蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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蒼槍、或いは悲鳴

キィン、と鳴り響く音。既に蒼い障壁は前面に展開され、電磁加速を受けて放たれた赤金の燃え上がる大剣を受け止めている

 

 流石に相手はアガートラーム本体を扱うユーゴ。アウィルが背後から襲いかかったような事をしても、恐らくは防がれるが……

 それでいい!今一度僅かに抜き放ち納める際に響く小さな音と拡がる雷が、奥義の発動を阻害。更に完全に横凪ぎに抜刀!

 

 これ自体を当てることも勿論だが、本来の役目は一気に雷の魔力を周囲に漂わせること!

 バチバチとしたスパークがおれの全身を、そして周囲を苛み、相手を捉えつつ収束する

 そこから放つのは、抜翔の名を冠するに相応しい翔龍閃。抜刀切り上げの一撃!

 

 「ぬがっ!?」

 刃は歪む世界に受け止められる。どうやら、歪曲フィールドだか何だかの防御壁との二重防御かつ、そっちは奥義判定がないらしい!

 が!大地に降り注ぐ落雷ではなく、天へと迸る翔雷!青年の体を重力バリア毎拘束したまま、天へと昇り斬る!

 

 「っ!らぁぁぁぁっ!」

 重い!本来は地上数十m程まで駆け昇りながら叩き斬る奥義だが、地面に縫い止めようとする数十、数百倍の重力が雷撃ならざるおれの体を大地に押し込もうと荒れ狂う

 飛び立てない……が!

 「舐めるなぁぁぁぁっ!」

 それでも!貫く!

 

 罪は背負おう、ユーゴ!それでも、お前は……此処で止める!

 地を蹴り大翔(ソラ)へ。周囲に展開した金の雷……轟火の剣の金焔と同じく覚醒状態の特殊な雷撃が、刃を打ち上げ……

 

 「無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!?」

 その言葉は、愉悦か悲鳴か

 効かないと全身を丸く覆う歪曲フィールドに護られながら、それでも焦りの形相を浮かべた金髪の青年は……思わずといった感じで顔の前で腕を交差する

 顔を護ろうとでもいうかのように

 

 「っ!はぁぁぁぁぁぁっ!」

 順手に握り締めた刃が重い。元々重いが、超重力と硬いフィールドに逆らっての斬り上げに耐えきれずに手首が悲鳴をあげる

 びきりと嫌な音が響き、刀の柄を強く押さえていた小指と薬指が撥ね、歪曲フィールドの重力に囚われて第二関節から本来曲がる方向から90度間違えた向きにへし折れる。中指に完全に覆い被さるようだ

 更には手首がガクン、とズレ……

 

 「あ、がぁぁっ!?」

 金雷が消える。おれの身長の倍くらいの高さまで翔んだところで奥義が終了し……打ち上がる加速を喪った体は超重力に引かれて地面に叩きつけられた

 

 「がふっ!」

 顔から大地に叩きつけられ、折れた前歯が左目を襲う。逆だったらヤバかったか、と思いつつ立ち上がろうとして……

 「驚かせんなオラァッ!」

 重力フィールドによりふわりと自由落下より遅く、天から降りてきた青年の右足がおれの頭を押さえ付けた

 

 「ったく、ビックリさせんなよな」

 言いつつ青年は、おれの手から溢れ落ち、近くに根元まで突き刺さった月花迅雷を見て

 「ま、良いや。月花迅雷は手に入る訳だし多少は良い()や……」

 突如、音が響く

 ボン!という爆発と共に、ユーゴの足に付いていたアンクレットのパーツが吹き飛んだ

 

 「おわっ!?」

 体勢を崩す青年を他所に、駆け抜けた白狼が母の形見たる刀を地面から引き抜いて咥えた

 「ちっ……というかオーバーヒートだと!?

 たった一撃を防いだだけで!?」

 きっ!とおれを睨む青年

 

 「やっぱりお前は、此処で……うげっ!?」

 その胸を撃つのは、太陽光のようなレーザービーム。封光の杖レヴァンティンの固有能力だ

 ダメージこそ確かレベル×1/3+3とかなり低いんだが……ダメージ計算式がそれだけというのが特徴

 そう、一切の軽減要素を考慮しないのだ。【防御】だの【魔防】だの【レベル】だの防具だの、それこそ歪曲フィールドも蒼輝霊晶も何もかも、そういった全てを無視する一撃が青年の胸を軽く抉る

 

 まあ、リリーナ嬢は聖女だ。直接前線でバチバチやるおれとは違う。レベルだ何だ、相手を殺すための力が強い訳ではないのだ

 ……生き残るためにはそのうち強くなって貰わなければ困るが

 

 だからこそ、ほんの少しの傷。致命傷には程遠いが……隙は産まれる!

 爆発でぐらついた足、更にレーザーに少しの後退りが合わさって完全におれの頭から足が退けられたのを見て……

 「負ける、ものかぁぁぁっ!」

 不滅不敗。決して負けない燃える心が、ある種目眩ましとして投げ放った結果数十m先に突き刺さっていた轟剣をこの手に呼び戻す!

 そのまま倒れた体勢のまま、左手の力だけで青年を支える軸足を狙い

 

 「油断も隙もねぇな!?」

 が、やはりというか蒼き結晶に青年の足は護られる

 

 が、それで良い。ふと見た瞬間に見えたものがある

 その時点で……おれのこれも陽動!

 「こんの!」

 何とか踏み止まった青年がおれを蹴り飛ばそうとして……

 

 「あぎゃぁがぁぁぁっ!?」

 初めての、本格的な悲鳴。いや、一度腕をへし折ったときに聞いたな

 「わ、僕は無敵のバリアが……」

 尊大な仮面が剥がれ、素の虚勢を張った普通の男が顔を覗かせる

 

 驚愕に見開かれた瞳で、青年は自身の肩から生えた蒼く輝く結晶槍の穂先を見つめていた

 「……げふっ」

 その体から黒翼が生える。いや……おれが派手に動く背後でこっそり突き刺さったあの槍を回収しユーゴ背後からその右肩を貫いたシロノワールが翼を拡げただけだ

 「バカな、こいつらは登録者以外には握れ……」

 「だから、私は握ってなどいない」

 その槍を掴む腕は黒い影に覆われていて、明らかに隙間だらけ。確かに……直接触れてはいない

 

 「そんな詭弁で使えるとか……がぁっ!?

 ……しかも、同系統だから、中和されるとか……欠陥がよ、本来は精霊の攻撃を防ぐための精霊障壁の……は……」

 同質の力はどうやら蒼い結晶を無視するらしい。それやおれが一度奥義無効でぶち抜いたとしての歪曲フィールドだったのだろうか

 だが、そいつは既に無い!

 

 「吠えろ!デュランダル!」

 中和の言葉通り、赤金の剣を受け止めていた結晶も虚空に溶け……

 

 ざしゅっと軽い音と共に、青年の体が足という支えを片方喪ってぐらついた

 

 「あんぎ、がぁっ!」

 血走った瞳がおれを、そして背後のシロノワールを睨み……

 

 「ガゥンダァァ!ドライヴァァォァァッ!」

 最早呂律が回っていない。それでも一度おれを襲ったオレンジの波動が全方位に向けて迸り……

 

 「効くか、そんなもの」

 一瞬影に潜ることでシロノワールが拡がっていく衝撃波の内側に潜り込む

 『ククゥ!』

 まともに対応できないおれの前には白い狼が立ち塞がり、降り注ぐ紅の雷撃で衝撃を粉砕した

 

 「っ!」

 「終わらせようか」

 「魔神王ォォォォッ!」

 漸く振り返り、シロノワールの姿を見た青年は叫び……

 

 「…………まで待たせてんだ、殺すぞ」

 何処かから反響するそんな声だけが響く

 忽然と、ユーゴ・シュヴァリエは姿を消していた

 いや、彼だけではない。刹月花の青年マディソンも居ない

 

 一瞬何か違和感もあったし、聞き覚えの無い言葉が耳に反響しているし……

 

 「時を止めて逃げたか」

 互いに結構仲悪そうだったしな。敵だと互いを思うことでおれ達全員の時を止め、互いにか殴りあったりしつつ何処かへと逃げ去った……というところだろうか

 

 既にもう、超重力も消えていて、反動か体が風船のように軽く思える

 ふぅ、とおれは立ち上がって……ぐらり、とやはりというか何時ものというか、無理しすぎた体が傾ぐ

 

 腕しか気にしてなかったが、やっぱり地を蹴って翔んだ際に折れてたか……

 

 そんな後悔とともに、おれは金髪のイケメンに突っ込んで……

 その体を突き抜けて地面に再度キスした

 「……実体消して避けないでくれないか、シロノワール」

 「聖女なら兎も角、お前を受け止めてやる義理が私にあるか?」

 

 ……うん、無いな


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