蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

360 / 690
異伝 焔の公子と闇の皇子

「……皇子さま」

 ジェルソファー(水魔法で作ったスライム状のソファー)の上で眠る灰髪の青年を、床の上に布一枚敷いて座り込み心配そうに見つめる銀の聖女

 

 それを見ながら、俺は何て声を掛けようかって悩み続けていた

 騎士団(清流騎士団って言うらしい)の拠点は今は結構がらんとしている。常在の騎士はそんなに多くはなくて、大半は街の住民からなる半自警団という形式だとか

 

 いや国境だろと思うけれど、そんな緩い形式であればこそ友好関係をアピール出来てるのかもしれない。国境を固める軍じゃなく、騎士団という形式の街内部の事件への自警団なら文句は言えないし。友好国の鼻の先に軍置くなは言えても、警察置くなは無理筋

 

 じゃあ裏切られたら?って点は……この世界転移魔法なんか使えたりするバケモン結構居るし、それこそあの魔導船も……

 あった筈だった。まあ、もうないんだけど!何やってんだよゼノ!?俺はすっかり忘れてたぞあの船の事!

 お前覚えてんならちゃんと確保してろよあの空飛ぶ船!細かいところ覚えてるのに肝心なところで使えないなあいつ!

 

 「……それで、どうしてこんな事になってるわけ?」

 眠り続ける忌み子を見下ろして、呆れたようにミニスカートのエルフが肩を竦めた

 「ワタシが宗教は合わないわと現地の騎士団に話を聞いている間に、随分と可笑しな事になっているようね」

 「ノアさん……」

 「そこの灰かぶりの皇子(サンドリヨン)を凍らせて、何がしたかったの?」

 ここで、やっぱりゼノと別れたいんだろ!とかは……流石に言わないって。アナちゃんがそんな理由な訳ないし、軽蔑される

 

 でも、結構不思議だ。アナちゃんってゼノ傷付けるような真似は殆どしない筈なのに

 

 「皇子さま、明らかに様子が可笑しかったんです

 なら、変なものの影響を受けてるんじゃないかって。本来なら……」

 こんこんと眠るゼノの手を取り、きゅっと少女は両の手で握り締める。その指先に、熱い雫が垂れ落ちる

 「わたしだって、こんな事したくないです!優しい魔法で、洗脳でも何でも、皇子さまを狂わせてる何かを解いてあげたいんです!」

 

 ……ごめんアナちゃん。気持ちは分かるけど……って俺は奥歯に言いたいことを挟んでしまって口をつぐむ

 ゼノの奴、【鮮血の気迫】ってスキルがあるからそういう洗脳だのバーサクだのの精神異常には滅法強いんだ。無効じゃないから掛かることはあるけどさ

 「でも、皇子さまにはそうした優しい魔法が効かないから……。酷い手でも止めてあげないと、何時もの皇子さまに戻った時に後悔させちゃいますから」

 「うん、明らかにゼノ君として変だったもんね。あそこまで怒るのは可笑しいよ、何かあったんだと……」

 

 「無いわよ」

 ぴしゃりとした一言

 凍り付けにされていたせいで冷えきった頬に白く儚い指先でちょんと触れながら、紅の瞳のエルフは冷たく告げた

 

 「でも!明らかに怖すぎです!何時もの皇子さまとは完全に別で……」

 怯えるように、銀の聖女は握り締めたゼノの手を優しくソファーに置き、少しだけ距離を取った

 「あんな怖いの、皇子さまじゃ」

 

 「アナタ、それを本気で言ってるなら……」

 エルフの瞳がアナちゃん、そして俺を見る

 「そこの彼の想いに応えてあげた方が多分幸せよ」

 「……え?」

 「話は最低限しか分かってないけれど、一目散に逃げ出す街長等の船を見て、アナタの言う『変な皇子さま』が沈めろと言い出した、で良いのよね?」

 「うん、完全に可笑しかった。私達を襲った兵士にも結構穏和っていうか、脅して止めさせようって感じだったのに、いきなりダークで闇落ちしたーって感じで」 

 「そうです、闇の皇子さまでした

 あんな酷いこと、例え悪い人相手でも、多くの人に酷いことしてないと、絶対に言わない人なのに……」

 

 その言葉に、淡い金髪エルフはそう、と少しだけ耳を垂れさせて呟いた

 「アナタは彼を良く知ると思っていたのだけれど、憧れで眼が曇りすぎてるようね

 悪いことは言わないわ。ワタシは見ていないけれど、想像くらい付く。あの言動が、アナタの言う闇が怖いなら、子供らしい憧れを捨てて、新しい恋に(うつつ)を抜かすことね」

 「なら、ノアさんはその皇子さまが可笑しくないと言うんですか!」

 「ええ。寧ろね、状況を聞いたら灰かぶり皇子(サンドリヨン)なら絶対そう言うわよとしか返せないわ。言わなかったら偽者よ」

 

 その言葉に、アナちゃんは泣きそうな顔になる

 「ノアちゃん!」

 「ミュルクヴィズ先生、よアルトマン辺境伯の子。アナタに馴れ馴れしく呼ばれたくないわ」

 とりつくしまもない正論に、出鼻を挫かれて

 「ミュルクヴィズ先生!アナちゃんにそんな言い方ないだろ!」

 「ワタシは正しいことを教えてあげているだけよ

 アナタなら、ワタシの方に賛同してくれると思うのだけれど?」

 「俺はアナちゃんに幸せになってほしいだけ!特に出来れば俺の手で……とは思ってるけど」

 

 呆れた目線が俺を二方向から見つめる。ってリリーナちゃんまで!?

 

 「違うわよ。アナタなら、彼が可笑しくない事が分かるでしょう?」

 「いやいやいや、原作ゼノ君絶対にあんな言動しないって!四天王級に人を殺してたらまた別だけど、明確な敵でもない相手には優しいよ?逃げても盗みを働いても許してくれるよ?」

 

 俺は……リリーナちゃん達に賛同しきれずに黙り込む

 本当なら、アナちゃんにそうだぞゼノ可笑しいって肯定の言葉を掛けてあげたいんだ。でも……小説版でゼノ側に感情移入してアナちゃん(一人称)の思考が分かるぜニヤニヤ読みをしてきたオタク遠藤隼人としての俺が、いや、何となくそんな言動しないか?って言いたくて口に糊するのを止められない

 

 「そりゃそうだけど、何となくだけどさ、ゼノなら普通に言う気がするんだよな」

 やっと絞り出せたのも、言いたかったのとは逆の言葉

 

 更に俯いて曇るアナちゃんに、慌ててフォロー入れる

 「いや、俺にも理由良く分からないし、そもそもあいつ転生者だから原作と言動違っても仕方ないし」

 ……言ってて苦しい。あいつほぼ性格ゼノそのままだし、ここだけ違うとか無いだろうから

 

 「いやいや、転生は無いって

 それに、私は原作ゲームやっててもゼノ君のあの言動納得いかないよ?」

 その言葉に、エルフは少しだけ嘲るように笑みを浮かべた

 

 「そう。アナタの言うゲームは、随分と優しい世界だったのね」

 「どういうこと!?」

 「簡単よ。竪神少年みたいな相手しか出てこなかったって事でしょう?」

 「頼勇さん?」 

 

 「そうよ。彼の期待に120%返す化け物。後は……あの歳上の皇子達」

 「?」

 リリーナちゃんが理解できずにいらっしゃる。説明して差し上げろ。俺には無理

 

 「本来、彼等への態度がアナタの言う闇の理解の切欠になる筈なのだけれど、アレでは無理もないわね

 でも、アナタは誰にでも甘いと言うけれど、良く知る中にも一人、そうじゃない相手が居るでしょう?」

 「え、誰?」

 聖女は二人して頭を悩ませるが、俺にはそこで分かった

 

 あー、そういう事

 

 「アナタね。本当にそこの彼との恋に目線を向けたら?

 自分で言ったことがあるでしょう?『わたしの敵は救われてくれない皇子さま自身』って。そこで理解してるのだと思ってたわ」

 

 その言葉に、はっと口を抑えるアナちゃん。胸が腕にむにゅっと押し上げられてなんだかえっちで眼福

 「……え、それって」

 

 「簡単なことよ。アナタの言う闇の皇子さまは、何時も自分に向けている想いを他人に向けただけの普段の彼

 アナタや忌々しい事にワタシを含む『護るべき民』ではなく、『民を護る者』への態度に過ぎないのよ」

 少しだけ寂しげに、俺の良く知らないエルフの姫は笑う

 

 「アナタが彼を助けたいと言うならば、最後には必ず彼が立ちはだかるわ

 だからこそあそこまで愚かに、愚直に、利益も後先も無く誰かを助けるの。民を護る義務を端から放棄した塵屑は死ねと自分に言わないために、ああも必死なのよ」

 淡い金髪を揺らし、此処では圧倒的に歳上で、年下にしか見えない少女はソファーに腰掛けると、意識のない青年の頭を抱き寄せて膝上に置いた

 

 「護られる者には甘い。でも、護る側には苛烈な要求をするのよ、彼。そして彼にはこの街の長が……逃げた場合の自分の姿に見えた。ならば死ねと言うわよ、自分に向けて叫ぶように、ね

 それが変で怖いと言うなら、アナタのそれはただの幼い憧れよ。美化した記憶、子供向けの優しいゆめまぼろし。恋にはならないし、追ってもアナタも彼も不幸になるだけの幻想よ

 そんなもの捨てて恋に生きなさい、それが身のためよ」

 

 その言葉に、誰も何も言わなかった

 アナちゃんは唇を噛んで、リリーナちゃんは虚を突かれたように呆け、シロノワールの奴は興味無さげに、それぞれ無言

 

 俺?いや、ゼノのフォローしてもしょうがないし……だからといって、流石に此処でじゃあ俺と新しい恋に生きよう!まで言ったら空気読めなさすぎだし……

 何を言えと!?

 

 あ、一個あった!

 このハーレム野郎が!爆死しろゼノ野郎!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。