蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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猫、或いは珍生物

「皇子さま、知り合い?」

 おれの後ろから聞いてくるのは銀髪の少女

 

 ……そういえば会ったことがあるのはあくまでもおれだけか

 「彼女はリリーナ・アルヴィナ男爵令嬢

 まあ、おれもそんなには知らないけれども」

 「……婚約者?」

 「いや、違うけど」

 「そっか」

 ……何がそっかなんだアナ。以降会うことがあるかどうかか?

 「そしてこっちがアナスタシア。おれはアナって呼んでる

 おれが管理してる……ことになってる孤児院の女の子だ」

 と、ついでに向こうにも分かるようにアナの事も紹介しておく

 「それで、結局何しに来たんだアルヴィナ男爵令嬢?」

 

 「……ボク?」

 天属性故だろうか。月のように輝く金眼が揺れる。今日は髪飾りが無く上げられていない前髪が左目を隠し、見え隠れする眼は正に月そのもの

 ……ってボクっ娘かよ。と微かに笑う

 

 本編リリーナは外見によって多少声は変わるものの、基本的な性格は特に変わることは無かったはずだ。というかそもそも桃色固定なアルヴィス編ヒロイン状態以外ではmapでしか声が付いておらず地の文と声無し台詞だけだったのだが、わざわざそこで一人称をグラ毎に変えたりという面倒な処理はしていなかった。つまり、聖女リリーナの一人称はわたし、ボクではない。ならば彼女は聖女じゃないのか……というと、それはそれで昔はそうだったというだけで成長すればわたしと言い出しても可笑しくはない

 

 「そうそう」

 「動物展

 ……犬猫展?」

 「そうだろ?」

 目をぱちくり

 「犬猫?」

 「犬猫」

 「動物展……って、聞いた」

 「実際には珍しい犬猫展だ」

 みるみるうちにしょぼくれる黒猫

 ……いやリリーナなのだが、そこはかとなく子猫いのでつい比喩しただけだ

 ……一瞬だけしおれた猫のような耳が頭頂に見えたのはきっと気のせいだろうそうに違いない。獣人種は居なくはないが偏見も多いのだし(具体的に言えば例えば帝国の東に隣接している国家は国家ぐるみで薄汚い獣人種は人ではないとしている。あの国では獣人種に人権はない)仮にも貴族がそんなことはないだろう。獣人種の貴族は……変わり者として一応攻略対象に居たりはするのだが変わり者扱いなのだし

 

 「珍しい……動物」

 「居ない」

 「……見たかった」

 情報伝達に何らかの齟齬……というか抜けがあったらしい

 「珍獣の方が?」

 こくり、と黒髪の少女は頷く

 「本で見たもの、本物見たかった」

 ……ああ、何だ同じか

 「……見たければ見せようか?」

 なのでつい、そう呟いてしまった

 

 「居るの?」

 「皇子さま、他にも動物展きてるの?」

 「いや、違う。別に珍しい動物を見せる人達が来てるって事はないよ」

 と、言いつつ人混みのなか、さりげなく自分の体を盾に少しずつ少女らを道の横に寄せつつ、これみよがしにケージを振る

 「……ケージ?」

 「そう、珍しいというか珍妙なものならば見せられる」

 珍妙なと言った瞬間にケージが抗議そのものとして揺れるが無視。無視だこんなもの当たり前だろう珍妙なとしか言いようがない

 「……見たいか?」

 「見たい」

 「後悔しないな?」

 と、聞きつつ銀髪の少女にも確認

 「面白いものではないけれども、アナも見るか?」

 「面白くないけど、見せたいもの?」

 「まあ、ある種良い経験では……あるのかな」

 アレをどういって良いのか悩み、言葉は割と不明瞭になる

 

 「……気になる」

 「皇子さまがそう言うなら」

 少しして、二人の少女は軽く頷いた

 「ん、なら見せようか

 ……卒倒するなよ?」

 言いつつ、少女等の目線まで持ち上げてからようやくケージの扉を開く。外から鍵はかけられないタイプである為、アレが抗議に揺らしつつも外には出なかったからいままで持ったのである

 そこから、一匹の猫が顔を覗かせた……と、一瞬少女らにはそう見えただろう

 ……だが、実際はそうではない。頭一つちょっと高いおれの背から見下ろすとよく分からんペラペラの何かが動いているとしか見えない

 

 「……こ、これは……」

 「お、皇子さま……?これって?」

 「珍妙だろう?」

 冗談めかして笑い飛ばしながら、改めてケージを振る

 そう、ペラペラだけれども見方によっては猫に見えるもの。言ってしまえば看板に描かれた猫をその形に切り取ったようなもの。それがケージの中身であった

 『……!』

 鳴き声は無く。無言でケージから飛び出した猫看板がぐにゃりと胴なかばから折れ曲がり、その一直線上に四本並んだ足のうち一番前にあるものでもっておれの頬を引っ掻いた

 ……ダメージは無い。実は計算上割とギリギリなのだがこの珍生物の爪(収納機能は無いので出っぱなしである。恐らくケージのなかはそれはもう爪痕だらけになっているだろう)の攻撃力はおれの防御を越えない

 

 「……面白い、もの?」

 「アルヴィナ男爵令嬢、触れてみれば分かる」

 ペラペラして掴みにくいがとりあえず片手で書類でも握るように右手でもってその首根っこを掴み、ぐいと突き出す

 おそるおそる、黒い子猫はネコモドキに指先を向け、震えるそれで軽く触れる

 そして、目をぱちくりさせた

 「あったかい」

 「そりゃ珍生物だからな、暖かいよ」

 掴む手にも毛皮っぽい感触。血が通った生き物のもののようにか、内部発熱で温かい

 そう、これが珍生物という理由は簡単。看板切り抜いたような姿のくせに生きているのだ、このフレッシュゴーレム

 

 「皇子さま、これって?」

 「フレッシュゴーレムだよ」

 おれの答えに、黒髪の少女は目を見開き、問いかけてきた少女は首を傾げる

 まあ、そもそもフレッシュゴーレムそのものが珍しいものなので知らないのも仕方ないといえば仕方ない

 「皇子さま、この子って……ゴーレムなの?」

 「ゴーレムだよ

 昨日見て、愕然とした」

 言いつつ、首根っこを離し、ケージの上に落とす。ペラペラの割にバランスを崩すこともなくすっくとその謎生物は立った

 ……本人としては正面見てるつもりなのかもしれないが平べった過ぎて視認性悪いなこれ、なんて苦笑もして

 「アイリス、だから言っただろ?」

 と、おれはそのゴーレムに語りかけた

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