蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……アイリス、さん?」
そう、アイリス
ゴーレムの中には術者とリンクし、術者の願い通りに動くタイプのものがある。実際にゲーム内でのアイリスは今から12年後であるゲーム本編においても体の弱さを克服したなんて話は当然ながら(人間の体では耐えきれない程の力が引き起こしている体調不良である為人間止めましたしなければ治るはずもない)無く、それでも引きこもる事は無くそのタイプのゴーレムを操り自身は基本ベッドで寝ていながらゴーレムで学園生活をこなすという形で出てきていた。その結果他キャラとは異なりHP0は死ではなくゴーレムが壊れるだけなのでゲーム中どれだけ雑に使い捨てても次のマップでは新ゴーレムで何事もなく復帰しているという特徴があり、容赦なく死んでいく(
「アイリス、ご挨拶……って無理だな」
頬を引っ掻かれながら苦笑
こんなペラッペラなのに生きている不思議生物だが、流石に言語機能はない。なので何を言いたくても喋れないのだ
「だから代わりにおれがやるよ
彼女……ああ、このネコモドキじゃなくてそれを操ってる術者の方な
彼女はアイリス。おれの妹で、おれより継承権が上の天才」
「皇子さまの妹さんってことは」
「一応……じゃないな」
一応、と自分は自虐的に良く冠として付けるがアイリスはそれとは違う。なので慌てて言い直しながら言葉を続ける
「その通りの皇族、第三皇女だよ
まあ、表舞台にはあんまり出てきてないから知らないのが普通かな」
「第三、皇女、さま……?」
少しだけ顔を上げて考え……
「皇子さま、礼って」
「しなくて良いよ。今は単なる謎の生き物だから
きっとこんな姿でお忍びなのに皇族への礼だなんて……いたた」
「思いっきり引っ掻かれてます皇子さま」
「いやわかるだろうアイリス。礼儀ってものは押し付けるものじゃないし、そもそもお忍びみたいなものだから変に対応取られても困るんだって」
爪を立てて腕を引っ掻かれる。痛くはない。防御を抜いてはいないのだから。それでも、心はちょっと痛い
「ってことで、彼女はアイリス
体が弱くてさ。フレッシュゴーレムで外を見に出てたんだろうけど」
と、謎生物を持ち上げ
「実物を見たことがないからこんな平面な生き物になってしまったんだろう」
いや、実物見なくても分からないのか、という話はあるが分からないものだ
この世界には平面な生物が何種類か居る。そのうち一種類だと思ったのかもしれないし、平面な生き物でないと思っていても思い描けず平面になったのかもしれない。フレッシュゴーレムの姿は術者の認識に強く影響される。まあ何にしても、彼女の猫への認識が二次元であったから二次元猫ゴーレムが爆誕してしまったという訳だ
「だか、ら?」
「そう。だから実物を見せてやろうかと思って
ちょうど良かっただろ?アナ達もペット飼いたい此処行きたいって煩かったんだし」
「御免なさい、皇子さま」
しゅん、と頭を下げる少女に、言い方が悪かったと反省
「いや、別にアナ達は悪くないよ。言い方が悪くて御免」
「って事で、微妙な見世物だっただろ?」
二次元ネコモドキを籠に直して一言
抗議の揺れはもう気にしない。あとで謝ろう
そうして、他の孤児達は既に向かった売り場へと足を進めた
「うーん、色んな種類が居るな」
其処は犬猫の楽園であった
おれの記憶に何となく残っているものに近い種類の犬猫もいれば、良く分からん姿のものも居る。あの赤い猫のまっ赤いモコモコの毛とか染めたもの……じゃないんだろう。珍種である。顔は中々にブサイクだが、遠目に見るとオデブっぽいモコモコ毛と合わせてそこが愛嬌なんだろう
「凄いですね皇子さま」
「……案外、良い」
人混みの中、他の孤児達を探すのはまず無理だ。背が高ければ兎も角、子供のおれやアナではそれこそ肩車してすらまともに人の頭の上は取れないだろう。だからそのうちおれを探して戻ってくるだろう財布はおれしか持ってないのだからと放っておく事にして(流石に誘拐等は起きないだろう。アナが一人だったら下手をすれば出来心があるかもしれないが、残りはまあ大丈夫。アナ一人だけ孤児の中でレベルが違うのだし、残りは別に不細工とは言わないが何というか拐ったとして高く売れそうな特長がない。まあ外見だけなら火傷痕のあるおれが断トツで売れそうにないが)、それぞれ犬猫を見て回る
「……アルヴィナ男爵令嬢?」
返事がない。ふとした所で、黒髪の少女は止まっていた
その目線の先にあるのは……一匹の犬。別に不思議な犬という訳ではない。茶色い短めの背毛に白い足や腹の毛、尖った三角耳。外観としてはそこはかとなく狼っぽいが人懐っこそうな顔立ち。何とか記憶から似た犬を探せば……
うん、出てこないな言葉。というか犬猫の種類全然知らないな生前のおれ
黒髪の少女は、じっとその犬を見つめている。その視線を感じたのか、犬も見返している。何となくシュールな姿だがまあ気にしてはいけないか
「アルヴィナ」
ぽんと肩を叩く。割と無礼だがまあ許してほしい
「ひゃっ!ぼ、ボクは……」
「耳、出てるぞ」
「ひゃいっ!」
見間違いではない。確かに頭頂に猫っぽい耳が生えている
「欲しいのか、あの犬?」
「……あれ?」
「頭の耳は今は見なかったことにする」
さりげなく体を動かし、他人の視界を……塞げないので適当に自分で被ってきた帽子を少女の頭に被せて隠す。プリシラに出掛ける前に今の姿はダサすぎると被されたオシャレ帽子だが、正直あんまり少女には似合わない
「それで、欲しいのか?」
「……少し」
帽子が少し動く。というか頭から軽く浮く。恐らく耳が立ったのだろう
西の方の固有種らしいが、西では一般的なもののようだ。ケージの上の方の値札や解説を見るとそんなに高くない。少なくとも一瞥した時におれが気になった赤猫と比べれば桁が二個は軽く違う。っていうか赤猫が異様に高いなこれは
「でも」
「……家の問題とかあるか」
「そこは……大丈夫
お金、無い」
「そうか。元々普通の動物展だと思って来てたんだものな
立て替えようか?そのうち返してくれれば良い」
アナだって居るのだし、変に高い犬猫買ってとは孤児達も言わないだろうし、と軽い気持ちで言う
「……良いの?」
「出世払いな。利息はトイチで」
「トイチ?」
「10年で1%。あの犬は……10ディンギルか
1ディンギル以下は誤差だから、10年後に返すならば10ディンギルだな」
「……りそ、く?」
「気持ち程度の利息だ。返してくれれば良い……っていうか、あの時迷惑かけたし、それこそおれとしてはこっちからのプレゼントって言っても良いんだけれども
やっぱりそれなりのしがらみとかあり得るから」
と、軽く笑って
「それじゃあ、アナも呼んでるし、早めに買わないと他の人が買うかもしれないし、行くか」
そう、黒髪の少女の手を取って言った