蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「さぁ、華咲き乱れクライムMAX!ヒーローの出番と行こうじゃないかワンちゃん一号!」
「端っからクライマックスだろそこは!」
「御託は要らねぇ!最初からクライマックスで行くぜ!だろゼノ!?」
いや、ヒーローもののクライマックスって敵の悪行が最大限行われている場面だから罪もMAXなのは間違いないけどな?
というか、こいつ言葉遊びしすぎだろ!?
そんな事を思いながら、ガンスルーされ気味なエッケハルトを置き去りにして駆け出す
「戦法は?」
「くっははははは!快桃乱麻!俺様に任せとけ!」
「それ作戦じゃなくないか!?」
「心配すんな、悪縁は絶つ!御供は御供なりに、自分の縁に集中しなってこった!」
分身して銃弾を霰のようにばら蒔きながらのその言葉に大人しく頷く
悪縁を絶てとは言わない。自由過ぎかと思ったが、やはり彼はおれとアルヴィナの関係性が敵同士を演じているだけと分かっているのだろう。だから、お前の味方だろ?とばかりに気安かった
いや、その事の理解が追い付いていないアルヴィナが面食らってるが……
「屍の皇女、遊びはこれまでだ!」
一人でその屍の鎧に向け予備の刀を振るうことで戯れてるぞとアピール
「ロレっち」
「アルにゃん!」
コクりと頷いたアルヴィナが一声天に吠えると、雑多な屍の軍勢の中から落ちてきたのを見た数体の巨影が立ち上がる
魔物の
「ロダキーニャ!」
死霊だからだろうか、常に繁っている筈の背中の木は枯れ木、角も折れた屍の亀が濁った黄色の瞳を爛々と輝かせて吠える
「ロダ兄でもご主人様でも良いぜワンちゃん一号!そっちの呼び方は本性に取っときな!
んで、俺様を誰だと思ってんだ?そっちはそっちで祭を楽しんでな!」
「いや、真面目にやらないと駄目ですよ!?」
アナ。おれは大真面目に手抜きしてるんで、止めてくれないか正論
でも、そうか
そういやあいつ超万能型だった。普通に基礎ステータス高いから魔法もそこそこ行けるんだよな
ばさりと翼と共に魔法書を……開く素振りを見せた。が、手にしているのは空気
「はーっはっはっ!」
「笑ってんじゃねぇよ!?」
エッケハルトの叫びが空気を振るわせる
うん、そうだな。この世界の魔法って余程の天才でなければ魔法書ありきだけれど、洗脳時に本性の気弱さで強力な魔法書なんて持ってないわな……
「エッケハルト!お前と同じく火属性持ってるから投げてやってくれ」
「結構高いんだけどこれ!?」
「後で返す!」
その言葉に、仕方ないかと炎髪の青年は手持ちの魔法書を一冊天に向けて投げる
それを打ち落とさんとばかりに飛ばされてくる枯れ木の枝と骨
だがそれは、飛び上がった犬耳のアバターの爪に引き裂かれて地に落ち、翼のアバターはしっかりと本をキャッチして改めて開く
「心配御無用!と言いたいがこれも縁、有り難く貸しを一つ返させてもらおうか」
あ、金持ってないなさては。いや、貴族多めの攻略対象の中では一般家庭の出かつ迫害されてたって事で貧乏なのは仕方ないが
「……ちなみに、あと幾つだ?」
「はーっはっはっ!数えられんから決めてない!」
「多すぎだろ流石に!?」
「俺様を誰よりも必要とした以上、最期まで切れる縁でもあるまい!不満はあるか!あるなら聞こう!」
「いや無いけれど」
本当は割とあるが、それを言っても仕方ないのでそう返す
ワンちゃん一号の称号も、この辺りのやり取りも、大体ちょっと向こうのリリーナ嬢(原作ヒロイン)との出会いイベントの筈なんだが!と声を大にして言いたい。なんでおれがそれやってるんだ
「ならば良いだろう!」
と、そんな会話を挟んでいる間にも雉のアバターは既に魔法詠唱を始めている。流石大体何時も平行して四体のアバター動かしてるだけの事はあって余裕綽々だなあいつ。おれはアルヴィナがじゃれてるだけだから喋る余裕が残ってるだけだってのに!
「わんちゃんを、返せ!」
「お前のものでもないな!俺様のものかと言うと怪しいが!
はっは!ワンちゃん0号に返せと言われても、番犬に助けてと言ったのは本性の側!お引き取り願おうか!」
闇で作り出した弓から放たれるロレーラの闇の矢を無造作に猿耳赤毛のアバターがオーラを纏って握りつぶす
「うーっ!」
「お仕置きして分からせてやろうじゃないか、鬼よ!」
「小悪魔は鬼じゃないもーん!」
「小鬼は鬼だ!」
「いやゴブリンは愉快な隣人であって悪じゃないからな!?」
「おっと失礼!そうか、小鬼とは眼前の者達でなくゴブリンの事か!ならば撤回だ!」
うん、悪い奴じゃないんだけど、相手するだけで疲れる
『グォォォッ!』
亀らしからぬ叫びと共に、亀にしては早い速度の噛み付きが犬耳を襲う
が、遅すぎる
「口を開けたな!」
ドゴン、という鈍い音と共に甲羅が破裂した。オーラの弾丸が空いた口から体内に炸裂したのだ
「きゃっ!」
傾ぐ大木からこぼれ落ちる枯れ葉を浴びて悲鳴をあげる小悪魔
そこを、犬の意匠を持つアバターが軽く飛び上がってから首筋を……ではなく腹を狙って蹴りつけた
うん、アバター状態と素と戦闘力に差がありすぎるな。本来、素の状態でも同じことが出来る筈なんだけど……
軽く地面を跳ねながら転がる幼い子供の姿。何となく、虐めている気分になる
アルヴィナが本来の姿+屍の鎧だから絵面がマシなものの、下手したら幼い女の子二人を大の男が二人して……いや五人で殴り倒す事になってたのか……
いや、別に夜行というらしい最後のトリニティに来て欲しい訳じゃないがな!
ひょいと伸びた襤褸を纏う屍の腕に受け止められ、小さくけほっと咳き込むロレーラ
「さて、止めと行こうかワンちゃん一号!」
が、その瞬間
「ロダ兄!」
凍てつく蒼と黒の流星が、集結した二人を凍り付かせた
「ブレイズバーストショット!」
同時、空を舞う雉アバターの魔法が完成して巨亀を焼き払うが……飛び上がった流星、いやトリニティの白獄龍たる巨女がその首筋を氷の爪で掴んだ
「……逃がした、悪い」
ちっとも悪そうじゃない言葉だけのシロノワールの謝罪
……止めきれなかったか。いや、だが、良い
ここで危険なのはアナ達を狙われること。彼を野放しになど出来ないと思わせるだけの時間、稼げただけで十分!
「……あらあら、どうしたのかしらー、ロレーラ。情けない姿ねぇ」
「ざこざこわんちゃんが」
「飼い犬に手を噛まれるなんて、アルちゃん泣くわよー、おねにーさんもびっくりしちゃうし」
そのアルヴィナならすっごい微妙な顔してるぞ。ボク飼い犬に手を噛まれまくってるとでも言いたげに
「もう大丈夫」
「おねにーさん心配なのよー、苦戦してるみたいだし」
でもまあ、と青肌の女性は凍り付いたアバター達を見下ろす
「もう決着は付くかもねー」
「ふっ、そうだな」
意外と素直に、オッドアイの英雄はそれに肯定を返す
分かるだろお前と言いたげな小さなアイコンタクト。ああ、分かるさと諦め悪そうにおれも刀を鞘に収め抜刀の構えを取る
そうだとも。結局のところアバターだ
喉を絞めた雉を掴んだままばさりと翼をはためかせて龍大女が凍った犬耳アバターの頭の上に土足をつける。そしてその頭をぐりぐりと爪先でいたぶるや、アバターはひび割れ……
全ての分身したアバターが同時に消え去る
「……あら?」
突然足場を失い傾ぐ体
そう、アバターなんだから消して出し直せる!
分かるさ!おれだって
「紡ぐは魂の残響
《雪那月華閃》!」
「アバターマスカレイド!さぁまだまだ踊ろうじゃないか、クライマックスを!
一桃両断、二撃決殺、三獣連斬!」