蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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決戦、或いは戦力確認

「アナ、リリーナ嬢」

 おれは横に立つ二人の聖女に声をかけた

 

 今は予告の日。アルヴィナの告げた決戦の時の約一刻前。流石にアルヴィナが嘘をつくとはおれは思っていない

 教えてくれた時刻も、日付も、そして方向も

 

 但し戦力についてまでは教えてくれなかった。アルヴィナ自身にとっても不確定要素が入るからだろうか

 アルヴィナ自体と死霊達。流石にナラシンハ等の四天王の影は送り込まれてこないだろうし、魔神王自身が乗り込んでくるとかあったら正に詰みなんだがそれも無いだろう

 原作とは別人な以上不可能とは言いきれないため警戒するに越したことはないが、恐れすぎてもいけない

 

 ワンチャンあるとしたら、カラドリウスの遺体の死霊だろうか。原作でもその辺りはあったしな。最終面の中ボス的な感じで出てきていた

 アルヴィナ……というか今の魔神王が使える戦力を使わない選択肢を取るとも思えないし、ほぼ間違いなく居るだろう。それを切ってくるか否か

 

 「うん、何とか説得はしたよ。したんだけど……」

 小さく下を向くリリーナ嬢。この街に来た時に見た噴水の水が不安げな少女の顔を映し出す

 「やっぱり、全員って訳には行かないよね」

 街に灯る明かりは大幅に目減りした。戦場になるという聖女の言葉を多くが信じた

 だが、消えてはいない。湖から離れ内陸部に避難していった人間が3割。ならばとさも当然のように湖を渡り他国へと向かったのが3割。そして、ここが自分達の故郷だ離れるものか嘘つきめというのが3割。お前らが護るのが筋だろう護れよボケが!と残ったのが……8分ほどか?

 残り2分が火事場泥棒狙いって所。多くの人間が逃げていったんだ、おれ達が魔神族を退けて帰ってくるとして、その前に魔神のせいということで逃げた人々の家に置いていかれた家財道具パクって売り捌きたいって強かというかヤバい思考の持ち主は当然居る。そうした自身の利益しか考えていない存在は、どんな世界にも基本居る

 居ないとしたら聖人しか居ない天国か、或いは自我を持たない徹底管理のディストピアくらいだろう。そしてこの国は、世界はそんな楽園でも地獄でもない。人々の生きる現実だ

 

 「頑張りましょう、皇子さま」

 その言葉におれは頷くが、エッケハルトは何というか、微妙顔

 「ゼノ、何でアナちゃんを危険に晒してまで、こんな場所を護るんだよ」

 「その通りだ、忌み子が。聖女様に命を貼らせるなど」

 聞こえてくる声にはぁ、と溜め息を吐く

 頼勇が別件で遅れるという話はちょっと前に聞いた。機虹騎士団として最大戦力を他に向けなければいけない事態となれば仕方の無いことだ

 

 そして、元々は共闘する予定だったルー姐の皇狼騎士団だが……残念ながら別件で協力できなくなったのだ。流石に、危機的状況に突如天狼が現れて事なきを得たという場所をそのまま放置は出来ないと連絡だけ来た

 うんまぁ、仕方ないと思う。というか、ラインハルトなのかそれとも父親の方なのか知らないけれど結構頑張ってるんだなと思う。積極的に人類の味方してくれて居て頼もしいというか、頼ってしまって情けないというか

 

 ということで、予定の戦力が足りないからこの地の清流騎士団にも協力して貰わなきゃいけない訳なんだが 

 

 あれである

 

 半数が街の長と共に他国に亡命した騎士団、残りも結構アレだ。いや、民から募ったらしいから当然といえば当然なんだが……

 

 「すまない、皇子。幾ら忌み子とはいえ、聖女様方は認めておられるのだからと幾ら言っても」

 「いえ、問題ない団長」

 おれの横で申し訳なさそうなのは、女性の騎士団長。まあ、男女は良い。騎士団長の時点で既におれと同じく上級職、半ば人間止めてるのは確定だからな

 

 「半数が逃げ出して、本当に情けない話だ」 

 「騎士団といえど、雇われた民は半ば護られる側でもある。貴女と騎士の位を持つ者だけでも残ってくれてる時点で過ぎた話だ」

 「あ、それで良いんだ」

 意外そうに呟くのはリリーナ嬢。同意するように頷くアナ

 

 「酷くないか?」

 「いや、ノア先生から聞くに、責任から逃げたからって激怒するんじゃ……」

 ああ、とその言葉に苦笑する。ノア姫ならまあ当然だと何も聞いてこないから、疑問を投げられるのが何だか新鮮だ。ノア姫は……あれで90歳越えてるからな、年の功で色々とおれの本質が見えてるんだろう

 

 「リリーナ嬢。当たり前だが、今回は」

 ちらりとおれは横ですまなそうな若き団長を見る

 「団長等幾らかは残ったものの、この街の一番上の人間が恥も何もなく、戦力を持って売国した訳だ。規範となるべきトップがこれで、どうして下の人々にトップは責任を捨てたがお前は捨てるなと言える?

 それに、うちの機虹騎士団はアイリスとおれと竪神が、『予言通り魔神が封印から蘇る』ことを想定した対魔神族を主目的とした騎士団だ。ルー姐の皇狼騎士団等はどんな相手からも民を護るための皇を冠するものだ。

 でも、此処の清流騎士団の当初の役目に対魔神って入ってないだろ?人々の犯罪を止める為の騎士団に入ったら命懸けで魔神と戦えと言われても、流石に拒否したって良い」

 「じゃあ街の長の人とかは?」

 「何からも街を護る為に居る。予言なんて聞いてないとか今更言って良いものか

 魔神復活の予言の存在を聞き、ナラシンハと戦った竪神がその実在を告げ、聖女が予言の通りに選ばれた。此処まで事態が進行しておいて、対魔神をやる覚悟がないは通らない。とっととやる気ある相手に引き継いで長の役目を降りていなければならない」

 ただ、そういうことなのだ。権利が義務に附随するから、あの逃げ出した阿呆は死ねと言いたいだけ。権力も何もない残りにまで言う気はない

 

 実際、まともに戦う気はないエッケハルトなんかには、特に怒る気無いしなおれ。その事ちゃんと言ってるし、自分は正面からやりあわないけど回収したあの槍とかエクスカリバー寄越せとは言ってこないから別に良いのだ

 

 「あ、そういう……」

 「分かってくれたか、リリーナ嬢?」

 「え、じゃあ私は?」

 「すまない、本来義務はないんだが聖女が逃げると世界が終わるから頼むから手を貸してくれ」

 

 なんてやりとりをしながらも、戦力を数える

 本来居る想定だった中で抜けた大きな戦力としては、頼勇とルー姐。頼勇側は終わったら合流を急いでくれるらしいが……来ると信頼は出来ないか、流石に

 その代わりが現地の清流騎士団の一部となると……

 

 「大体想定した戦力の半分くらいか」

 心配だなおい

 

 「でも、やるしかないか」

 呟くおれの見上げた空に亀裂が走った


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