばれた筈の枝葉と木屑の荒野を燃やしながら、それを意識させぬように虚勢で吠える

 

 「はぁ?ゼノがその武器持てる訳ねぇだろうが転生者が!」

 ごもっとも!実際これは原作のおれはバグでしか装備出来ないし、実際に始水(かみさま)パワーなんかも使って強引に使ってるだけ!

 お前らのAGXに比べれば……五十歩百歩かもしれない!

 

 騙すことに罪悪感はあるが……それでもだ!今のリリーナ嬢にさらなる困惑を抱かせる訳には!いかない!

 

 「っ!ぐっ!」

 そんな事を思うおれの左掌を上から何かが撃ち抜いた

 手を貫通する程の力ではなく、けれども浅く確かに抉られていて……

 「っ!?何だ!?」

 何だ、この攻撃は!?傷口に何一つそれっぽいものが無い!

 

 魔法か!?いや魔法ならこんな【魔防】0のおれの掌くらい貫通しても可笑しくない。針か何かのように細くて、突き刺さり抉っても何一つ見えず傷口に残らないナニカ……

 

 不意に、灰色の空を見上げる。龍の月……水を司る雨季の空は、太陽を覆い隠すように曇っていて

 「そうか!雨粒!」

 叫ぶおれの前で、渇いた地面をパラリと降ってきた雨粒が抉りヒビを入れる

 超重力圏であるグラビトン・ジャッジメントの範囲内に入った雨粒が重力に引かれて大きく加速し……巌を穿つどころか鉄を貫く死の雨と化す

 

 「っ!それが分かったところで!」

 自分で無意味さに叫んでしまう。マナの巡りによって鉄より硬いおれですら抉るのだ。雨が本格的に降り始めたら、おれはまだ何とかなるとしても……リリーナ嬢なんて雨粒に無数の穴を空けられて死ぬしかない。エッケハルトも似たような結末になるだろう

 じゃあどうするか、に対して魔法の一切の使えないおれには何の回答もない

 

 「……始水」

 どうする?おれに天候を変える魔法なんて無い。轟火の剣も天候を晴れにするなんて方向の力はない。頼れるとしたら龍神たる……

 『雨乞いなら何とかなりますが、その逆を期待しないでください、兄さん。雨を降らす水神様に晴れを頼むのは筋違いです』

 怒られた。いや言われてみれば当然だが……

 『雨を降らせるわけにはいかない以上龍化は厳禁となると、対応策は……

 っ!すみません兄さん!ちょっと手一杯なので暫く失礼します!そちらはそちらで大変そうなので手助けできることがあれば助けたいのはやまやまなのですが、自力変身でお願いします』

 ……もう変身してる訳だが。本当に何か手一杯らしい。何時もなら現状を分からない始水ではない筈だ

 

 なら、頼るわけにはいかない。元々幼馴染に頼りきりなんて情けなくて、だからちょっと意地を張って要らないって言ってたところもあって慣れきっている

 

 「エッケハルト!」

 「無理、言うなって!?」

 地面に両の腕を重力によって強く強く押し付けられた青年はただ呻く

 おれだって何とか立ってるってレベル。此処でまともに動いて魔法が使えるとしたら……竪神とワンチャンオーウェンくらい。だが、後者はALBIONと言うらしい機体を使いたくなさそうだし、機体無しでどこまでやれるかは微妙だな

 

 というか、13なんちゃらと型式番号が呼ばれてたのがLI-OHで11H2DがALBION。t-09(ATLUS)は蒼輝霊晶を使ってこなかったし、11にも搭載されているか分からない。一応13系列に当たるLI-OHと竪神は影響がないっぽいが……

 

 来てくれないだろうか?

 そう思うも、空に飛翔する蒼き鬣の姿はない。疾駆する巨大兵器の轟きも聞こえない

 おれが何とかするしかない。大体……13の一種らしいジェネシックダイライオウにしても、あるのは設計図だけだ。アイリスがノア姫の手を借りたりして頑張って再現しようとはしているようだが……とても支援機が完成形とは言えない。そんな未完成でより上のナンバーに立ち向かうのは無謀だ

 

 焦りばかりが募り……

 『ルクゥ!』

 ばちっとしたスパーク音。桜の光が少女を貫く。アウィルだ。幼き天の狼が、地面に押し付けられていた桃色少女にオーラを纏わせたのだ

 「っ!お願い!私に力を貸して!」

 その瞬間、天光の聖女の手に現れるのは銀金の陽杖。太陽を模した装飾から光が迸り……今にも降り始めようとしていた雨雲を吹き払った

 

 「……くだんね」

 心底つまらなさげに、金髪の青年が重力球から取り出した剣を逆手に握り

 「起きないなら死ねよボケが」

 足蹴にした首無し青年へと…… 

 

 「やめろ!」

 幾らちょっとアレな事をしたし敵であったとしても、無下に殺されるのを見逃してはいけない。おれは赤金の剣を振るい、陥没して行く地面を蹴ってその剣を迎え撃った

 

 「馬鹿が!」

 にぃ、とつり上がるユーゴの唇

 「カウンターブラスト!」

 「あぐっ!」

 オレンジの衝撃波のようなものがアガートラームの腕から拡がり、おれを襲う

 大きなダメージはないが、服だけは一発でボロボロだ。耐火による保護を喪ったおれの体に火が着き、燃え上がる

 

 ……スイッチオン!

 「っ!魂を燃やせ!帝国の剣(デュランダル)!」

 燃え上がる肉体と力。何事かと思ったが……追い込まれてからが本番のデュランダル、変身時はギリッギリHPが規定ラインを越えてたから能力補正が掛からなかった……みたいなオチらしい

 

 「自由に動かせなくてもよ、我を傷付けんとするものへの反撃だけはしてくれるわけ。勝てねぇんだよお前

 どぅーゆーあんだーすたん?」

 見下す煽り顔。おれは、それに……

 「それに一度破れたのは誰だった?」

 唇から垂れる血を燃え上がる前に舐め取り煽り返した

 

 「……ゼノ君、結構ひょっとして性格アレ?」

 酷くないかリリーナ嬢!?背後からの鋭い突っ込みに、少しだけ気が削がれるが、気にせず腹に突き刺していた刃を流石にもう良いと抜き放って納刀

 「そう、酷いだろリリーナ……」

 蒼いユーゴの瞳が揺れる

 

 「じゃねぇわてめぇ。転生者だろ名前名乗れよ」

 「私はリリーナで」

 「いや、美少女な実妹ってだけでルートヴィヒは満足してたから良いんだがよ。原作とキャラ違う奴がほざくな」

 殺すぞ、と凄むユーゴ

 その視線を遮るように、全身から焔を放ちつつ立ちはだかる

 

 「貴方も転生者なんだよね?

 なんでこんなこと……」

 が、桜色のスパークするオーラを与えられ、アウィルに見守られながら少女は座り込みつつ上目で問い掛けを続ける

 

 「ゲームのシナリオを知ってるなら、そうなるように頑張った方が、みんな幸せになれるし

 ほら、そんなにすっごい……私にはちょっとワケわかんないくらい凄いパワーがあるなら、誰も犠牲にならないようなハッピーエンドだって」

 「うっせぇよ偽物。いや、ぶっちゃけ我、太陽みたいて明るくて社交的(ビッチ)なリリーナより、ステラやアーニャのが好きなんだけどさ」

 アーニャ?……ああ、アナの事か。アナスタシア、ならアーニャって愛称も有り得るのか

 

 というか、こいつそんな人格だったのか……

 

 「ああ、思い返したらイラッイラしてきた」

 青年は頭を勝手に一人でかきむしる。隙だらけだが……必ず蒼き結晶が彼を護るだろう。あれを貫く手段は……

 防御奥義無視の切り札一発しかない。師匠が故郷に帰ってからも修得しようと努力はした【雪那月華閃】さえ使えれば2回だったが……まだ上手く使いきれない。あれを振るうのは本気で一か八かだ

 

 「ステラにどんな卑怯な事したんだよお前」

 が、飛んできたのは……割と予想外の言葉であった


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