蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 アルヴィナ・ブランシュと魂の棺

「っ!アルヴィナ……か」

 戻ってきたボクを出迎えたのは

 

 「兄様?」

 ボロボロの亜似だった。玉座に突き刺さったままの王剣ファムファタールの下で、玉座に座るというよりはもたれ掛かるといった趣

 右足が膝から無くなっていて、黒翼も折れ、そして……背中の何時もは蒼い炎を纏う紋章の剣翼からも焔が消えてくすんだ色をしている

 

 このまま死ねば良いのに。そう思うしお兄ちゃんの体が死ぬのは構わない。ボクが何とかするだけで良い

 魂と肉体が分離するのが死ならば、お兄ちゃんはもう死んでるし何も問題ない

 

 でも、流石に此処でボクが止めを刺す事は出来ない。横で甲斐甲斐しく亜似の体を拭いているニーラ・ウォルテールがそれを阻むだろう

 

 「兄様、どうしたの?」

 ボクが皇子のところに仮初めの体を用意してそこに意識を飛ばして出掛ける前、意気揚々と神を追い込んでくると楽しげに出ていった時は、こんなじゃなかった筈

 

 「アルヴィナ」

 荒れた吐息、つぅと唇から垂れる青い血。皇子のならちょっと舐めたくなるけれど、亜似のは御免でちょっぴり視線を下げる

 「アルヴィナは、昔あのチート野郎とAGXがどうとか、言ってたよな?」

 苦しげに、亜似はボクに問い掛ける

 

 「兄様、それより……」

 「答えろ」

 怒気に耳を伏せて、ボクは頷く。お兄ちゃんだったらしないのにと思いながら、何で疑うしボクの疑問を無視するのか分からないし困惑しながらも、ちゃんと返す

 何も嘘は言っていない。地雷は無いはず

 

 「アトラスのこと?」

 「違、う。もう一体」

 「あがーとらーむ」

 更に、右瞼に傷が入った顔が険しくなる

 「そう。あいつについて……アルヴィナ、なんて……言った?」

 

 「あの皇子が、勝った」

 「そこじゃない。どんな……だ、と?」

 「まともに動かない。皇子は最強の置物と呼んでいた」

 実際はそうじゃなくて、たった一撃で皇子を死の間際に追い込んでいたけれど。でも、その一撃以外まともに動かなかったのは確か

 

 それに……

 「宣戦布告のついでに記憶を読んだ」

 これは嘘っぱち。あの白狼が、光ある世界にボクが潜り込むなり目敏く……鼻敏く?駆け寄ってきて教えてくれただけ

 『アウィルが居るのはおーかみのおかげなんじゃよー』って、ペロペロされた。別に良いけど

 

 「少し前に、今一度皇子等は戦ってた。その時も、まともに動いてない」

 「それは何時だ?」

 「知らない。ボクにそこまで分からない

 でも、とても最近」

 どうしてそこまで?とボクは首をかしげる。耳はしっかりと伏せて、怖いって事をアピールすることも忘れない

 

 そうでないと、恐ろしいままだから

 

 「……嘘はないのか」

 「兄様、どうして疑うの?」

 嘘混じりだから、それを見抜かれる気がするから。わざと話題を逸らす

 「アルヴィナ。俺がここまで追い込まれたのは……何のせいだと思う?」

 知らない

 

 「……七大天」

 「間接的にはそうか……」

 あ、合ってた

 「だが、それが本題じゃない。確かに追い立てたティアが俺を奴等とぶつけ合った結果ではあるけれど、龍姫自体は王権ファムファタールの敵じゃない。他の神とつるんでない個体なら勝てる」

 「なら、アトラス」

 「t-09ごときに負ける道理あるか?」

 ボクは必死にやってギリギリ勝ったんだけど。そうイキるならば、あの時ちゃんと助けに来てくれれば良かったのに

 

 「あがーとらーむ」

 その言葉に、お兄ちゃんの肉体を使う青年は強く頷いた

 「そう、アガートラームだ。幾らなんでも、t-09(アトラス)だの11H2D(アルビオン)だのごときに負けるような王権じゃない

 ATLUSを追い詰めたその時、ちゃんと飛んできたんだよあいつ……銀腕の巨神が」

 睨み付けられる瞳。でも、ボクは知らない

 

 「なぁ、アルヴィナ。戦闘機動取れるじゃないか、嘘ついたのか?不意を打たれて死ねと思って、わざと警戒させなかったのか?」

 「ボク、知らない。言われても困る」

 「……本当に、アガートラームはまともに動かなかったんだな?」

 強く首肯を返す。言うべきか悩んだことも言う

 

 「アトラスと違った。あっちは途中で突然身震いするような気配を纏ったけど、それっぽさが無い」

 「気配」 

 「ボクの天敵って、思った。あの雷は、危険すぎる」

 

 思い出すだけで今でも体が震える。きゅっと手を握る。あの……ぶりゅーなく?という雷槍は、ボクの扱う死霊術に近いけれど、ある種の上位版だから

 

 「なら、本当に俺の前に戦闘機動で現れる寸前まで、あいつは……ゼーレシステムが動いていなかったのか?」

 「ぜーれ?」

 ……聞き覚えがある。ボクの耳には聞こえなくて、皇子の聴覚では捉えていたあの言葉

 

 「ぜーれ、ぜーれ……

 ぜーれなんちゃら、ちゃん何とか?」

 「SEELE G(グレイヴ)-combustion Chamber」

 「そう、それ。皇子がアトラスを追い込んだとき、突然それが解放されて恐ろしい気配を纏って復活した」

 意味は分からないけれど……魂の墓場の何とかだと思う。死者の想いをどんな暗いものでも、だからこそ暗闇を打ち砕き未来を照らす雷に変えて打ち出すとんでもない死霊術

 

 後悔も怨念も破壊衝動も怒りも何もかも未来を切り開く正の念に変換して放つなんて、どんな手段なのかボクには見当もつかない

 死者の力を借りるのが普通の死霊術。あんな馬鹿げた従え方、訳が分からない

 

 「ってかさー、そっちじゃないってのアルヴィナ

 そいつはATLUSにも後付けされた対X兵器。俺が言ってるのはゼーレコフィンの方」

 「なにそれ」

 相変わらず、亜似の言うことは分かりにくい

 

 「親しい相手を眠らせる絆の棺だよ、中身あったか?」

 「(ひつぎ)?棺桶が入ってるの?

 でも、ボクが知る限り、あがーとらーむにそんなボクが見たら分からないはず無いような生け贄?は居なかったと思う」

 あくまでも皇子の見て感じたものを通した初回も、あの狼の話してくれた二回目も、ボクは直接見た訳じゃないけれど

 それでも、目立つと思う

 

 「特徴は?」

 「コフィンに埋葬した相手はホログロムで出てこれるけれど実体がない

 だからホムンクルスの代用ボディでそれっぽく生活させてた……って設定だよ。ゲーム内ではクソボケ共がそこまでやってたって設定でしか無いから知らん」

 「そうなんだ」

 

 ……良く分からない。ゲームの理屈は分かるんだけど、亜似のやってたゲームではあがーとらーむが出てこない?

 その割に良く知ってる

 

 「とりあえず、居なかった」

 そのボクの言葉に、ふーんと彼は頷いた

 「じゃ、マジで負けそうだったから、誰かをコフィンに放り込んで無理矢理戦いに来たのかあいつ」

 良かった良かった、と息を吐く亜似

 

 「良かったの?」

 「絆の棺だからさ。本気で戦闘機動行ってるとすぐにそいつが燃え尽きる。そんだけの覚悟をあのアホ共が固めてないから、次元の壁をぶち破って此処に攻め込んできたりの予想外の行動はまず無いだろう」

 その言葉にボクはこてんと首を傾げた

 

 もうボクに対して威圧はない。納得してくれたみたいだ

 だから……可能な限りの情報を聞き出す。そして、皇子に対してちゃんと持ち帰る

 ボクは偉いから、手土産は忘れずに……決戦を仕掛けて負けに行く

 

 「要らない人、入れたら?」

 「あーダメダメ。アルヴィナも考え付くだろそれ?

 絆を焔に変える力。記憶と絆を葬って力に変える訳だから、コフィンに埋葬するのはちゃんと自分にとって大事で縁がある相手じゃないといけない

 例えばアルヴィナが適当な人間を放り込んだとして、絆がないから一瞬で燃え尽きる。効率ゲロ悪、コフィンが空になるのが爆速過ぎて敵前で機能停止する」

 ……うん、分かる

 

 「じゃあ、大事な人を取っ替え引っ替え、ちょっとずつ」

 ボク自身自分でも無理だろうなと思いながら、一応聞いておく

 「……出られたら棺じゃない。分かるだろアルヴィナ」

 「分かる。埋葬と言うなら、出られちゃいけない。不可逆

 そうでないと、制約にもならないし、力に変えられない」

 「まあ、だから……」

 と、青年はボクの瞳を覗き込む

 

 「アルヴィナ、正直さぁ……本気であいつ殺しに行かなきゃいけない?」

 「あたりまえ」

 そして負けて、皇子のところに帰る

 その目標があるから、何とか亜似を兄様と呼んで対応するのも耐えられるのに

 

 「正直、適当に噛ませてちょっとでもあのアガートラームのゼーレを燃焼させて貰いたいから、俺達の関係無いところで死んでくれって思うんだが?」

 「……困る」

 「まぁ、万が一何かチート能力で魂燃やさなくても良いとかなったら意味ないんだけどな」

 

 「……有り得るの?」

 「おうおう、ワンチャンあるレベル

 例えば、俺の王権ファムファタール・アルカンシェル、本来の持ち主が払ってたはずのリスクが全く無く好き勝手振るえるしな」

 「こわい」

 「まあ、でも流石にゼーレ無しでフルスペック出せるなら今頃世界終わってるし、何かリスクあるんだろうな」

 「そう、願う」 

 

 そう相槌を打ちながら、ボクは……

 皇子を通して見たあのへんな彼が、一体誰を生け贄にしたんだろうって思っていた

 

 そんな相手、居たの?


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