蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 桃色少女と新たな友達

「えっへへー」

 とても上機嫌なメイド服の女の子が、ホワイトプリムよりちょっぴり暗いんだけどもっと綺麗にも見える銀の髪を揺らし、ニッコニコで何かを取り出してくる

 あれ、普通の箱……じゃなかった。魔法で冷やすから、この世界の冷蔵庫みたいなものって結構どんな格好でも良いんだよね

 綺麗な水を巡らせる水槽みたいなインテリアにしか見えない場所から、天面を開いて取り出されたものは……ルビー色のゼリーだった

 

 「わ、宝石みたい……」

 キラキラして、内部に星みたいな青い粒が散っていて……単なる宝石っていうよりは赤い星空?みたい

 

 「ノアさんから貰ったすっごい逸品なんですけど、一緒に食べましょうリリーナちゃん!」

 うーん、心配になる

 この娘、ゼノ君の為だよって言ったら簡単に騙せちゃいそう。無防備っていうか、自分が完全に一人しか見えてないから回りからどう見られるかとか考えてないよね多分

 いや、私自身そこまで教育されてる訳じゃないよ?令嬢としての振る舞いーとかさ、結構杜撰な自信がある。って本当はそんな自信あっちゃいけないけどね

 原作リリーナも完璧令嬢とは程遠いし、まあ私は最低限は出来るくらいの教育はある。シルヴェール様ルート行くとかだったら……基礎は叩き込まないとまず無理なんだけど、そこまで行く気も無かったしね

 

 でも、この子って貴族社会に全く適応していないっていうか……そもそも孤児で拾ってくれたのもゼノ君っていう皇族とは思えないくらいに距離感近い存在だから当たり前なんだけどさ

 っていうか、ゼノ君が悪いよねこね。手を伸ばせば手を取ってくれる皇族って、頭と倫理観バグるよそんなの

 

 っていうか、私の心も結構破壊されてるかもしれない

 「うーん、何か思ってた反応と違いすぎて怖いんだけど……ま、いっか!

 宜しくねアナスタシアちゃん!」

 と、私も笑顔で手を差し出して……

 「あ、ごめんなさいその呼び方止めてください」

 「え?ちゃん付けって駄目だった?私は可愛くて良いと思うんだけど」

 目線を下げた目の前の女の子に、何が地雷なんだろって唇の端に指を当てて唸る

 

 「エッケハルトさんがわたしをそう呼ぶので、思い出してちょっとだけ嫌な気分になります

 好い人なのは分かりますけど、わたしの気持ちはやっぱり考えてくれないですし……」

 うん、確かにって相槌。エッケハルト君にはアナスタシアちゃんと恋仲になりたいから応援してって言われてるし、そこはまあ手伝ってあげなくもないかな?くらいには思ってるんだけど、普通に勝ち目ないよねこれ

 いや、普通にゼノ君貶す発言してる時点でさ、この娘絶対に靡かないって

 

 「リリーナちゃん?」

 「えっとね、ほら、今日の事。エッケハルト君の名前で思い返しちゃってたんだ

 なんでみんな、あんな発言するんだろって」

 力強く銀髪が頷く

 

 「そうですよ!なんで皇子さまを追い出して、それを誇るんですか!

 エッケハルトさんもそうですよ!わたしやタテガミさんはすぐに追いかけられないのに、フォローに行ってくれませんし……」

 「うーん、まあゼノ君が忌み子って一般的には嫌われるのは分かるんだけど」

 と、少女の瞳がまた曇る

 結構ナイーブで面倒くさいよねこの子。いや、恋に一生懸命って可愛さはあるけどさ。私も小説版では応援してたけどさ

 端から見るとちょっと思うところはある

 

 「でもさ、私にとってはホントに恩人だよ?例え忌み子でどうこうでってあったとしてもだよ?私がゼノ君をもしも忌み子だしなぁって思っててもだよ?

 恩人を貶されて良い気はしなくない?それで私に好かれようって、みんなズレてるなぁ……」

 「ですよね!」

 うわ、めっちゃ嬉しそう。アナちゃんニッコニコだこれ

 

 「皇子さまをどんなに悪く言われても困りますよね

 あ、リリーナちゃん何か要りますか?ちょっぴり高級なお茶とかでも出しちゃいますよ?」

 「いやいや、まだまだ前のあるから」

 ……何か、ぐいぐい来るなーってちょっとだけ引いてしまう

 

 そうして、逃げるようにゼリーを一口

 「……ちょっぴり大人の味」

 美味しいよ?美味しいんだけど、不思議な味。こんな果物食べたことない

 「何の木の実なの?」

 「えっと、血のゼリーだそうです」

 「ち?」

 「はい、動物さんの」

 「え、血なの!?」

 眼を見開いて驚きながらゼリーを見る

 

 え、これ血なの!?

 「エルフなのに!?」

 エルフっていえば菜食主義みたいなイメージなんだけど

 「エルフの皆さんと会ったことありますけど、別にお肉食べないなんてこと無いですよ?」 

 「何かイメージと違うなぁ……」

 言いつつスプーンでもう一口。うん、血と言われても分かんないくらいには美味しい

 

 「でも美味しい」

 「はい、すごい人……あ、凄いエルフさんなんです、ノアさん」

 「アナスタシアちゃ……」

 言いかけて止める。あ、さっき言われたところだった

 どうしよう、えーっと、私の知ってるアナスタシアの愛称は……

 「アーニャちゃんと、縁あるの?」

 「あ、皇子さまと一緒にエルフの皆さんを頑張って護ったんです」 

 きゅっと手を握り、小さく力こぶを作る銀少女

 

 「その時、わたしがこの腕輪の力を借りれるように、頑張って手を貸してくれたのがノアさんです」

 「へー」

 色々聴きながら、お茶やゼリーやケーキを貰う

 

 「えへへ、でも嬉しいです

 わたし、こうして普通にお話しできる友達居ませんでしたし……」

 はにかんで頬を染めるアナスタシアちゃん

 それは可愛いんだけど……

 

 「友達なんだ。っていうか、友達居なかったんだ」

 孤児院の出なのに

 「わたし、孤児院ではお姉さんしなくちゃでしたし、ノアさんやアイリスちゃんは凄すぎますし……

 あ、勿論リリーナちゃんが凄くない訳じゃないですよ?」

 「まあ、自覚はないけどね」

 

 って、苦笑する私。ゲームのリリーナ・アグノエルは後半もう凄かったけど、私じゃね。あそこまで覚悟は決められないっていうか……

 

 「でも、わたしは龍姫様の腕輪の力を借りてるだけで、本物の聖女さまじゃないですし……

 皇子さまのお役に立てることも何にも無いから……」

 いやいや、ゲーム的にはアーニャちゃんもそのうち聖女だよ?と言いたいけど、今言っても虚しいから止めておく。本家とアナザーが両立するシナリオって無いし、私が死ななきゃ駄目だったとかなったら嘘になるしね

 いや、その場合嘘になって欲しいってだけなんだけど。死にたくないなぁ……

  

 ……って、あれ?

 ゼノ君、ティア=龍姫様って言ってたよね?なら、アーニャちゃんに聖女の力とかあげられたりしないのかな?

 後で聞いてみよっかな。ゼノ君なら優しいから普通に教えてくれる筈だし

 

 そんな事を思いつつ、私はゼノ君を出汁にすると距離感が近くなる新しい友達とお話を続けた

 うーん、ゼノ君の味方だからって男の子相手にも距離近くて勘違い量産してそ……ゼノ君至上主義が分かりやすすぎてそんなこと無いか、流石にね?




おまけ、ゲーム版のウワサ
実はリリーナ編にゼノルートが無いのは同族嫌悪らしい

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