蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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襲撃、或いは二人の聖女

夜御飯を終えて部屋へ向かう。とりあえずといった形でアウィルに御飯(買ってきた魚。アウィルは結構雑食だから何でも食べるのだ。今回はシンプルに焼き魚にして骨ごと頭からかぶりついていた)をあげて一息

 

 とりあえず、教会に話は通せた。おれだけでは欠片も埒があかなかったというのに、アナの一言にリリーナ嬢が口添えすることで反対意見の一つも出せずにガンガンに話が進んでいくのは寧ろ爽快ですらあったな

 こんな気持ちになるのはどうかと思うんだが……まあ、仕方ない。これも忌み子の定めという奴だ

 

 その分おれは睨まれたが……強権くらい使わせてくれないか、間に合わなければ多くの人が死ぬんだから四の五の言ってられないんだ

 

 「本番は明日か……」

 と呟くが、寝るわけではない。というか、寝てどうする。今はシロノワールしか居ないんだ、聖女リリーナ・アグノエルを護る役目を放棄などして寝てられるか。徹夜だ徹夜

 その辺りは頼勇かガイストが居れば交代で解決できるんだが、居ないものはしょうがない。ちなみに、オーウェンは駄目だ。おれは結構彼のことをかってるとはいえ、流石にゼルフィードもあるしそこそこの基礎能力の高いガイストとは比べ物にならない。一人で任せるのは無理だな。いや、AGXを使ってくれるというならその限りではないというか、頼勇並に頼れるかもしれないが……それは彼にはあまりにも酷だろう

 

 「……アウィルと……いや駄目だな」

 此処を離れてアウィルと遊んでたら何のための護衛かわからないので一人寂しいのは却下

 始水は今は何も言ってくれないので同じく却下だ。口汚くなるから今緊急でないのに話しかけるのは止めてくださいねだそうだ

 

 アナの方もどうやら同じホテルの別室を取ったらしい。教会は嫌なんだとか。エッケハルトがやってくれたらしいが……流石に同室にはしてないよな?

 してたらキレるぞエッケハルト

 

 それはそれとして、エッケハルトがアナを見ててくれるのは助かる。彼はアナ大好きだからな、きっと何かあったら護ってくれるだろう。その姿を見たらアナも絆されるかもしれないし、マジで頑張ってくれるはずだ

 

 おれなんか、とっとと忘れれば良い。アナの幸せはおれを探しても欠片も……

 

 と、扉がノックされて顔を上げる

 「あの、皇子さま」

 鈴の鳴るような声に、何だアナかと思って

 「何かあったのか?」

 「……えっと、不安で」

 「帰ってくれないか?」

 どっと脱力する。別に何事もないのか

 

 「でも」

 「嫁入り前の女の子が男の部屋に来るな。変な噂が立つぞ」

 「じゃあ、私はセーフかな?」

 更に聞こえるのは婚約者(仮)の声

 「いや大丈夫な訳があるかリリーナ嬢!?」

 「えー!婚約者の部屋に行くのすら駄目なのー?」

 「噂されたら結婚を避けられなくなるんだぞ分かってるのか!?」

 乙女ゲー主人公として、ちょっと不安がとかそんな程度でこの時期にそんなものをやらかしたら他の攻略対象全員からそっぽ向かれるぞ分かってくれリリーナ嬢!

 

 「いや、私はそれこそゼノ君でもいっかなーって」

 「駄目です」

 あ、何かアナに叱られてる

 「え、アーニャちゃん私の味方じゃ」

 「わたしは何時でも皇子さまの味方です。結婚相手は皇子さまが良いって言うなら応援しますけど、まるで妥協みたいな言い方は許せないです

 そんな人が皇子さまを幸せになんて出来ませんから」

 「……うん、ごめん」

 扉の外でしゅんとする声がした。何だか可哀想だがなんとも出来ない

 

 「というか、男を訪ねるなんて危険だろ」

 「それ本気で言ってるゼノ君?」

 いや本気だが

 「まずアナ、エッケハルトが護ってくれるだろ?」

 「それ正気で言ってるゼノ君?」

 何だか声のトーンが下がったんだが、リリーナ嬢?

 

 「正気だが?」

 「怒るよ?」

 「怒りますよ?」

 「何でだ?エッケハルトは鋼の意志を持つってベルタン嬢から聞いたぞ?流石にアナの事が好きだとしても自制」

 「ゼノ君、それ悪口だよ」

 言われて首を捻る

 

 鋼の意志って自制心が硬いって話だろうに

 「ねぇゼノ君さ、自分の自制心が何て呼ばれてるかは分かる?」

 その言葉に少し考えるが……まあ多分これか?

 「呪い」

 「うん確かに呪われてるけど、違う違う

 竜水晶(ドラクォ)メンタル。据え膳でも何でも絶対揺らがない最強金属レベルの硬度」

 「言いすぎじゃないか?」 

 「じゃあ私が今本当はゼノ君一筋で結婚したいから入れてって言ったら?」

 「おれは君と結婚しない。馬鹿を言わずに自分を大事にしろ、こんな呪われた化け物に、君に好かれる価値はない」

 「言われた通りじゃないですか。わたしの告白も断ってますし」

 酷くないかアナ?いや、おれは言われても仕方がない最低野郎だが

 

 ……まあ、言われるだけなら良いんだが

 「でも、エッケハルトも同じく鋼って金属に例えられて」

 「鋼は硬いけど炎魔法で溶けるよ?つまり……気にならない相手に対しては身持ちが硬いけど、恋の炎でドロドロに溶ける。アーニャちゃん相手だと危険って揶揄なんだ」

 エッケハルト、お前流石に女性陣から信用無さすぎない?

 

 「だから、皇子さま」

 「もうリリーナ嬢と同室にして貰ってくれ。おれは絶対に、君達に変な噂を立てさせるわけにはいかないから入れない」

 そうして、扉に鍵をかける。本来は飛び出すために掛けていなかったが、今は掛けざるをえない

 

 誰かに好かれることは嬉しいが、おれは好かれてはいけない。呪われていて……いやそんなもの無くともそもそもおれは誰も幸せになんて出来ないんだから

 万四路のように、不幸にしてしまうだけだ

 

 「ゼノ君!」

 「皇子さま」

 責めるような声から逃げるように、おれは部屋に閉じ籠り、二人をやり過ごした

 

 そうして、何とか二人がリリーナ嬢のための大きな部屋に帰ってくれて静まり返る。向こうの部屋は防音がしっかりしていて、殆ど何も聞こえてこない。ガラスも防音性の高いものだしな

 

 そんな中おれは一人で……

 っ!

 ガラスの割れる音に、おれは飛び出した

 流石にアナもリリーナ嬢も、おれを部屋から追い出すためにガラスを割るような非常識さはない!ならば!

 

 鍵を開けつつ蹴破って、しっかりと鍵を掛けられている高級なドアを……

 「邪魔だっ!」

 愛刀は手元に無いが鉄刀を抜刀しつつ斬撃を隙間に飛ばして鍵を両断、蹴り破って飛び込む!からどりうすの翼は短距離転移等が可能だが……アルヴィナを護る為に必須でなければそうそう切れる札ではないから、無理矢理に押し通る

 これで別部屋ですとかなったら単なる弁償ものだがな!

 

 と、きょとんとする二人の少女が見えた。薄手のネグリジェというのだろうか、肌着に近い寝巻きで目のやり場に困る

 白い肌の描く豊かな曲線を隠せないそんな薄手の布地なんて、見てて良いものじゃない!と無理矢理に目線をずらすが……

 いや真面目に只の弁償案件かよ!?何を聞き間違えて……

 

 「皇子さま?」

 「いやゼノ君、入りたいなら普通に扉をノックとか……」

 二人の聖女がおれの方を見る視線を感じる。だが、気まずさと邪を払うための二つの意味で目を逸らしたおれはそれを見ずに窓の外を眺めていた

 

 と、そんな窓の外に映る影。5階建てだというのにそうそう人影が映るものか。というか、揺れるそれは恐らくは飛翔する何者かに騎乗した影だ。羽ばたきに合わせて上下しているのだろう

 

 となれば、意味することは一つ。どうやら、アナがリリーナ嬢の部屋に集まってくれたことが功を奏したのだろう。先んじてアナを捕らえようと窓を割った音がおれの耳に届いたという訳か

 

 「……いやいや、反省して私たちに会いに来たんだよねゼノ君?」

 「違う!此方……いや窓横側!そして伏せろ!」

 二人の聖女は困惑しつつもおれに従って窓近くに寄り……

 同時、突き破られる窓。雪崩れ込んでくるのは……

 

 「昼ぶりか、騎士団の皆様

 聖女様に夜這いをかけるにしては……些か数が多すぎやしないか?」

 って何だ、此処の騎士団か。しかも見覚えがある面子だ。騎士団長等敵となり得る人材が居ない辺り……どちらだろうな?

 

 まあ良い。すぐに分かることだ

 「てめぇ!」

 聖女の姿ではなくおれを見つけて息巻く突入部隊

 「聖女様に何を不埒なことをする気だ!」

 「一応おれ、これでも皇子で聖女様の婚約者なんだがな?」

 いや結婚しないし認められるものでもないのは知っているが

 

 これで時間稼ぎは十分!逃走経路は……空にある!

 「アナ!リリーナ嬢!窓から飛び降りろ!」

 「なっ!?」

 「てめ、この忌み子!」

 「聖女殺し!」

 口々に聞き取れる罵倒。いやマジで酷くないか?

 

 だが、これが作戦。耐えてくれ

 「早く!」

 おれに急かされて、恐る恐る少女等は割れた窓から身を出して……

 

 「確保したか」

 上がってくるのは既に見えていた巨影。羽ばたく飛竜の姿と、上に乗る竜騎兵。ただ団長では無さげだ。現場のリーダーというところか

 

 とすれば、煽ればボロを出させられるな

 そう思いながら、おれは事態を見守る

 飛竜に乗った兵士が聖女を確保すべく窓に近づいて……

 問題ない!だっておれ側に来て廊下を逃げるより、外の方が数倍安全かつ早く終わる!

 

 「アウィルぅぅぅぅっ!」

 おれの言葉に待っていましたとばかり、桜の光が宙を(はし)

 騎獣舎から一直線に、そこに居たからとばかりに飛竜を大地に叩き伏せ、何事かと放たれる矢の全てを纏う雷で焼き払いながら、一角を蒼く輝かせる伝説の幻獣が割れた窓から顔を出す

 「アウィルちゃん!」

 「だから安心だろ、アナ!」

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