蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「うーん、ゼノ君大丈夫かなー」
って、私はぽつりと呟く
まあ、今の私って結構凄い安全な場所に居るんだけど、それだけに心配とかあるんだよね。シルヴェール様くらいに陰険めが……完璧超人ともなれば逆にまぁあの人だしねって思えるんだけど、ゼノ君そこまですっごい信頼出来ないし……
あ、別に信頼できない訳じゃないよ?魔法面からっきしも良いところだけど、とんでもなく強いのは確かだしね。でもなんか危なっかしいっていうか……うん、心配になるよね
「えへへ、そろそろ出来ますから待ってて下さいね」
って、銀のサイドテールを揺らして私を部屋に招いた女の子は微笑んだ……って、何でいつの間にかメイド服着てるのこの子!?
驚愕する私を他所に、白黒のメイド服に身を包んだ女の子は嬉しそうにテキパキとお茶の用意を整えていく
何処かから買ってきたんだろうぴかぴかのカップにお湯を貯めて暖めつつ、ポットに用意した茶葉にしっかりとお湯を注いでふんわりと香りを立たせながら待つ
「えっと、リリーナ様は、お茶に合わせたいものってありますか?わたしに用意できるものなら幾らでもお出ししますけど……」
「あ、じゃあミルクをお願い」
って、私は普通に返したんだけど、少女はあれ?って首を傾げる
「お茶とミルクですか?」
「え?私好きだよミルクティー」
レモンティー……はこの世界普通のレモンじゃなくてこの世界の柑橘類だからあんまり合わないんだよね。甘すぎたり、酸味が凄かったりで結構紅茶みたいなお茶とは喧嘩する。その点、ちょっぴり濃厚だけどミルクは良く合うと思うんだけど……
「わたし、お菓子のことを聞いたつもりだったんですけど……」
「あ、お菓子!?じゃあケーキ……は高いよね……」
そっか、クッキーとかか!って私は慌ててそんなことを返す
いやぁ、昔の私って若かったよね!ケーキなんて幾らでも食べられる、だって貴族なんだからって思ってたんだけど……
現実は違った。この世界ってケーキとか結構値段するんだよね。その分麦みたいなものの粉とか安いものはほんとーに安いんだけど、嗜好品は高い
庶民が生きるために食べるものは安く、他はかなりの税を取るって話だっけ?だからお砂糖とか馬鹿にならない額するんだよね。だから、貧乏貴族のアグノエル家じゃそこまで毎日ケーキ!って贅沢は出来なかった
だから、こんな時はケーキだよね!やっぱり
「……えへへ、ちょっぴり待ってくださいね。わたしがみんなの為に作ったものしかありませんけど……」
って、銀髪聖女……アナスタシア・アルカンシエルは笑って言った
聖女!聖女だよこの子!皆の為にケーキ焼くなんて!ついでに私にもくれるなんて!
「ケーキ!」
ゼノ君が連れてた昔はむーって思ってたけど、味方としてなら頼れるよねこの娘。まあ裏方としてはなんだけど、私もそこは同じだし……
っていうか、私料理できないし……女の子としてどうかと思うんだけど、貴族だからってそういうのサボってたんだよね……。ってか、本来のリリーナだって料理に関する話無かったから良いよね?
って目の前の私を招待した料理出来る方のヒロインを見ながら思う
そんな風に彼女の部屋で寛いでいると、暫くしてちゃんとお皿(陶器じゃなくて魔物素材)に載せられて色々なものが私の前に置かれた
まずは、湯気を立てる紅茶みたいなお茶。私もここ数年で飲みなれたんだけど、独特の苦味が割とある
そして、6等分かな?されたしっとりとしてそうな生地のケーキ。スポンジって感じはない白っぽいクリーム色に、しっかりと上に塗られた琥珀色のジャム、そしてアクセントには鮮やかな青い木の実が一個載せられている
「わ、チーズケーキ?」
「はい。ごめんなさいこんなもので……」
申し訳なさそうに呟く少女に、私はいやいやそんなって首と手をぶんぶんした
「美味しそうじゃん!」
「でも、貴族の方々が普段食べてるっていうケーキと違って、チーズは買いやすいお値段ですし……」
「……アナスタシアちゃんって、ひょっとして結構勘違いしてる?」
ぽつりと言いながら、サクッと生地にフォークを入れる。しっかり塗られて層になってるジャムから小さくリンゴの香りがするし、ひんやりした生地は滑らかで心地好く切れる。でもしっかり砕かれたクッキー生地が下にあるからお皿がベタッとしないし……うん、前世の私が好きでお祝いの日には良く買ってきてたチーズケーキに良く似てるかな
上のジャムはリンゴじゃなかったんだけど、懐かしいなぁ……
「あ、あのっ!美味しくなさそうですか?」
……っていけない!物思いに耽ってたら、少女の青い瞳に心配そうに見詰められてて、慌てて口に運ぶ
「うん、美味しい!美味しいよこれ!」
「えへへ、良かったです。後でわたし達の事を心配してくれている騎士団の皆様にも贈ってきますね」
言いつつ、少女は私の向かいに腰かける
「ん?要らないの?」
その席に置かれてるのはカップだけで、ケーキがない
「あ、わたしは……みんなの分で全部ですから無くて大丈夫です」
「ん?じゃあ私も食べない方が良かった?」
「い、いえ良いんです大丈夫ですどうせノアさんは食べないから一切れ分余ってるんで平気です」
って謙遜するけど、ってことはこの私が食べてる一切れ、本当はこの娘自身の分だったって事だよね?何かちょっと申し訳ない
「っていうか、ゼノ君ぜんっぜん話してくれないんだけど、あのエルフの人何者?どうして受け取らないの?」
「施しは受けないわよって人なんです。だから、自分から等価交換ってなにかを渡すとき以外、物は受け取ってくれないんですよね……
あ、ノアさんは……えっと、エージーエックスって分かります?」
少しだけ怯えの入った声
「そういえば、その関係であなたに言わなきゃって思ってた事があったよ私!」
そうだそうだ。お茶奢って貰ってる場合じゃないよ私!
「……リリーナ様?」
「そう、そうだよ!言わなきゃ!」
私は一気にお茶を飲んで喉を……熱っ!?
「だ、大丈夫ですか!?」
って、水を貰って一息。うん、駄目だよね熱い紅茶を一気飲みなんて、反省反省
「うん、私は大丈夫
それでね、アナスタシアちゃん。私さ、貴女の敵になることにしたんだ」
柔らかに微笑んでいた少女の顔から表情が抜け落ちる。眼から光が消える
うわ、何かヤンデレっぽい。原作小説ではこんな顔全くしなかったのに……
「皇子さまに、何をする気ですか?」
きっ!と結ばれる桜色の唇。震えながら、胸元で組まれる手と、輝きだす腕輪
「ストーップ!ちょっと待って!?私別にゼノ君に危害とか加えないよ!?」
えこれどういう理屈!?恋敵宣言で何でゼノ君にどうこうが出てくるのさ!?
「……?」
首を傾げないで欲しいかなぁアナスタシアちゃん!
「私もさ、色々思ったし考えたんだけどさ。やっぱり……どんなゲームでは好きだった人とか居てもさ、皆幸せな道を考えてもだよ
この世界で、今の私で。誰よりも私を助けようとしてくれたのって、結局ゼノ君なんだ。その彼を……まずは助けてあげたい
私も、彼の為に戦ってあげたいよ。だって、私は……リリーナ・アグノエルは
えへへ、と曖昧に私は笑う
「恋とか愛とか、ちょっぴり分からないしさ。結婚ーとかちょっとゼノ君相手には縁遠く感じるけどさ
この気持ちが好きではない事なんて有り得ない。だからさ、多分私達は……」
と、突然握られる右手。紅茶のカップで暖められた柔らかですべすべした綺麗な両の手が、私の右手を包み込む
「あ、そうなんですね!」
キラッキラの笑顔だ。心底嬉しそうで……
ん?あれ?別に私にゼノ君を押し付けて自分はエッケハルト君とくっ付きたかったのが本音だったとかそういう事無いよね?
覚悟してたのと違う反応に困惑する私を他所に、銀のサイドテールがうんうんという頷きに合わせて小さく揺れ続け、もう一人のヒロインは私の手を持ち上げた
「はい、リリーナちゃん!一緒に皇子さまを護りましょう!」
「……あれ?恋敵宣言のつもりだったんだけど」
「わたし、皇子さまが幸せになれるなら何でも良いですよ?
だから、リリーナちゃん……様が皇子さまの事を心の底から助けたいって思ってくれて嬉しいんです」
少し前に光の無いヤンデレ顔してたとは欠片も感じない一点の曇りすらない笑顔で少女は喜んだ
「信者っ!ゼノ君信者だこれ!?」
拝啓、前世でリアルティアだの頭アナスタシアだのゼノ君ファンを揶揄して笑っていた皆様へ
本物もそうだったんだけど!?
読み飛ばしても何の問題もない不確定にしていたネタバレ付きおまけコーナー、味方転生者の簡易まとめ
ネタバレ要素を含みます。ネタバレが気になる方は無視してください。
転生先:エッケハルト・アルトマン(攻略対象)
転生神:精霊真王ユートピア(真上 悠兜)
転生能力:固有スキル変更(焔の公子→七色の才覚)
我等がエッケハルト。アナちゃん大好き転生者。転生者の中での強さはというと最低クラス。
正確に言えば、本来のエッケハルトの魂に、物質化させた遠藤隼人の魂を後付けすることで転生させているのだとか。その関係で本来の魂の固有能力を喪い、代理として七色の才覚がくっついている。他の転生者とはやりかたが違うため、別に二つの魂で二度死ねる訳ではないらしい。
行動指針はアナちゃんとイチャイチャしたい。本当にそれだけであるが、流石にイチャイチャするために世界が滅ぶのは……という良心は併せ持つ。
ちなみに彼が転生させられた理由はというと、聖女であるアナスタシアを護るナイトの役目を増やしたかったから(ユートピア談)。
一応七色の才覚に仕込みはあるため、本気で役立たずではない。
転生先:サクラ・オーリリア(通称オーウェン)
転生神:OOMG、《『《光虹》の楽園』 ミレニアム》
転生能力:王鍵ファムファタール・カノン
オーウェン君。ゼノ君の預かり知らぬところで勝手に倒されていた最強の転生者。
所有するチート能力は王鍵ファムファタール。またの名を、AGX-15アルトアイネス。そんなものあるなら戦えと言われそうで怖くて怖くて隠しているが、実は唯一ユーゴ・シュヴァリエのアガートラームを真っ正面から倒せる最強のAGXを持つ。
前世は中性的な顔立ちだったが故に女みてぇと虐められており、一人引きこもって僕は男なんだ!と男っぽい趣味としてロボゲーに嵌まっていた男の子。父親が事業に失敗して狂って以降、暫く父親に「女みたいな顔したお前なら抱ける」と性奴隷にされていた事から心を病み理科室の酸で自ら顔を焼いた経験を持つらしい。
転生した際に最強の力を与えられ本来は円卓を担うアーサーとなる筈だったが、ただのちっぽけな人間である母によって自分が本当に欲しかったのは男らしさやそれを誇示する圧倒的な力じゃなくて他人の暖かい心、小さなこの手の中の幸福だったのだと理解。誰も知らないところで愛によって勝手に円卓としては倒されていた。
第一シリーズはあまりやっていないので、好きなキャラは特に居ないのだとか。強いて言えば今の母(モブ)。恋愛面は滅茶苦茶に奥手。
アルトアイネスで世界を滅茶苦茶にさせるべく、自棄になるようわざと女性として転生させられている。その為実は女の子なのだが、上のトラウマから自身の女性性に対し深いトラウマを抱えており男性として振る舞っている。
転生先:リリーナ・アグノエル(主人公)
転生神:
転生能力:好感度が見える眼
リリーナ嬢。頭お花畑で暗い過去を持つ女の子。彼女もまた、エッケハルトのように他の転生者達とは転生させた神が異なる為能力面が特殊である。
特殊能力は相手の好感度が大体分かる眼。つまり、誰と誰が険悪だとかそういったゲームで言えば友人枠が教えてくれる情報が見れるくらいの効果である。
ちなみにこれはエッケハルトも同じだが、転生時に与えられた能力が弱いのはこの二人を転生させた神々は七大天と縁のある神であり、世界を滅茶苦茶にするつもりまでは特に無い為である。
本来はリリーナ・アグノエル自身を生き抜かせる為の後付け強化パーツみたいな扱いになる筈だったのだが、境遇を知った聖女本人が『私の人生を一緒に生きよ?』と主導権を明け渡している為に人格が表に出られているのだとか。
恋自身は本当のリリーナの人生を奪ってるんだよね……と落ち込んでいるが、リリーナ当人の魂はというと恋ちゃんと一緒に生きてるから君の幸せがつまり私の幸せ、だから頑張れーと後方守護霊面。本人曰く『ゲームで言えば恋ちゃんルート行ってるからオッケー!』