蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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ゲームキャラ、或いは怒りの雷

「ステラが出てくるのは特典小説だけで、我と共に聖教国で戦いを裏側から見てってやるんだよ」

 あの日のように血の涙を流しながら……

 

 全く、器用な事だ!

 「てめぇがステラのおーじさまな訳がねぇ。てめーを越えた、血筋は皇子じゃなくとも、何よりも大好きな白馬の皇子サマ」

 『ルルゥ!』

 反論するようにアウィルが吠える

 

 「だから有り得ない」

 「お前、はっ……アステールの心を考えた事があるのか」

 ギリリと歯を鳴らし、隙を産むためにどの口がと言いたくもなる言葉を吐き捨てる

 

 「は?」

 「ステラステラと、良くもまあ動く!」

 「は?」 

 心底理解できないといったように、青年は肩を竦める

 「何が悪い訳?」

 「おれは全く知るわけがないが、お前はアステールの原作とやらを知っているんだろう?

 その過去は真性異言(ゼノグラシア)が深く関わっていないだろうから、おれの知るものと同じ筈だ」

 「だから何だよ分かりにけぇな、説明下手か?」

 「なら、どうしてアステールを捨てられた子(ステラ)と呼べる?」

 

 単純に疑問なのだ

 おれが好かれていたのは単純に本名を呼んだからというだけだ。そんなの何が特別なんだ誰でも出来ると思ってはいるが……だからこそ目の前の彼が、わざわざ蔑称であり幼い心に深い傷を残していただろう『ステラ』とあの子を呼ぶ理由が皆目見当もつかない

 前に対峙した時は事情を知らず、彼女自身にステラって呼んでねーとおれと同じ事を言われてそのまま呼んでいたのかと思っていたが……

 

 「何故だ、ユーゴ・シュヴァリエ!」

 そんな叫びも意に返さず、心底理解できないものを見る目がおれを射る

 「お前なりきり上手すぎない?」

 「いやこれなりきりじゃなくて素だよどう見ても!?何で転生者扱いされてるのゼノ君!?」

 

 ……転生者全開で戦ったことがあるからな、向こうにはバレてるんだ。と言いたいが、騙されてくれている状態では口に出来ずに飲み込む

 

 「……ってか、ステラをステラと呼んで何が悪い?

 プレイヤーが何と呼ぼうと自由だろ悪役令嬢(男)カッコワライ。ってのもそうだが……」

 わかんねぇと右手掌底で額を抑え首を振るユーゴ。その態度に、本当に他意は無さげで

 「ステラってのは、呼ぶと後ろめたい皆が勝手に忖度(そんたく)してくれる便利な言葉だろ?ステラ自身が原作でそうネタにしてるんだから、何の問題がある

 言ってみろよ、バグ野郎が」

 

 『昔ステラレタコって酷い呼ばれ方されてたから、今でもステラがステラって自分を呼んだら皆優しくしてくれるんだー。だから、お店の奢りー

 何でも頼んで良いからね、おーじさま』

 うん、何となく言いそうだ。想像が付く気がするっちゃする

 

 だが!

 

 「それは何時の話だ、真性異言(ゼノグラシア)!」

 理解しつつ叫ぶ。シナリオの裏ということは、今から数年先の未来、所謂原作第二部の時期だろう

 ちゃんと大人になった頃には、幼い頃のトラウマだって乗り越えられて、ネタに出来る余裕もあるかもしれない。その事を、彼は語った

 その事実だけを

 

 「は?原作の話だが?基本プレイヤーがなにもしなければ原作通り進むモンなんだから」

 「そうなんだろうな。お前が知る未来では」

 怒りを込めて呟く

 「はぁ?設定からしてそうなってるんだから」

 「いや、昔は辛かったけどってネタにしてるなら、幼い頃って言われたら嫌じゃん!?私でも分かるよ!」

 ふんす!と鼻息荒くするのは桃色聖女。彼女は屈んで取り落とした杖を拾おうとしていて……

 「リリーナ嬢。呼べば来る!」

 「あ、そっか!」

 おれの一言と共に少女の手の中に銀金の杖が舞い戻る

 

 隙を晒したな、とばかりにその腕を伸ばしかけていた青年は慌てて手を引っ込めた。どうやら、向こうも一応おれへの警戒があるようだ

 ならば、轟火の剣にも意味がある

 

 「お前ら、世界をゲームだと言う気か。アナが、皆が生きる此処を!皆を含めて!」

 「そうだよ!ゲーム世界でも、同時にもう私達が生きる現実で!ゼノ君が貴方達を止めようとするように、何かガイスト君が勝手にアイリスちゃんに攻略されてたように!

 基本の境遇がゲームと同じだからゲームそのままになりやすいけど!皆生きてるの!」

 「……は?ゲームはプレイヤーに遊ばれてナンボだろ?

 お前らだって同じだろ、ちょっと与えられた立場がヒロインサマだったり優遇されてるからゲーム通りに遊ぼうとしてるだけで」

 

 「それ、それは……」

 ある意味図星に、少女が杖に目線を落として言い澱む

 実際そうだ。結局やっていることはそう変わらない。ゲーム知識を使って良い世界を目指すなんて、彼等と同じ行動なのだ

 それが……例え自分一人のためでなく、ちゃんと生きてると認めたこの世界の人々の事も彼女なりに考えた末の夢物語だとしても

 

 だから、おれが言えるのは……

 「目を上げろ、リリーナ嬢」

 「でも、ゼノ君……」

 「迷うな、君は……この世界の可能な限り多くを救う天光の聖女リリーナ・アグノエル」

 「それは、私じゃなくて本当の」

 「そうあることを!自分で選んだんだろう!

 だったら言ってやる、リリーナ嬢。行動そのものは確かにユーゴ達とそう変わらないかもしれない。それでも!根底にある想いの輝きが違う!」

 

 「はっ!口説き文句か!?」

 「思っていることを言っているだけだ、ユーゴ!」

 そう叫び、燃え上がる炎と迸る雷……二本の武器の放つオーラを纏って吠える

 「まともに生き残りたいだけのおれとも、好き勝手何の倫理も考えず享楽したい彼等とも違う

 好きなものの為に!誰かのために!命を掛けて!ならば、それはもう生きることと同じ。その為に、君はおれの手を取ったんだろう!」

 「……ゼノ君」

 「その想いを信じたから、おれは貴女を護ると決めた。貴女の言う物語を……紡ぐために刃を振るう事を願った!」

 ああ、何を言っているんだろうおれは。リリーナ嬢にも、(れん)と言うらしいその魂にも。立ち向かう義務なんて皇族なおれと違って欠片もないのに

 これ以上、聖女という重りを彼女に載せるような最低な事を

 

 「……うっぜぇよ!死ねよてめぇ等!」

 更に強まる重力領域

 それに対して……

 

 「私に出来ること……聖女の力……」

 なにかを悩むリリーナ嬢の横で、おれは……届かないと知っていて、それでも。微かに鍔を左膝で蹴って愛刀の刀身を晒し、それによりオリハルコンの檻から解き放たれ迸る雷の導線を伝って……駆け出しながら全身全霊で投げ放つ!

 「紅ノ牙・改!」

 

 「無駄だぁっ!」

 が、それも蒼き水晶に阻まれ……

 「皇子!此処だ!」

 何処に居たんだよシロノワール!?

 突如アウィルの首筋の卦から飛び出す八咫烏の飛ぶ軌道に導かれるように……

 

 見えた!貫くための一点!

 だが、轟火の剣をぶん投げたが故に燃え盛る炎が力を失い、重力に体は囚われ……

 「行ける筈!私だって、聖女なんだから!」

 その瞬間、おれを包むのは優しい陽光のような金光。天光の聖女リリーナの放つバフ効果の魔法

 

 そう。始水が穴を空けたおれの鼓膜を治せたように、七大天の力をほぼ直接ぶつければ……おれに掛けられた呪いすらぶち抜く!

 いや、原作リリーナってゼノと共闘出来るのはヒロイン枠で主役じゃないアルヴィス編のみで、かつそこでは効かなかったから一八なんだが……効くなら良い!

 

 突如現れたシロノワールが導いた道を辿り、一呼吸置いて地を蹴り距離を詰める

 「なっ!?てめぇ!」

 絶対の護りたる蒼き水晶を越え、捉えた!

 「迅雷!抜翔ッ、断!」


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