蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 桃色聖女と宝石獣の輝き

「ゼノ君ゼノ君、どうかな?」

 そうして朝食後。私リリーナ・アグノエルはゼノ君が用意してくれた見晴らしが良くておっきな部屋……じゃなくて、そこから一歩出た扉の前でくるっとターンしてみせた

 結構スカートは短いドレスだけど、ゼノ君の視線はふわっと浮き上がるそっちでも小さく揺れる胸元でもなく、私の顔ばかり見てる

 っていうより、私自身より周囲の警戒してる眼だよねあれ。泳いでるっていうよりも、視界に入れてない感じ

 もう、ちょっぴり失礼だよと頬を膨らませてむくれるけれど、でも優しさでもあるから強くは言えないよね

 

 それに、それがゼノ君だよねと思う。ここで私のスカートとか、胸元とかじっと見詰めるようなエッケハルト君(この世界)みたいな性格だったら私怖すぎて近付きたくないもん

 あ、隼人って名乗ってくれたあっちは平気だよ?だって、私に興味が欠片もないって逆に分かりやすいからね。アーニャちゃんとも仲良くなって、あの子の真っ直ぐさを改めて感じたからそこまで積極的に応援はしてあげられないけど……

 

 「うん、良く似合ってるよ。おれだって教会にそう詳しい訳ではないけれど、アナ……っと、シエル様やアステール様を見るだけでもそれなりに可愛らしさが重要な事は分かるし、その点で見れば十分だと思う。でも……」

 と、青年は片方しか無い瞳で私の胸元の桃色の花のブローチを見詰め、少し唇を下げて申し訳なさげに告げる

 「天光の聖女という要素を強調したいならば太陽の意匠やダイヤモンド、龍姫に寄せたいならアクアマリンといった方面の方が良いとも感じる」

 「堅い!あともっと素直に褒めてよゼノ君!?」

 端的に言えば、可愛い服だけどブローチを変えてくれだよね?長い!長すぎだよ

 

 「無難に可愛いと思うが。気は引けるだろう」

 「いやいや、シロノワール君も突き放さないでよ」

 うーん、二人して不器用というか、女の子褒め慣れてないっていうか……。そうじゃなきゃ私も萎縮しちゃうんだけどさ

 

 「そっか、でも私、そんな飾りは……」

 「はい、これで良ければ」

 と、灰銀の髪の皇子様は当然のように細長い木箱を取り出す。そこに納められているのはひとつのペンダント。太陽のような意匠で、中心には桃色の綺麗な宝石とピンクゴールドの金属で描かれた紋章がはまっている

 ちなみに流石に私でも分かる、この紋章、女神様を示すってされてる奴だよね?教会からの手紙とかにたまに描かれているし

 

 「え?良いの?」

 って目をぱちくりさせて意外な発言にほえーと口を開けたら苦笑が返された

 「おれ、仮かつ今だけの関係でも婚約者な訳だが。贈ったら可笑しいか?」

 仮だけど、私から今更解消しようとはちょっと言い出す気は無いかな。多分ゼノ君は自分の立場が悪くなると婚約解消を言い出してくると思うけど……。その時にえ?やだよ?って返したらどんな顔するかな?

 

 「じゃあ、貰って良いの?」

 上目に訊ねる私に、柔らかく微笑んで頷き返してくれるゼノ君

 

 それを受けて、私はちょっと引ったくるようにそのペンダントを手に取った

 ずっしりと重くて、鎖は金銀の色で私の杖に合わせてあるのかな?でも私っぽく桃色を入れてくれてるし……こんなの、ゼノ君が用意してくれるような印象無かったなー

 

 「リリーナ嬢、魔力を込めれば多少の間バリアフィールドが貼られる。あのユーゴのバリアほどの耐久はないが、多少身を護るのには役立つ筈だ

 それに、起動すればアウィルの左耳のリボンが呼応するからきっと駆け付けてくれる」

 と、にまにまする私に淡々と青年は告げたのだった

 

 ってバリバリの実用品じゃん!?ロマンチックなアクセサリーじゃなくて、私の安全のためのバリア魔法発生装置じゃん!?

 と、ときめいて損した感ある……そういうところだよゼノ君。だから女の子に失望されるっていうか……

 

 こういうデリカシーとかロマンチックさの無いところが改善されたらもっと頼勇様くらいに女の子の憧れに……いや、もうこれ以上モテて欲しくないかも

 

 でも、私の事を気にかけてくれてる事は確かだからブローチを外してささっと首からかける

 というか、ゼノ君ガチ勢のお姉さまには、無骨な中に精一杯女の子に喜んで欲しいって不器用な優しさがあって可愛いでしょう?とか何とかで結構こういうの好評なんだよね。私はもっとロマンチックなの欲しいなーって思うんだけど、アーニャちゃんとか私の為に……って感涙すると思う

 

 「うん、似合ってるよ」

 と、青年は開いている片目を細めた

 

 「大事にしてくれよ、リリーナ嬢」

 「うん勿論」

 「おれみたいに、即刻金が必要だからって貰い物売るような真似しないでくれよ、おれがノア姫に殺されるから」

 「いやいやいや売らないからね!?」

 寧ろゼノ君プレゼント売ったことあるの?

 

 ……あ、アーニャちゃん達を助けるために父から貰った指輪を売ったんだっけ?そういや小説版で読んだしアーニャちゃんからも聞いたような

 

 「売るわけ無いよ、せっかく私のためのプレゼントだもん」 

 きゅっと左手で太陽部分を握り締めて私は言う

 「でも、売ったら殺されるの?何で?」

 「そのコアの桃色の石、実はノア姫がカーバンクルから貰ったものを買い取ったんだよ

 だからさ、宝石獣がエルフを信じて託したものを私利私欲で売り払ったりしたらまあ、ノア姫の信用すらも損ねるわけ」

 「寧ろゼノ君が買うのは良いんだ」

 「そもそも聖女達の力にって理由で渡されたものだからそこは問題ない」

 ほえー、と私はペンダントの宝石を見る

 

 結構凄いものなんだね。ますますロマンチックというより機能重視なんだってなっちゃうけど

 

 「ゼノ君ゼノ君、これ持ってたらカーバンクルに逢えるかな?」

 ちょっと興奮気味に問い掛ける

 

 カーバンクル!宝石の獣!幻獣……って訳じゃないんだけど、結構上の方の魔物。ちっちゃくてもふもふのリスみたいな生き物だってことで見たかったんだけど、当然そうそう逢える訳もなかったんだよね

 ゲームだと一部マップの特定の場所に行くとカーバンクルが宝石の力で傷を治してくれるってイベントで一回だけ全回復出来るってくらいの出番だったかな?立ち絵が可愛いから何度も見に行ったし、SRPG面疎い私でも覚えてるんだけど……

 

 「逢えたら良いな」

 「さあ、忌み子なおれには何とも」

 ちょっとつれなく、青年は肩を竦めた

 「でも、君が望むならきっと逢えるさって信じた方が良い

 夢を見ないよりは、見た方が楽しいだろう?」

 

 なんてやり取りを経て、私はゼノ君+金髪イケメンシロノワール君と教会近くまでやってきていた

 うん!目立つよ二人とも!確かに平凡な容姿って訳じゃない私(だってそりゃ元が乙女ゲー主人公だよ?美少女に決まってるよね、誰だって不細工になってイケメンと恋するより美少女の方がいい)だから不釣り合い……って事にはならないんだけど

 

 はっ!と息を呑んで振り返る女性が何人か出るくらいにはシロノワール君は美形だ。そしてゼノ君も左目の傷痕が痛々しいし火傷痕もあるんだけど、基礎造形はめっちゃ美少年なんだよね。どこかのピンナップで書き下ろされた火傷無しゼノ君のイラスト切り抜いてラミネート加工して取っておいてたもん間違いない

 そんな二人が私の両脇に居たらそりゃ目立つわけで

 

 自慢したいような、私が聖女で乙女ゲー主人公だからってだけで私自身の魅力じゃないからドヤりにくいっていうか……

 と悩んでると、さりげなくゼノ君は嫉妬っぽい視線と私の間に入ってくれる。ブロックは嬉しいけどさ、もっと妬まれるんだよねそういうの

 

 「ねぇゼノ君。もうやるの?」

 「いや」

 少しだけ歯切れ悪く、青年は頬を掻く

 「今日はとりあえず教会の中で話をつけるだけだ

 それとも、今日は嫌か?」

 「え?もうスケジュール決まってたりしないの?」

 「おれは忌み子だからな。お前の話しなど聞くか神に見捨てられた忌み子がの一点張りで何一つ話が進まなかったから、『もう聖女の言葉を教えてやるよ』って強引に押し切るつもりで来たんだ」

 バツが悪そうに彼は告げる

 

 「悪いなリリーナ嬢。実のところ、完全に君に頼りきるスケジュールなんだ」

 それに私はあはは、と明るく笑って返す

 「おっけーまっかせて!」

 

 と、私はちょっと小走りに教会内部に向かって……

 

 ん?何か聞き覚えのある声が……

 

 と、聖堂に入った私を出迎えたのは、椅子に座って両手を胸元で組む何人もの人々と、その人々を先導して龍の像の前で祈りを捧げる白に青の神官服の少女。こんな時でも外さない雪結晶の髪飾りがステンドグラスからの光を浴びてキラキラと輝いている

 

 淡い銀のサイドテールを揺らし静かに祝詞を唱えながら、青いステンドグラスの光をスポットライトのように浴びる少女は何処か幻想的で…… 

 

 「ってアーニャちゃんじゃん!?」


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