蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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後始末、或いは静かな怒り

「あ、ゼノ君!大丈夫だった?」

 「皇子さま、お怪我は無いですか?」

 と、外に出ると掛けられるのは二つの声

 

 「竪神様ぁぁっ!流石です!」

 と、聞き覚えの無い声が横の頼勇を褒め称える声も横で聴きながら、おれはふぅ、と息を吐いた

 というか、やはりというか周囲には頼勇の方が労われるな……少しだけ妬ける

 いや、おれ自身助けられてるし単純にそりゃそうだと納得しか無いからな。少しだけ、おれにも……と思うだけだ

 

 駄目だな、こんな弱気じゃ

 「はい、お疲れ様」

 「同じだけやったろう。うだうだ言うな」

 ぴとりと背後から頬に当てられる暖かな感触に振り返る

 誰も居な……いや、背丈の問題で見えてないだけか。少しだけ目線を落とせば、暖かな手を爪先立ちで伸ばす金髪を纏めたエルフの姿

 

 「ノア先生」

 「ええ。何かあったというのであまり教師が見張るのは良くないからと遠巻きにしていたけれど、来させて貰ったわ

 勿論だけれども、あちらも一緒にね」

 「事態は解決かい、ゼノ」

 と、掛けられるのは何度も聞いた優しげな声

 

 「はい、シルヴェール兄さん」

 そう。外にもと人は言ったが、そもそもこの学園にはさらっと入学してもいないアイリスが居るし皇族最強を争うシルヴェール兄さんも居る訳で

 戦力で言えば、頼勇(アイリスとLIOH込み)、シルヴェール兄さん、ガイスト(ゼルフィード込み)、アウィル、おれくらいの順に強い事になるだろうか

 だから正直な話、万が一アルヴィナが茶番ではなく本気で殺しに来てたとしても頼勇から離れてでも外に逃げるのは正解だったんだよな

 

 「はい、とりあえずは」

 ポケットの手紙をちらつかせながらおれは苦笑いする

 「とはいえ、あれはあくまでも宣戦布告。まだ見てませんが……恋人のかたっ!?」 

 うぐっ!と足に走る痛みを飲み込んで続ける。蹴らないでくれないかシロノワール

 「仇を討つために、決戦の場を用意するから殺されに来いとは告げられましたが

 だから、まだ事件は終わっていない。寧ろ始まっただけと言えるものの……今回の戦いについては」

 その言葉に眼鏡の青年は頷く。いや、おれの確か11上だからそろそろ26歳を青年と呼ぶべきかは微妙なところだが、若々しいんだよなシルヴェール兄さん。理知的な大学生って雰囲気というか

 「うん、分かった。ルーちゃんにも伝えておくよ

 じゃあ、皆。お疲れ様。怖かったろうし疲れたろう?歓迎会がこんなことになってしまったのは残念だけれど、僕達教員や……」

 ふわりと近付いてきたイケメンがおれの肩を軽く抱き寄せる

 「皇族としても、直ぐに代わりというのは難しいんだ。今日は寮や家でゆっくりと休んで、ね?」

 

 その声音に彼の意図を理解する。さりげなくおれも皇族の一員だからな?と周りに向けてアピールしてくれたのだろう

 

 全く……流石は攻略対象、後から攻略対象入りした頼勇もだが、男から見ても格好良くて困る

 父さんが何で同性に好かれてないんだヒモに才覚振り切ったのかお前はとおれに呆れる気持ちも分かるというか……。そうだよな、普通リーダーってああいうものだよな

 

 何だか自分が情けなくなってきた

 

 そのまま、ポケットに手を入れるや其処に入れておいたのだろう飛行の魔法書を発動し、若き教師は何処かへと飛んでいった

 

 「聖女様!ちょっぴり足をくじいてしまって」

 「あ、ちょっと待ってて下さいね、直ぐに治してあげますから」  

 「腕輪の聖女様!おれも実は」

 そんな風に混沌とする中で、頼勇とアイコンタクト

 アイリスと云々で割と通じる辺り凄いなこいつ……と思いつつ、皆を返そうとして

 「何様だよお前」

 と、文句を付けられる

 

 いや、皇族様なんだがな、これでも

 まあ、仕方ないかと肩を竦め、頼勇に後を任せる

 っていうか、頼勇の言うことは素直に聞く辺り、人徳の差が酷いな。いや、頼勇はおれというかアイリスの配下という扱いだし、そのアイリスはというとおれに機虹騎士団関連ほぼ丸投げしてるしでまあ問題はないんだが……

 

 「聖女様、帰りましょうか」

 「あ、すみませんちょっとまだ一番の怪我人が残ってますから後でわたしは帰りますね

 心配しなくてもだいじょぶです。お茶とか、用意してくれたらわたしも嬉しいですから」

 と、アナがそそくさと帰る皆に挨拶なんかしているのを見送って……そういえば彼の方はと見れば、左腕の無い青年が意識を取り戻して呻いていた

 

 「……貴様」

 何か睨まれてるんだが?睨まれるような事したのかおれ?

 疑問を持ちつつ、異端抹殺を掲げる青年の前に立つ

 滅茶苦茶に睨まれるがそれより……

 

 「リリーナ嬢!」

 気になるのはその左腕だ

 「ん?どうしたのさゼノ君?」

 アナを送ろうと交渉するエッケハルトを尻目に呼べば、ひょこりとおれの横に立つ桃色転生聖女に、横目で呻く青年を示す

 「いや、おれはもう金に糸目は付けないから治してくれって言ったと思うんだが、何か問題があったのか?」

 「……何て言うか、結構残酷だよねゼノ君」

 ぽつりと告げられるのはそんな言葉

 ふと見れば、馬鹿らしいとばかりに飛んでいくカラスが見える

 

 ……エッケハルトにも振られるしシロノワールはこうだし、リリーナ嬢まで苦言を呈する辺り人望無いなおれ

 「残酷か?」

 「いや、私はまだ良いよ?でもさ

 あっちはもうゼノ君の事大好きじゃん?」

 

 と、少女はあ、と口をぽかんと開ける 

 「言って良かったのかなこれ」

 「告白ならされてるよ」

 「はやっ!?ルート確定早すぎない!?まだ一年目だよ!?」

 「まあ、断ったが」

 「好感度低かった!いやゼノ君的には普通か」

 ……何だろう、ちょっとエッケハルト感あるな、リリーナ嬢

 

 「というか、本当?」

 「そこ食い付くのかリリーナ嬢

 当たり前だろ。おれに好かれる価値はない。この異端抹殺官(サバキスト)の言うように、人々を護る事で生きていく価値を得てるだけだ。そんなおれは、誰も幸せになんて出来る筈がないし、呪いを断ち切るために誰とも結婚しちゃいけない

 告白も、好意も。おれには過ぎたものだ」

 「いや、残酷なのそこだよ

 ゼノ君はそれで納得できてもさ、助けられてる私達の側が当たり前って納得出来ないって言うか……」

 桃色聖女は曖昧な笑みを浮かべる

 「普通に命の恩人だよ?そんなゼノ君を馬鹿にされてさ、さも良いことらしましたーって言われてもいい気分になる筈ないっていうか、何で皆そうしておいて私達に話し掛けてくるかなー

 幾ら忌み子でもさ、頑張って助けてくれたしかも婚約者な相手を貶めておいて靡くと思われてるの何だかなーっていうか……」

 うん、いや何と言うか……今言うことかそれ!?

 

 「そんな事よりも大事な事があるだろリリーナ嬢!」

 「そんな事って言った!乙女の純情をそんな事って!

 デリカシー無いよゼノ君!」

 「目の前で苦しむ誰かよりはそんな事だろリリーナ嬢!何で治してないんだ金なら出すって!」

 いや、今のおれでも10000ディンギルなら工面できるぞ?苦しくはあるが出せなくもない

 

 「……むぅ、皇子さまは何時もそうですよね」

 そんな風に不満を漏らすのは、結局エッケハルトの送迎を無視した銀の聖女

 「……私に言われても、直接魔法は使えないから困るぞ?」

 周囲の警戒を解かず、はぁ、と息を吐くのは頼勇

 「あと、ワタシに頼むならちゃんと七天の息吹を渡してからにしてくれる?

 使ってあげる分の代金までは要求しないけれど、ものはアナタ持ちよ」

 ノア姫は何時も通りだった

 

 「いや、片腕の辛さは知ってるしそれは良いから、頼む」

 「それが……」

 何となく目線を下げた銀の聖女が、サイドテールを垂らして告げる

 「普通の魔法、弾かれちゃうんです

 皇子さま相手みたいに逆に傷が広がるみたいな怖い呪いじゃないんですけど、腕輪の力でも治せなくて……」

 俯く少女になら仕方ないか、と息を吐くが

 

 「いや待て、待ってくれアナ

 持ってる魔法書七天の息吹じゃなくてもっと安い奴じゃないか」

 治る訳無いだろその魔法で!?初期も初期、プロローグですらHP回復より経験値稼ぎの意味が強い初級魔法だぞそれ。2~3回使わないとそんな序盤ですら全快しないレベル

 「勿体無いですよ?」

 「頼むから真面目に治してやってくれ」

 

 ……何だろうな。アナが最近冷たいんだが


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