蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 桃色少女と怒りの氷像

「アーニャちゃん!?」

 私は突然シロノワール君に腹パンされた上に凍り付けにされた婚約者(仮)を見て困惑した声をあげた

 

 「駄目ですからね、皇子さま?」

 その瞳は何時もは綺麗な蒼なんだけど、何というか光がない。や、ヤンデレさんだよ……

 でもまあ、ヤンデレアーニャちゃんって結構ファン二次創作であったから何となく理解できるんだよね。相手はゼノ君に限るというか、理屈の上では他の攻略対象(頼勇様とか)にもヤンデレそうなものの殆ど無かったんだけどね

 

 そして、氷の中のゼノ君の閉じられた左の瞳に一瞬だけ炎が揺らめくけれど、そのまんま火が消えて完全な氷像になる

 あの日、ユーゴって彼から私を護るために変身?した時みたいに、原作ゲームじゃバグでしか使えない(逆に原作でもバグで使えるんだよね……)轟火の剣(デュランダル)を呼び出して燃えて解凍を考えて、止めたって感じかな?

 アーニャちゃんのせいだって分かってるだろうし、傷つけない理性は残ってたんだってびっくりする

 

 普段のゼノ君って基本誰にも甘くて、財布をスろうとしたら捕まえた後に説教しながら財布の中身の一部をくれるような(バカ)だし……

 いや、どうなのそれ?って尖り方。ファンの中でも賛否両論で良くも悪くも荒れるキャラ。そんなゼノ君があんなに露骨に殺しにかかるって明らか変なんだよね。いや、彼等が悪いのは分かるんだけどさ、ゼノ君の性格なら普通去るものは追わずしない?

 私がやだ!聖女やりたくない!婚約もしない!って今から逃げ出しても仕方ないなって赦してくれそうじゃん?

 いや、許してくれないか。それを許す訳にいかないと強要している代わりにって滅茶苦茶親身になってくれてる訳だし。逆に言えば、世界の命運背負ってる私でも、本来逃げて良いんだって言ってくれるんだよ?それが突然殺意剥き出しに怒るの可笑しくない?

 いくらゼノ君でも、いやゼノ君だからこそ私利私欲の殺人には激怒するんだけど、あの逃げてった人そこまではしてないもん、本当に何でだろ?私にも良く分かんないんだよね

 

 ゲームと別人なら分かるんだけど、ゼノ君はゼノ君過ぎるからさ。万が一別人だとしても、99%くらいはゼノ君なんだもん、何であんなに怒りを露にするのか、本当に不明なんだよね

 

 「いや、ゼノ君大丈夫!?」

 返事はない。ただの氷像のようだ

 「聖女様!」

 って、騎士団の人達が駆け付けてくる

 

 でも、私は曖昧に笑うことしか出来ない。騎士団全員が敵じゃないみたいな発言はゼノ君から聞いたけどさ、じゃあ私達を拐おうとしてるのかどうかって私に判断出来る訳無いじゃん。少なくとも私の居た部屋に突入した人達じゃない、までしか分からないし……エッケハルト君側に行ってた人達なら見分け付かないよ私

 

 救いを求めて氷像を見るけど動く筈もない 

 「いやアーニャちゃんも可笑しくない?何でゼノ君をこんな」

 「皇子さまを止められないから、こうしたんです」

 「いやいやいや、アーニャちゃんゼノ君に恨みでもあるの!?」

 「わたしは、皇子さまの為なら皇子さまの敵にだってなります。わたしの一番の敵は、救われようとしてくれない皇子さま自身ですから」

 うん、否定できない。ゼノ君ルートって、ゼノ君側がおれは君に相応しくないしてるのが問題なシナリオだしね。小説版だとすっごい分かるけど、アーニャちゃん側が一途でどんな苦難でも越えてみせます!な覚悟決めてるから、ゼノ君がデレたら即恋愛としては終わる。それで全四巻(うち最後はゼノ君が前巻ラストでデレた後の決戦)だから……面倒くさくてナンボなんだけどさ

 

 ってそんな事考えてる場合じゃなかった

 「聖女様、ご無事ですか」

 と、馴れ馴れしく近付いてくる騎士団の兵士に手を取られかけ、うっかりびくっと体は避けてしまう

 そりゃ今の私って、元の私と比べてもなお美少女だし、男の人の欲って分かるつもり。だから悪気はないんだろうけど、やっぱりそういった視線を向けられるのは怖い

 

 「う、うん」

 と、周囲に現れた彼等は私の横で凍り付いたゼノ君を見て、ほっと息を吐いた

 「良かった。神の裁きは下ったのですね」

 アーニャちゃんの顔から微笑が消えた

 

 あ、これ……

 「忌み子め。良い様だ」

 「確かに無様だな」

 そんな事言いつつ、ある意味元凶なシロノワール君はそれでもしっかりと自分の黒翼を拡げて私の前に降り立つ

 言動からして、たぶんこれ敵の側だって事なんだろうけど

 

 「さあ、聖女様方、行きましょう」

 「え、何処へ?」

 「テーバイへ、です。分かってくださったのでしょう?

 共に逃げましょう。貴女方は危険にさらされてはいけない」

 ……テーバイって何処だっけ?

 あ、トリトニス湖の向こうにある小さな国の名前だっけ

 

 「行きません」

 「何故ですか、あの忌み子が間違っていると理解してくださったのでは」

 「皇子さまはさっき可笑しかったですけど、貴方達が正しい訳じゃありませんっ!」

 手を握り込み、叫ぶようなアーニャちゃん

 

 うん、私もそう思う

 可笑しなゼノ君みたいに殺意を剥き出しにするのはやりすぎだけど、そもそも街が襲われるからって騎士団の人が真っ先に逃げ出したら駄目じゃない?しかも他国だよ?下手したら売国ものだよ?

 ……一応さ、この帝国ってテーバイともそんな悪くない関係性らしいんだけど……

 

 それでもだよ?前世で考えたら沖縄が大陸の国から狙われてるって聞いて、沖縄知事が沖縄の自衛隊連れて同盟国のアメリカに逃げますって感じで……

 

 いや、駄目じゃん!

 

 「逃げるの?」

 「聖女様の安全の為です」

 じりじりと詰め寄ってくる騎士団員に、ちょっとずつ追い込まれていく

 シロノワール君はまだ動かないし、あの狼は丸まったまま、ゼノ君は凍っていて……

 

 「だ、そうよ」

 凍り付いた空気は、その一言で一挙に解凍された

 嘶きと共に駆け抜けてくる白馬。私も乗せて貰ったことがあるスーパーホースの背には、小柄なエルフと一人の女性の姿

 かっちりとした騎士団服を着た、綺麗な女性。流れる紺の髪が美しいスレンダーな体躯を彩る

 「だ、団長!」

 びくりと震える騎士団員達

 「総員、話は後で聞く。今は聖女様から離れよ」

 ぴしゃりと騎士団長らしき女性に言われ、事態は一発で終わりを告げた

 

 「ということよ」

 どこか誇らしげなノアさんの声を、私はほえーと聞いていた


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