蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
埃を払って立ち上がる青年を静かに見下ろす
「見下すな、触れるな」
と、手を差し伸べるもパァン、と払われてしまい、ただそれを眺めるしかない
その彼の左肘から先はぬめっとした赤い血に覆われていて……けれども、無くなった筈の腕がしっかりとある
それを見て、良かったと息を吐いて……
「これで問題が無くなったとでも思っているのか化け物」
ぴしゃりとした冷たい声に背筋が冷える
「はい、問題だらけですよね?」
笑顔の抜けた光の無い瞳で、胸の前で手を組んだ少女が小さく首をかしげた
「皇子さまは、貴方を助けてくれました。責任も何もないのに、大事なものを使って」
「腕輪の聖女よ。それがこの化け物を生かす価値だ」
あ、絶句してる。小さく口を開けたまま、銀の少女は何を言って良いか分からないといったように固まった
「そう。何が言いたいの?」
おれの背後から姿を見せずに告げるノア姫
何となくエルフである自分はそうそう姿を見せるものじゃないのと言いたいんだろうなと思い、半歩ズレて更にしっかりと視線を遮るようにする
「礼?礼だと?
何故そんなものを貴様にやらねばならない」
「それはどういう話でしょう、
いや、当たり前みたいに言われてるが、一応おれ聖教国から来る者の話聞いてないからな?昔のアステールみたいに誘拐された訳でもなく自由意思で来てるんだから……
「多少は連絡無く帝国領土で我が物顔で裁きを語る点について、此方から問題視しても良いとは思うのですが」
そう、ぶっちゃけた話すると
つまり、今の状況ってアメリカ諜報機関の人が無許可で日本で日本人をテロリストだと騒ぎ立てて射殺しようとして、何故かロシアのスパイに狙撃されて死にかけたとかそんなんなんだよな、地球で例えると
当然ながら、他国の社会的地位のある人間を国交あるうちが見捨てたら問題だが……
「あれ?そう考えるとそもそも悪いのはサバキストさんでは?」
「最初からそうだと思う。私は聖教国の事良く知らないけどさ、他国で問題起こして良いほど偉いの?ちがいほーけん?」
と、桃色と銀色、二人の聖女はおれ側に立って青年を責める
……ところで始水、チガイホウケンって何?
始水と見たスパイ映画を元に例えたものの、難しい言葉知らないんだが
『治外法権。その国の法律には縛られず自由にする権利を持つって意味ですよ兄さん
幕末の日本史なんかで出てきたはずですから、しっかり勉強してれば分かった筈です』
脳内ヘルプを出せば即座に幼馴染の解説が入る
つまり、帝国の法を無視して帝国内で動けるってことか
神か何かか?
『どうも神的に助かる幼馴染です』
いや神様だろ
『まあ冗談です。一見神のようにも聞こえる概念ですが、しっかり故国の法は適応されますよ。好き勝手出来る神ではありません』
そういうものなのか
頷いて、青年を見据える
「おれとしては問題にはしたくないが、そちらにも落ち度があることは分かってくれ」
「落ち度だと?」
「助けてくれたのは皇子さまですよ?」
「聖女よ、忌み子に騙されてはいけない」
滔々と続けられる言葉。また始まったのかと息を吐きかけて……
「奴こそ元凶だ」
静かに息を呑む
ってか良く分かったなという話。確かに、おれとアルヴィナはグルだ。あれが茶番なのも、内応しているのも事実。一応……ノア姫とリリーナ嬢、あと父さんは知ってる事だな
何処から気が付いた?どうやって見抜いた?
思考を読み取る魔法なり何なりが……
だが、焦りを顔に出してはそれこそ答え合わせだ。どうせひきつっている火傷痕に集中して表情を無理矢理に作り、平静を装う
「どういうことですか?皇子さまの何が悪いんですか」
「聖女よ、何故魔神が異端抹殺官たる我を攻撃したのか、貴女であれば理解できるだろう」
「え?私に分かるわけないじゃん」
困ったねーと肩を竦めるリリーナ嬢に目線を向け、青年は勝ち誇ったようにびしり!とおれを指差した
「そう。忌み子のせいだ」
……多分その通りだろうから反論できない。確認は取ってないが、多分アルヴィナ的には皇子を護ってみた、くらいのノリだったのではなかろうか。そうでなければわざわざ呪うとは思えない
「忌み子が指示したのだ。我を狙えと」
「あら?異端を抹殺すると嘯くのだから敵だと思われたのではなくて?
つまり、魔神族の敵として立ちはだかるから先に油断しているうちに潰すのよ」
「はっ。無知が」
ノア姫に暴言を吐きつつ、偉そうな彼は続ける
「異端抹殺官は聖戦士ではない。魔に与する異端が人々を脅かし神の寵愛を否定する愚行を行わんとするのを裁く者
魔を滅ぼすは聖女様方と聖戦士の役目だ」
うん、つまりは……直接人々のために戦う気はないと
駄目駄目だなその職業!せめて直接信徒の為に戦えよ異端抹殺まで言うなら!ただの特権階級か何か?
「……戦わないんですか?」
「戦うとも。内部から我らを狙うおぞましい悪と」
「皇子さまは悪じゃありません!」
ぽつり、と耳に届く悪役令嬢扱いされてるけどね、というぼやき
まあ、悪って言葉は付いてるな
「皇子さま、皇子さまも何か言ってください!」
「シエル様、おれは『
ただ、サバキスト殿。誓っておれは貴方を傷付けたいと思ってなどいない。魔神と通じて世界を滅ぼす気も無い」
背後で呆れたようなわざとらしい溜め息の音がする
仕方ないだろノア姫。内通は事実なんだから
「ふん、どうだかな
精々、役立って死ぬが良い」
その吐き捨てられる言葉に違和感を抱く
おれとアルヴィナの関係を何処まで見抜いているか知らないが、アルヴィナと殺し合えという言葉は出てこなくないか?
「……さっきはグルだろうと言われた気がしたんだが、な」
「うん、私も聞いたけど」
「……我等を狙うなど、異端のやりそうな事だ。だが裏切り命を捧ぐというなら赦す」
持ち出した銀の短杖をおれの首筋に突き付けてそう告げた彼は、結局礼ひとつ無く去っていった
「……結局何だったんだ彼」
というか、勝手に入り込んでる辺りの問題完全にガン無視されてるな……
どうしたものかと思った瞬間、周囲が暗くなった
「ふふー、だーれかわっかるかなー」
しゅるりと足に触れるのはふかふかの二又尻尾。弾む声は聞き覚えのあるもので、目を覆う掌も磨かれた白磁のような手触り
「此処に居てはいけない方」
「ぶっぶー、おーじさま間違えちゃ駄目だと思うよー?
正解はー、うちの異端抹殺官がめーわくかけたから、手助けにきたお詫びステラー」
ぱっと目隠しにした手が解かれ、振り返れば
やはり、其処にはぴこぴこと大きな先が黒い狐の耳を揺らす亜人の少女が立っていたのだった