蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
幾度と無く(ゲームでは)見たひび割れた空。世界の狭間に封じられた魔神族がこの世界に降り立つためのゲート
リアルで見るのは確か3度目か。たまにあるアルヴィナ単独で突っ込んでくるようなパターンだと、死霊術で魂に肉体を仮創して潜り込むような手段が取れるからか空が割れないんだよな。あくまでも本体がやってくるような侵攻の時だけ、空が割れる
だから、ひょこっと一週間前にアルヴィナが姿を見せれたりする訳だ。ただあの時……何を警戒したのか、実は未だに分かっていない
おれが把握しているアルヴィナ的な厄ネタは3つ
1つ、アナの事。何だかんだ仲良くなっていたあの娘から敵意を向けられたくないから逃げた。今のアナ、魔神大嫌いだからな。いや、普通の人間は魔神の事は聖女伝説他で基本嫌いになるものなんだけどさ
1つ、奇跡の野菜。あれ異様に不味い辺り幸せになる粉でも入ってんのかって感じだしな。さりげなく聞いてもリリーナ嬢達は特に体に影響も無いし負の魔法の気配も無いらしいから真偽は不明だが……アウィルは『苦いんじゃよー!』していたし、ノア姫は要らないの一点張りだったからな。真面目に何か変だ
ってか、大々的に魔神の襲来を告知する前に先んじて話を通したら即他国に逃げたあのアホの行動も可笑しい。売国を躊躇無く行う程に駄目な人材……と当初から思われていたら当然ながらとっくの昔にクビだ
父さん辺りもあの行動には激昂するだろうし、下手したら物理的な意味でも首飛んでるぞ。いや、骨すら残らず蒸発するから逆に飛ばないか
つまり、彼は昔はそこまでやらかす人材とは思われてなかった訳だ。それがいきなりあんな逃げるか?しかも財源も結構持ち出して、だ
この事態が終わったら『裁くから引き渡せ』って向こうに通達する案件だぞもう。薬物でもキメたのかって狂いかただ
ってか、魔神云々の直後にこれって本気でどうなってんだこの世界。乙女ゲームの表舞台の綺麗さの裏がドロドロ過ぎる。いや、そこに綺麗な世界に居るべきヒロイン巻き込んでるおれが何言っても仕方ないんだが
まあ良いや。最後の1個がアステール関連だ。アステールの所在、ステラとおれが呼ぶアステールの姿をしたナニモノか……これまた何かを感じる
ってかユーゴの奴、アステールに執着するならそういう時に颯爽と助けに来いよ。おれが撃退しておいて何だが、そんな風に思う
そもそもあれがユーゴのせいなら……そんな事があって欲しくないから一生の別れの言葉として言った再会の約束を果たさなきゃいけなくなるな
どれにしても、だ。逃げる理由は何となく分かる
最初はアルヴィナ自身の問題、真ん中はアルヴィナを怪盗してから対処する噴出した次の問題、最後は……ルー姐の報告しだいか
そう、ルー姐……皇狼騎士団が何処行ったのかというと、聖教国である。天狼出現報告やら魔神の襲来やらを経て、第三皇子を差し出してるからその縁として向かってくれた
ルー姐にはあのステラ……可笑しなアステール擬きについてもそれなりに話してある。皇子だから教皇猊下等とも会える範囲の地位だし、あの人は女の子の扱いが上手いからそれとなくステラから情報を集めてくれる筈だ
……その関係で此方が大変になるが、こうした事を出来そうな人材でおれが縁あるのってルー姐か頼勇くらい。ガイストは大貴族だが重鎮だから変に他国に行けないし、エッケハルトとはアナ関連で対立してるし、シロノワールは魔神王。後は原作並におれの交友関係は寂しいしな
……転生者的にはもっと交友関係拡げて、原作ゲームで起こる不幸とか殴り倒す!の精神で行くべきだったかもしれないが、おれにそんな事出来るか!って話だな
ついでに言えば、原作通りやらなかったせいで酷いことになりかけた被害者が今おれの婚約者(仮)な訳だし、やらかす可能性も高かったからな。原作壊して世界も壊れたら責任取れない
そもそも、原作ほどの太陽の精神を持たない
本当に割れた空を見て、冗談だろと信じていなかった人間達が騒ぎ始める
そうだとも。地震が起こるから長年住んだ家を捨てて逃げろと言われても困るレベルの扱いで留まった人間だって居る。証拠があるといっても信じず、実際に事が起こると大騒ぎ
分かってるさ、そんな人が居るなんて。だから……
「頼んだぞ、ガイスト」
おれは静かにそう言った。ゼルフィードは切り札であり、その巨大な白銀の巡礼者を持つ彼は信頼されやすい。だから逃げ出す者達の誘導を頼んだのだ
頼勇のLI-OHもだが、ゲームでの3ターンほど明確な時間が決まってる訳ではないがやはり機神を起動出来る時間は限られている。だから最後の方の詰めに使うからそれまではと言ってあるのだ
まあ、一応あれでもゼルフィード込みで団長扱いなガイストだ。戦闘力は低くはない。魔神はおれを狙うだろうし、危険はそう無い筈だ。……ユーゴのような化け物が襲来しない限りは
ぶるりと体を震わせるアウィル
ノア姫はエルフ様だ!と何か人気なのでガイストと共に誘導に回って貰っている。終わり次第アミュで駆け付けられる速度を重視して、ついでに聖女という魔神が狙う筈の人間を避難民に近付けないという目的も果たせる
戦力的な話をすれば、ゼルフィード+ガイスト、アウィル、おれ、シロノワール、清流騎士団長くらいの順で強い。特に今のおれ、月花迅雷の鞘が修理中で……持ってきてくれる筈の頼勇が遅れてるから神器無し状態だしな
いや、ゲームではゼノ+月花迅雷は強すぎて他キャラ育たないから今の序盤では他人が持っていてとうぜ……
漸く自分のミスに気が付く
アホかよおれは!?
「アナ、リリーナ嬢。作戦変更だ」
「え?」
こてんと首を傾げる二人に、静かにおれは言う
「聖女様方、怖いとは思うが貴女方にも戦ってもらう」
「え、何で?」
「貴女方のレベルとステータスが……」
ぽん、と少女が手を打った
「そうだよ!普通にゼノ君頑張れーって思ってたけど、ゲームだとある程度聖女のレベル上げてないと詰むじゃん!」
驚愕と少しの焦りを浮かべる桃色聖女に向けて深刻な顔でうなずきを返す
「だからすまない、戦ってもらうぞリリーナ嬢」
本来一番安全に稼げるプロローグ、おれと頼勇とガイストで終わらせたせいでマジでレベル低すぎるんだよな
今まで何やってたんだおれ!?真面目に試練の際にステータス不足で詰むぞこんな後手後手だと!
世界を救うんだろうが!もっとしゃんとしろおれ!
脳内で叫ぶおれの前で、割れた空から雪崩れ込むようにボロ布を纏う骸骨が降ってきた