蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 アルヴィナ・ブランシュと機械剣士

「むぅ……」

 ボクは小さく唇を噛んで、体の各所にキューブ化して仕込んでおいたらしいパーツを展開結合させて何もなく見える場所から突然片手半剣を召喚し構える青い青年を見る

 

 何とか・タテガミ。ボクと親しくはなかったから皇子が呼んでた姓しか分からない、恐ろしい相手

 鋭く睨む瞳、左腕に輝く魂を石に変えた緑石。機械の腕が小さく唸り、ボクを威圧する

 

 でも、構わない。そもそもボクにあの人間を殺す気はない

 ずっと生きて苦しめば良い。死なんてあげる必要も価値もない

 

 死をあげたくなるしその価値もあるけど、でも何でか生きていて欲しい皇子とは真逆の感情。ちょっと殺したいけど、殺す意味がない

 ボクが彼を殺したら、皇子は怒ると思う。きっと悲しむ。そして……ボクを叱る

 そんな不利益を追ってまで、あんな奴をわざわざ殺してあげる必要ある?ボクは無いとしか思えない

 別に、死霊術を使って永遠にしたいとも思わないし、同意無くゾンビにして使い捨てるのは死霊術師として最低の侮辱。誇りも何もない下劣な行動過ぎてやれないしやる気もない

 ちょっぴり、ほんのちょっぴり……お兄ちゃんから折角パーティーがあると教えて貰ったから、皇子と踊れれば良いなって精一杯おめかししてきたのに、彼を追い出して滅茶苦茶にされた恨みはあるけれど

 でも、片腕で十分。ボクの皇子を馬鹿にした罰。死霊の呪いで治らない左腕で、隻眼と馬鹿にした皇子当人よりも馬鹿にされてしまえば良い

 

 だから特に攻撃するでもなく、ボクは機械式片手半剣……エンジンブレードを構える男を見下ろす。視界の端にさりげなく聖女になってるあの銀髪を庇うように立つお兄ちゃんを捉えながら

 

 そして、お兄ちゃんから目を逸らす。視界に入れていると、今のお兄ちゃんがカラドリウスの翼で実体化している死霊に近い魂だけの存在な事や、その顔付きがお兄ちゃんそのものな事をあの亜似に教えてしまうかもしれないから

 何時皇子が来るか分からない。裏切ってないという偽証を頑張るためにわざと経緯を伝えるべく途中でボクの見て聞いた事を記録する力を入れるから、その際に映らないように配慮する

 

 でも、お兄ちゃんは背後に二人の女を庇って皇子の味方という印象を植え付けながら、ふわりと浮き上がるとボクに向けて光を纏わせた翼を一振りして羽を飛ばしてくる

 フェザースコール、ちょっぴり痛そうに見えて、ボクはがくんと乗っている骨龍を揺らさせるけれど……別にダメージは無い。派手なだけ

 ついでに、寸前に飛ばさんとする光と羽根で文字まで作ってくれた。内容は……「茶番か?」ということ

 

 ボクはそれに、揺らしたことでずり落ちかけた骨龍椅子に座り直しつつ、両の手を叩いて応える

 黒煙の中から、一体の豪奢な骸骨が姿を見せた。まるで王様のような赤金の衣装を纏い、王冠を被った死霊

 でも、良く良く見ればこの王冠はメッキと軽い魔物の骨で出来ていて、じゃらじゃらした宝石もニセモノ。そう、この死霊は声劇において主役を虐げる残虐な王役……役者のもの。言うなれば、キングじゃなくオペラスケルトン

 「次々と!」 

 「AhhhhhhhhhhhhHEEEAh!」

 構えを解かずに攻め手を伺うタテガミとお兄ちゃん等、そして逃げた方が良さげなのに遠巻きに見てるだけのバカ達、全方位に向けてスケルトンの無い喉から放たれる声が襲いかかる

 

 そう、魂凍のブラストボイスみたいな咆哮ではないけれど、多少魂を揺らす音の攻撃。劇家の死霊でお兄ちゃんに茶番劇だと言葉を使わずに意思表示しつつ、これなら多くを無力化するためって立派な使う理由があるから真意がバレにくい

 

 「きゃっ!?」

 「くっ!」

 「あぎゃっ!?」

 お兄ちゃんは理解してか、ボクが死霊を出した瞬間に翼で女二人を覆って音を遮る。青髪の彼は……皇子みたいに、受けつつ自力で耐えて立ち上がるけど……殺す価値もない男はさくっと音にやられて意識の糸が切れたように崩れ落ちて膝を付く

 

 とりあえず、殺す気はないけど人質に……と更にナイフスケルトンを呼び出して男の首筋に骨のナイフを突き付けさせようとした、その瞬間

 「ハウリング・サイレン!」

 『エマージェンシー!』

 青年タテガミの機械腕、その手の甲から放たれる音波が声を限りに……魔力が尽きるまで息継ぎ無しに(肺もなにもないから当然)謳い続ける筈のオペラスケルトンの音をサイレンで打ち消し……

 

 ガキン、と緑のバリアが骸骨のナイフを受け止めた。決して砕けない硬度ではないけれど、止められれば隙は晒す

 「吠えろ!LI-OH!」

 『A!R!M!S!インパクト!』

 そして……左腕に構えられたエンジンブレードを振るってスケルトンを粉砕。した軌跡が緑に残ったかと思うと

 

 「……お願い」

 嫌な予感に咄嗟に骨龍にとぐろを巻かせてボクを護ってもらう

 嫌な予感は当たり、エンジンブレードの放つ緑の粒子から巨大な蒼き機械腕が召喚され、そのまま右ストレートが飛んで来る

 オペラスケルトンは一発で粉々となり、骨龍もバラバラの骨に粉砕されて、ボクは地面に引きずり下ろされた

 

 ますます、ボクの対峙したアレ……あとらす染みた行動が出来るようになっている

 

 ぱらぱらとした骨を護ってくれた事に敬意を込めて払わずに身に被ったまま立ち上がる

 対峙した青年はそんなボクに向けて剣を突き付けながら、トリガーを引くんじゃなく押してカートリッジを入れ換えていた

 

 「総員、待避を!」

 「いやでも、外にも魔神が……」

 「大丈夫ですから、此処はタテガミさんに任せましょう!」

 と、ちょっぴり苦労しながらあの銀髪と桃色髪が皆を誘導してる

 

 「すまないが、この仮組み式エンジンブレード、そう長く持つものではない!

 皇子も居る、事態に気が付けばガイスト団長も来る!」

 言われ、動き出す生徒達

 遅い。遅すぎて……狙えば殺せてしまう

 

 でも、殺さない。殺す必要はない

 「外は問題ない!」

 言いながら飛び込んでくるのは、待ち焦がれた灰銀色。ボク相手に本当に本気を出したくないのか、カラドリウス相手には使った蒼く澄んだ刀じゃなくて普通の鉄刀を握り締め、皇子が戻ってくると……

 

 ボクが湧かせたスケルトンを掌底一発で頭蓋を粉々にして倒し、崩れ落ちた片腕のゴミを背負う

 そして、両手で宙に放り投げた

 

 「悪い!彼を頼むエッケハルト!」

 それを見て、ちょっとだけ目を伏せるのは銀の少女

 気持ちは分かる。皇子ならそうすると分かっていても、皇子を馬鹿にした上にボクの『踊って満足したら宣戦布告』計画を駄目にした奴を目の前で庇われたらボクだってむっとする

 理解できるけど、何でそんなのまで助けるのか納得できない

 

 「ったく、押し付けかよゼノ!」

 おわっ!と体勢を崩しながら投げ渡された男の体を受け止めた赤毛がぼやく

 「全く、何で女の子なら兎も角男なんか背負わなきゃ……」

 「頑張ってください、エッケハルトさん!」

 「あい!あい!さー!」

 ……相変わらず、銀髪にチョロい

 

 そうして、人が捌け……お兄ちゃんもついでに聖女二人に付き従って大分下がってくれて

 ボクは漸く、皇子と対峙する

 

 余計なのが居るけれど。それも、滅茶苦茶強くて困るけれど

 「皇子、とっとと決めるぞ」

 あ、皇子も困ってる。ボクとじゃれあって、話を聞いたら壊してくれる筈だったのに、ボクに対する敵意が強すぎるタテガミは想定外

 

 「ねぇゼノ君」

 って、桃色髪が遠くから問いかけているのが聞こえる

 「すまない、竪神。おれにある程度やらせてくれないか」

 「しかし。システムL.I.O.Hはこれ以上魔神に誰の命も奪わせない為の力だ。私にもやらせてくれ

 ナラシンハと並ぶ四天王、放置など出来ない!」

 ……失敗した。タテガミの故郷はナラシンハに滅茶苦茶にされたと聞いていたのに

 うかつにそれっぽく四天王なんて名乗るんじゃなかった。面倒くさい

 

 「いや、アレはおれの敵だ、竪神

 おれが殺した、アドラー・カラドリウスの婚約者……復讐に燃える者。屍の皇女アルヴィナ・ブランシュ!」

 その場の全員に聞こえるように、普通の刀を腰溜めに納刀のまま構えた皇子が大声を貼り上げた

 

 でも、皇子。演技でも、その敵愾心込みの言葉は胸にちくっとする。やめて欲しい

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