蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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魔名、或いは相手

夜風が頬を撫でる

 

 此処は学園の外、流れる川に添って暫く歩いた場所である。時折騎兵隊が訓練していたり、魔法の授業で学生が使っていたり様々だが、実はそれ自体が発光しているらしいこの世界の月の明かりが木々のあまり無い草原を照らす今は人気がない

 

 ある程度は整理されているが自然の多い河原を二人……いや、一人と一匹で進んでいた

 「アウィル、まだ行くか?」

 『ルルゥ!』

 おれの言葉に、白狼は元気良く吠えた

 

 そう、何しに来たのかと言えば、アウィルの散歩である。犬か

 いや、誇り高い狼にしては人懐っこいし犬みたいなものだが……ってそれはそれでどうなんだ?

 

 その強靭な尻尾を立てて左右に揺らしながら歩みを進める白狼に先行して暫く歩き続ける

 

 と、段々と音が響いてきた

 

 ブン、ブンと空を断つ風切り音。ってか、アウィルの散歩を兼ねただけで、実はこっちが外出の本命だ

 見えてくるのは、紅の金属の柄をした緋々色の剛剣。何となくデュランダルを思わせる(というか実際モチーフとして使わせて貰ってるのだとか。アイリスが自慢していた)が、その大きさは大剣であるアレとすら比較にならない。全長にして21mを誇る、LI-OH用の武装である

 それを振るのは、機械腕を持つ青髪の青年竪神頼勇。と、その横で見守らされているオーウェン、そしてアイリスゴーレム。今は本人を模した少女型だ

 いや、何か頭に猫耳生えてるけど。何の意味があるんだそのつけ耳

 

 ついでに、いくら感覚無いから全く寒くないからって薄着過ぎるぞアイリス。本体は寒いってもこもこした布団に潜り込むってのに……いや、だからこその薄着ファッションなのか?

 

 そんな妹にお兄ちゃん心配だぞと言いながら、ふぅと息を吐いて此方を見る青年に手を上げて挨拶

 ドゴンという音と共に巨大剣が地に落ちた

 うん、無理して振ってたんだから気をちょっと抜けばそうなるわな

 

 「竪神」

 そう言って、おれは更に少し近付いて……

 空気がスパークする気配に振り返った

 「……アウィル?」

 地を蹴る音に、おれも合わせて地を蹴る

 

 弾丸のように桜雷を纏って駆け出そうとした白狼と青年等の間に割って入り、その鼻面を腹にまともに食らって地面を転がる

 「アウィル、どうした!?」

 『「ぬし!ぬし!」』

 スパークする雷鳴を抑えることもなく、バチバチさせながら吠える興奮状態の狼を、おれは飛び上がるとその頭を抱き締めることで宥めに入る

 

 『ルグゥ!』

 「アウィル、本当にどうしたんだ」

 『「そこの!臭いんじゃよ!」』

 頼勇……な訳はないだろう。アイリスも違う

 

 『「やな臭いとおんなじ!」』

 その言葉に理解する。アウィルは世界に嫌な臭いが充満してるから来たと言っていた

 それは恐らくはおれ達真性異言(ゼノグラシア)の事で、その中でも『円卓の救世主』を名乗る者達関連が主立ったのだろう

 その魂がどうこうの臭いが分かるってとんでもない事なんだが……理屈的にはオーウェンって円卓の救世主のメンバーと同じ臭いになる筈だ

 AGXというこの世界では無い場所の兵器を持っているし、転生者だしな

 

 「……え、え?」

 困惑するオーウェン、吠えるアウィル、どうして良いのか悩む残り二人

 「アウィル!オーウェンは別だ!」

 『……キュゥ』

 少しだけ不満げに鳴いて、けれども白狼は桜雷を消し去って地面に伏せた

 

 「おわり?」

 「一応な」

 と、おれは妹に対応しつつ黒髪の少年を真剣な瞳で見据えた

 

 「ただ、オーウェン。すまないんだが一応自分の口からも言ってくれないか。自分は彼等とは違うと」

 バツが悪く頬を掻く

 

 「いやまあ、来て貰ってこれって割とこっちが悪いんだけどな」

 「い、いや……大丈夫だけど、誓うのってどうすれば……」

 「神の名において」

 こくりと頷く頼勇

 

 「例えばなんだけど、七大天滝流せる龍姫ティアミシュタル=アラスティルの名において……」

 きょとん、とする顔がおれを見上げた

 

 「えっと、ティア……ティア……ティアマット?」

 「いや、ティアミシュタル……」

 「聞き取れないんだけど」

 

 ……あ

 

 「そういえば、人によっては特定の神の魔名が聞き取れないんだっけか」

 理屈とか後で始水に聞いてみよう。アステールと話せるかどうかとか兼ねて

 「……牛帝と道化だけ」

 「私が唱えられるのは王狼くらいだ。寧ろ全天の魔名を唱えられる人間はほぼ居ないだろう」

 と、補足してくれる頼勇

 

 「じゃあ、プロメディロキ……」

 ちょっぴり髪が焦げ、オーウェンが首を傾げる

 「牛帝ディミナディア」

 ダメそうだし、地面がちょい揺れた

 「王狼ウプヴァシュート」

 頷くのは頼勇だけ

 「猿侯ハヌマラジャ、女神アーマテラ……」

 「アマテラス?」

 あ、ダメそうだ

 

 「これでほぼ最後、クリュスヴァラク=グリムアーレク」

 というか、みだりに呼ぶとダメージ来るんで早めに決めたかったな……

 なんて思うおれの前で、少年はもごもごする

 

 「ごめん、もう一回」

 「影顕す晶魔クリュスヴァラク=グリムアーレク」

 「クリュスヴァラク……」

 って何だ、呼べるじゃないか

 

 「晶魔グリムアーレクに誓って。僕はただ、この世界で見つけた」

 気弱そうな少年は、そこで一度言葉を切る

 そして、きゅっと両手を握った

 

 「違う。見付けさせて貰った暖かいものを……失いたくない、壊されたくないんだ

 この世界を滅茶苦茶にしたくも、されたくもない」

 暫く何も言わずに待つ

 

 何も起きない

 「ああ、そうだなオーウェン」

 『ルゥ!』

 納得したとばかり、アウィルが鳴いた

 

 神に誓って、何も起きなかった。寧ろそれが正しい。何か起きるということは、おまえそれ嘘だろとばかりに天が裁いたというのが定説だ

 『ちなみに、私に誓った場合嘘ならびしょ濡れにしますね。魔名を唱えられれば少しは干渉できますので』

 ……事実らしい

 

 すとんと座りこんで、己の舌と鼻で毛繕いを始めるアウィル。警戒は完全に解けたのだろう

 そうしておれは、漸く本題に入る

 

 「さて、竪神」

 アウィルが背に背負った愛刀を引き抜き、つぅと左手の人差し指を刃に滑らせて刃先で止め、格好つけて構える

 「訓練相手が要るんだったな?」

 「ああ、ある程度で良いが、LI-OHとやりあえなければ困る相手が」

 

 ふっ、と笑う

 「引き受けに来た」


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