蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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永遠姫、或いは補習授業

そうして訪れたノア姫の教員室は、薄暗い部屋であった。

 「光を!」

 

 魔法書片手に明かりを灯すのはリリーナ嬢。やっぱりというか着いてきたアナはというと、いきなりの明度の差に眼をぱちくりさせていた。

 「……あら、暗い方が雰囲気あると思ったのだけれども、嫌いだったかしら」

 「普通に話したいだけだよノア姫」

 「教員室なのだからしっかりノア先生と呼びなさい。礼儀が足りていないわよ」

 「すまない、ノア先生」

 

 冗談めかした口調で責めてくるエルフ姫に向けて微笑んで、おれは部屋を見回す。

 ……結構デカい部屋だ。流石に教室程はないけれど、狭っくるしい感じは全くといっていいほど無い。

 全体的にしっかりとした調度品が並べられていて、ノア姫の部屋って感じもあまりないが……

 

 「こんな部屋なのは珍しい」

 「そうね。長く教鞭を取る気もないのだし、そのうち次の教員に引き渡す間借りの部屋よ。自分の趣味に改造なんてしたら、それこそこの学園に骨でも埋める気なのかしらってなるでしょう?」

 さっき見せた恋愛小説仕立ての聖女物語を閉じて、エルフ少女は優雅に一口お茶を啜った。

 

 「……一応一理あるのか」

 「何にもしなくても素敵なお部屋ですしね」

 と、フォローなのか何なのか万能な誉め言葉を告げるのは銀の髪の聖女。

 

 「……さて、アナタはしっかり授業を受けた筈よね」

 言いながらおれに椅子を薦め、少女は苦笑いする。

 「まあ、今日はあまりにも上の空だったようだけれども」

 「すまない。どうしても……」

 「分かってるわよ。だから休講も用意したの」

 「あれ?皇子さまの身が入ってないからですか?」

 「馬鹿言わないでくれる?それだけで休みなんて作らないわよ。でも、ワタシの力が必要でしょう?」

 耳をぴくりと跳ねさせ、紅玉の瞳がおれをまっすぐ見据える。

 

 「つまり、休講はおれに手を貸してくれる為だと?」

 「魔神族、特に屍の皇女。その対応はアナタがエルフに求めたワタシ達を助けるためにアナタがその左目を含む多くの血を支払った見返りとして求めたものでしょう?

 それを蔑ろになんて出来ないわよ」

 「……ああ、有り難うノア先生。貴女の力……特に故郷への転移、いざという時には頼りにさせて貰う」

 と、おれは何時もの態度のエルフ姫に頭を下げた。

 

 「あら」

 降ってくるのは意外そうな声。

 「アナタがごねないなんて、ちょっとは成長したのね。前なら危険だとかわざわざ危険を犯すほどじゃないとかふざけた言葉を吐いていたでしょうに」

 優しく眼を細めておれを見るノア姫。

 

 「偉いです皇子さま!」

 「いやアーニャちゃん!?それ褒めてるのか貶してるのかわかんないよ!?」

 そして、いつの間に仲良くなったのか漫才を始める聖女達。

 

 アナ……友達が出来て良かったな……と素直に思う。というか、機虹騎士団としては聖女二人が反目してるよりは仲良しの方が護衛しやすいから良いんだよな。ユーゴみたいな超火力に一気に磨り潰される危険さえ除けばな。

 

 「……こほん、まあそこは良いわよ

 アナタ達も必要かしら?」

 自身のカップを振るエルフ姫に、女の子二人は頷いた

 

 「さて、ワタシが聞きたいのはまず、エルフの存在がどういったものか、前より見識は深くなったかしら?ということよ。

 エルフにとって、幼子と少女の差は何かしら?」

 身長の差から上目になるポニーテール少女に、流石に覚えてるよとおれは苦笑を返した。

 

 「女神様の加護……いや、庇護」

 「加護と言ってたら落第させてたところよ」

 悪戯っぽく笑うノア姫。危ないところだった……

 

 「勉強の成果ですね皇子さま」

 「っていうか、庇護と加護の差って?」 

 ……分かってないのが此処に一人。

 「リリーナ嬢。落第させられるぞ。

 語感の通りの差だよ。女神様の似姿であるエルフ種は全員女神の加護を基本的に持つ。そして、その加護を喪った者が咎エルフと呼ばれる」

 「では、ワタシは咎エルフなのかしら?違うことくらいは分かるでしょう?

 だから、女神の加護は差にはならない」

 「う、うん何となく分かる」

 「でもですよ?わたしが皇子さまに守って貰っていたみたいな庇護って、子供がされるものじゃないですか?」

 ぽん、と桃色少女が手を打った。

 

 「そっか。無条件で護って貰ってる力が、大人になると消えるってこと?」

 エルフの姫は少しだけ呆れ顔をした後、眼を閉じ頷く。

 「正解よ。庇護は消えるけれど加護は消えない。少し女神の力が弱くなるけれど、その分ワタシ達は大きく成長している筈だから結果的には問題がない補助、それが女神の庇護よ」

 でも、と少女の瞳はおれを見つめる。

 

 「ワタシには一応今も庇護があるわ」

 ちらりとエルフの目線は自分の胸元に落ちる。そして、アナの方へ向いて、そのあまりの落差にはぁ、と息を吐いた。

 「ええ、こんなんだものね、ワタシ。妹に比べても随分と幼子な外見でしょう?」

 「……いや、大人っぽいですよ?」

 「雰囲気の問題じゃないわ。体の問題」

 でも、有り難うとはにかんで、姫は言葉を続ける。

 

 「でも、だからこそ……アナタに一つ問うことが出来るわ、人間の皇子。エルフの為に命を擲った聖女リリアンヌ、いえ違うわね。アナタの先祖カイザー・ローランド以来の恩人。

 必要ならば、その庇護は永遠に出来るの。永遠姫の誓約、女神様に永遠の庇護を願う、永き時を子供のまま過ごす秘術によって」

 静かに空気が沈む。リリーナ嬢も、今は黙りこくって話を聞く。

 

 「聖女が二人も居るのだからと安心できるかもしれないけれど、未来はどうなるかは不明よ。

 そんな時、永遠姫となればワタシも聖女擬きのような事は出来るようになるわ。ええ、女神の庇護を受けたエルフ、永久に神の子たる幻想の存在として、ね」

 「……ノア、姫」

 「ええ、勿論そうなれば今のワタシはちょっぴり立場が変わるわね。ウィズに様々任せてきたけれど、一応今の纏め役はワタシ。

 けれどもそれも変わるわね、永遠に成人せず、何時か儚く神の御元に送られ消える幻想となるのだもの」

 

 それなのに、残酷な事を言うのに、彼女は優しくおれに笑うのだ。

 「そうね。その場合は……アナタを養子にでもしようかしら?」

 「いや何でですかノアさん!?」

 一気に厳かな空気が四散した。

 

 「あら、永遠に我が子なんて抱けない存在になるのよ?養子くらい良いじゃない。

 ワタシにだって、そうした願望の一つくらいあるわ。だから、そこの両親の愛の足りない被虐待児そのものの生き物を育ててあげるの。

 ああ、安心なさいな、我が子ともなれば、代価なんて要求しないわよ」

 それはどこまでも、妖精のような儚さを感じさせる顔だった。

 

 「元々、アナタ無くしては既に無い命、ここまで魔神族の話が出て、アナタの願いが切なるものだと分かった以上、それに応えてあげる。

 望むならば、永遠姫になってあげるわ。そうして、護ってあげる」

 訴える瞳に対して、おれは残っている右目を閉じる。

 

 何も見えなくなる。あるのはただ、迷いだけ。

 始水は呼ばない。これはおれに対する問いだ。始水が言ったからなんて逃げ道はあっちゃいけない。おれが結論を出さないといけないんだ。

 

 ノア姫に、自己犠牲の力を求めるか否か。

 

 ……ふぅ、と息を吐く。

 当然、答えなんて最初から決まってるんだ。おれの言うべき回答はたった一つ。

 ただ、魅力的な提案に揺らぎそうな馬鹿な考えを、心の水面に沈めるだけ。

 

 「ノア姫」

 「……ええ」

 「自分の幸せを捨てようとしないでくれ」

 「それがアナタの本音かしら?自分は捨てようとしていて、周囲を巻き込んで迷惑な行動となっていて、それでも曲げないのに。

 ワタシにはそのアナタの行為とは逆の事を言うのね」

 冷たい怒りに震える声が、おれを打つ。

 

 「アナタは結局、分かっていたと思ったのが間違いだったのかしらね」

 「……違うよ、ノア姫。民だからみたいな事を思ってるんじゃない」

 「なら、何かしらね」

 「……単におれは、ずっと助けてくれた誇り高くて見惚れるほど心の(たけ)きエルフには、幸せになって欲しいだけなんだよ。その為におれは戦いたい。

 アナや竪神のように」

 その本音に、暫し少女は押し黙る。

 

 「ええ、良いわ。二度目は無いわよ。

 幾ら成長遅めのワタシでも、アナタの7倍近い時を生きているのだもの。そのうち庇護は消える、それからやっぱり辛いから永遠姫になってくれと言われても困るから、もう一度最後に聞くわ。

 ワタシに何を望むの?」

 「人々の……いや、人間だけじゃない、貴女を含む手の届く限りの皆の幸せを目指す為に、おれに力を貸してくれ、ノア・ミュルクヴィズ姫」

 「ええ、それがアナタの選択ならば。死なない程度に、全力で力を貸してあげるわ」

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