蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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魅了、或いは最低の手段

「ったく!いい加減に、してくれよ!」

 叫びながら眼前に迫る白桃色の髪の男の右手を左足で蹴り上げ、その手の銃を落とさせようとしながら、おれは叫ぶ

 

 やはりだ。やはり、全く本気じゃない

 振り回される爪を左手に逆手に握った鞘を掲げて受け止め、それ以上の蹴りを諦めて即刻残る右足で後方に飛びながら内心でそう思う

 

 パァン、という音と共に放たれる銃弾を額で受けて頭を仰け反らせ……

 が!そもそもあいつの初期銃の攻撃力なんて95!アイアンゴーレムでも精錬度によっては弾く程度の火力で!舐められたものだ!

 

 ぐいっと顎を引いて体勢を戻し、相手を睨み付ける

 ガチ手加減されてるな。最初に一回魔法を打ってきたが、以降銃と素手での攻撃に止めている。そして何より……

 

 ロダキーニャ本人の戦闘面の強みはその固有スキルにある。メインキャラの固有は他に比べて強いものが多いが、その中でも頼勇やガイストと並んでゲームシステム上別格の強さを誇るのが彼だ。いや、機神召喚系の実質無敵かつ高ステータス状態で暴れられるノーリスクハイリターンっぷりに比べるとハイリスクなんだけどな

 

 「A3!!!でマスカレイドしてこないとは、舐められてるな」

 その独り言に、耳聡いアルヴィナが牙を剥いておれへと突撃する。彼の怪しさを埋めてくれるのだろう……がこっそりハッハと舌を出すな舌を。バレるぞアルヴィナ

 それを刀でいなし、割れた桃の仮面で表情の読めない彼を更に観察

 

 A3!!!。真・一人桃太郎とも言われる彼のぶっ壊れ固有能力。読みはエース・アバター・オールマイティ

 幾多の先祖返りでちゃんぽん状態の亜人の血の力を放出、本人から亜人の特徴が消え一部の能力が消える代わりに犬亜人、猿亜人、雉亜人の三人の自分のアバターを産み出す。それがあの固有スキルだ

 ちなみに、アバターは回復できず、2ターンで消え、何度でも呼べるが消える度に減ってるHPに応じて本体のHP減少、倒されてた場合はそのマップでは再分身出来ない。その辺り倒されても影響無いし第一そうそう倒されるようなステータスでもないし搭乗中本人はほぼ無敵な機神ほどノーリスクではない

 が、だ。アバターに分裂する分個々は弱くなるし出来ない行動も増えるが、総合的に見て8割くらいの強さの4人に分裂する能力がターン制のSRPGで壊れてない筈がない。手数4倍戦力3.2倍だぞ単純に考えて。魔神王すら完全二回行動になるの難易度VH辺りからだってのに

 

 いや、それ言えば今のおれってノーリスクでシロノワールって分身出してるようなものか?持てない筈の神器を持ち分身を使うとかいよいよ非公式改造キャラ染みてきたなおれも

 

 あと、それが出来る理由に合わせ……もう一つ特徴がある。精神異常が効かないのだ

 理由は簡単だ。表に出てきてるロダキーニャ・ルパンという明るく強引な熱血漢という存在自体が、本来の彼の思い描いた理想の英雄(ヒーロー)というアバターだから。本来の彼は、体内から沸き上がる力を抑えられず、結果起こった異形の亜人としての迫害に耐えきれずに心を閉ざした。実質死んでしまった彼の心を守り、代わりに精神の表で彼が助けを願った理想の兄貴分をやっているもう一人の彼……彼の本来の能力の産み出した最初のアバターが、原作で主に関わるロダキーニャだ

 

 だから、原作ゲームの彼には精神状態異常の一切が効かない。理想像に理想から外れた姿なんてそもそも用意されてないからな

 それが、能面のように無言で洗脳されてるとなると……

 

 『グルル、ガウ!』

 観察に夢中なおれを押し倒そうかというように、吠え猛る屍狼が前肢を振り上げて躍りかかる

 が、単なる警告だな。本気なら吠えずに隙をつくだろうしとひょいと横にステップして回避。そのおれの右横を火球が突き抜けていった

 ……髪が焦げた煤けた香りを鼻に嗅いで、背後を一瞬だけ見る

 

 エッケハルトが四つん這いで薄紫の少女に馬乗りされていた。そして、口に咥えた魔法書でおれに向けてもう一度火球を……

 

 「このアホが!もう少し抵抗しろよ!?」

 「アナちゃん振り向いてくれないし!ちょっとこの娘良いかって思ったら……」

 「つけこまれてんじゃねぇよ!?」

 「GoGo!ざこざこおにーさんと一緒にアルにゃんをお助けー」

 「死ねぇゼノ!俺とアナちゃんの未来のために!」

 と、洗脳されたエッケハルトが対おれを想定してか三角帽子を被った魔法使い系にクラスチェンジして向かってくる

 

 「皇子さまを傷つけたら、怒りますからね?」

 そして、そのまま足を氷の鎖に引っ掛けられて頭から派手に転倒した

 「ア、アナちゃんこれは魅了されて……」

 「めっ、です!」

 「ぐふっ!」

 火力重視で詠唱時間のある魔法を使おうとしていたせいか、アナに言われてあっさり沈む炎髪の大貴族

 

 それを、何だか愉快そうに紫の小悪魔は、もう一人の洗脳した攻略対象の鍛え上げられた細いが筋肉質の肩に小ささを生かして座り眺めていた。腹を抑えてけたけたと笑ってすらいる

 

 「つっかえなーい。やーっぱりざこざこおにーさんのほーが、まだわんちゃんとして役に立つよねー」

 言われて発砲。アナに向けて飛んでくる銃弾は軽く切り落とす

 

 これでハッキリした。エッケハルト的に見て魅了の掛かりかたそのものはノア姫の使うものとそう変わりはない。物言わぬ人形にするのではなく、人格や記憶はそのままに言うことを聞かせる

 

 ならば、やはりか、とひとりごちる

 

 「アナ」

 「皇子さま、わたしに出来ることは……」

 心配そうな蒼い瞳に、大丈夫だと真剣な顔で返す。大丈夫な要素なんて無いが、そう言うしかない

 

 「でも」

 「大丈夫、勝ち方は見えた」

 これならば彼の弱さも理解できる。じゃれてくるアルヴィナと共に相手してても楽なんて可笑しいと思っていたんだが……今戦ってるのは、アバターじゃなく洗脳されたロダキーニャの本来の人格だ

 理想の兄貴分のアバターじゃないから、普段閉じ籠って戦わない彼だから、あんなにも滅茶苦茶に弱いしアバター分裂もしてこない

 

 ならば、方針は一つ

 「アナ、何とか向こうで……」

 三人+一頭で抑え込んでいる白獄龍を一瞥

 「リリーナ嬢達を助けてやってくれ」

 「でも、きっとわたしの……というか腕輪の力なら」

 「本当にあいつを何とか出来るのは今はきっと真性異言(ゼノグラシア)だけだ」

 奥歯を噛みながら告げる

 

 これからおれがやるのは人間の屑の手段だ。アナを巻き込みたくないし、おれ自身最低だと思う

 だが、これしか無い。これしか、一気に逆転の目を作る手段は思い付かなかった

 

 「分かりました、頑張ってくださいね……怪我、しないでください」

 じっと見つめる屍狼の前でおれの左手をきゅっと握り、はっと悲しげな表情をするも少女はおれを信じてまた遠くへと駆け出す

 

 そういや、ずっと手袋で左手の指アルヴィナに一本持ってかれたのを誤魔化してたな。触れたときに無いことに気が付かれたか

 ……って暇だからあの時持ってったおれの指を飴玉みたいに舐めて待ってるんじゃねぇよアルヴィナ!?

 

 何処かテンションの維持が出来ずに、それでも最低な行動を起こすべくおれは改めて仮面の攻略対象に向き直る

 

 「……策は?」

 「悲しみを退治するためにどんぶらこと何処か行ってしまったあいつに戻って来てもらうんだよ」

 「は?」

 「なぁ、そうだろ、ロダ兄!」

 わざとゲームでの愛称で、初対面なことを考慮せずにおれは叫ぶ

 

 「えー、わんちゃんに何言ってるのかなー?

 頭おばかさん?」

 からかいを止めない少女が、何処か怪訝そうにする

 

 「あれ?爆発は?」

 「アナが腕輪で解除したが?」

 何かエッケハルトに変な魔法仕掛けてたっぽいが、アナの腕輪の力はそうしたものは完全に消し去れるからな

 ……死霊術も弱めの術で出てきてるあのスケルトン達なら問答無用のワンパンだし、恐らくロダキーニャにも効く

 単純に、ロレーラを抑えてないと魅了を解こうとしても妨害されるし解けても即座にまた魅了され直しかねないからアナに頼りたくないだけ

 

 魅了が解けたとして、表に居るのが彼じゃ駄目なんだ。アバターのロダ兄じゃないと

 

 だからこそ、これから……そっちを呼び起こす。そうすれば、魅了も何も効かなくなる

 本来のロダキーニャを肯定していく彼シナリオからすれば、理想に逃げてすがりつく状態に叩き込むって最低の思考だがな!


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