蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「仮称、X……」
もう何でもありかよ、そんな気持ちと共に、眼前に降り立った異形を睨み付ける
明らかな異形の姿。裁きの天使と言われても、これが天使だと?とどうしても思わずには居られない
おれの知る天使なんて始水の家で見せて貰ってた星を護る特撮ヒーローくらいしか無いからそれを基準にしてもって話はあるが、少なくとも一般的な話でも美しい人の姿をして白い翼を生やし、頭に光輪を浮かべた存在の事を指すだろう。似たような外見の力の影ならば遺跡で見たしな
が、眼前のXはそれとは全く違う外見だ。胴から下の無い緑の獅子の頭を、その耳を塞ぐように筋骨隆々とした赤銅色の二つの巨腕が握り締めている。天に向けて突き出したその腕の二の腕辺りから先は無く、肘のあるはずだろう辺りにはおぞましく張り出した眼球。その下辺りを青色の鎖がまるで口を表現するかのように貫いて腕を繋ぎ止め、その鎖の両端は腕を突き抜けると腕の上で光輪のように円を描いて宙に浮いている
だというのに、光輪から生える白い翼だけは、その他のおぞましさとはあまりにも場違いな穢れ一つ無い純白
「先手必勝!」
気圧されている場合か!まずは刃が通るかは未知数ながら隙を作ろうと再度手にした刀を投擲。近付くよりは安全で、そもそも効かないなら予備も何も意味がないから出し惜しみは無し
「良いこと言うぜ!」
それに合わせて、オーラの弾丸が白桃色の青年の持つ銃口から噴き出す
が
「っ!」
その全ては、ついさっき見たものとほぼ同じ蒼き結晶壁に阻まれる
「精霊、障壁……」
どういうことだ!?あれはアガートラーム等のAGXが使うバリアで、だからこそそれと同一のバリアを纏う魔神を同列の……
いや、違う!と頭を振る
詳しくその続編ゲームの設定を知らなかったし、話したがらないオーウェンを脅して問い質さなかったからこその勘違いに漸く思い至る
そう、そもそも認識が逆だったのだ。1km超えの実体剣等の馬鹿みたいな火力兵装を持ちつつ、精霊障壁を使ってこなかったAGX-ANCt-09《ATLUS》。その存在からもう解ってて然るべきだった
あの精霊障壁とは、元々Xとされる生物?の纏う特殊能力!アガートラームのあれは、撃破したXを解析して無理矢理人類が使えるように搭載したものでしかなく、今見えたアレの方がオリジナル!
一手遅れた!効くかどうかなんて、そもそもあんな超兵器を必要とする敵の時点で効くはず無いの一言で済んだ筈!
そんな無駄な検証してる暇があったら、轟火の剣にとっとと頼るべきだった!
始水!
内心で叫ぶが、既にその行動が遅い。獅子頭の天使は、その左腕のみを頭から外すとおれへと向ける
その掌の中には、これまた場違いな瞳を閉じた美しい少女の顔。良く見れば小指のように細い親指と小指だけは指先に更に五本の指が生えていて、指でありつつ腕でもある造形をしており、その腕が掌の美少女顔の前で祈るように組まれ……
同時、鎌首をもたげて見下ろす蛇のように曲げられた残り三本指の先に青光が灯ったかと思うや、三条の光がおれの居る場所へと放たれる
変身の隙もない!何とか恐らく敵と見なして襲われるだろう聖女を護るべくリリーナ嬢の方へと思いっきりバックステップで飛び下がり……
「なっ!?」
最初に大地に激突したビームがそのまま輝く青い結晶と化して残りの二本を吸収して輝き、そのまま二条の光を別々の方向へと解き放つ!
そんな曲がりかたアリかよ!?と悪態をつくが対処の手段はない。放たれる光はおれとアナを狙って空を走り……
「聖女様方!」
突如として響いた声と共に突き飛ばされ、軌道が逸れる
今の今まで何処にも居なかった筈の清流騎士団の兵士達。10人程の名前も知らない彼等が突如として現れ、おれ達を突き飛ばしていた
そうか、アステールを隠すのにも使われていた聖域魔法!ずっと隠れて様子を見ていたのか!
それが分かった瞬間、何とか光の軌道を逸れたおれの眼前で、彼等はビームに呑み込まれた
「馬鹿野郎!何やってる!」
護られる側が、どうして!?
「希望の灯が消えれば、逃げても殺されるだけです」
っ!奥歯を噛み締める
「ですから、どうせ死ぬならば、灯を護って死んだ方が良い」
……おれ、は
そうした者を、皆を、護るために……彼等に生かされてきて、皇族だと、権利を振りかざして……
光を浴びた彼等が溶けていく。体の端から石となり、それが塵となって消えていく。背後の家も何もかも同じように、存在を赦さぬとでも言うかのように、全て塵に還されてゆく
「聖女様を、皆の未来を、ど……う、」
言葉すら言いきれずに、全ては最初から無かったかのように塵の彼方に消し飛ぶ。この場に彼等の存在を残すものはただ、記憶のみ
銀の髪の少女の伸ばした手も何も届かず、彼等は虚空に消えた
「デュランダルぅぅぅっ!」
やりきれない想いと共に全身全霊で叫ぶ。情けないという気持ちも、頼ってばかりな自分への失望も、何もかも燃やしてただ手を伸ばす
護り抜くんだ。せめて、彼等が命をかけて祈った大事なものの事だけでも!制限も何も、知ったことか!
「吠え猛れ!帝国の剣!不滅にして不敗!轟くは勝利の凱歌!」
『
「魔神!」
『剣帝!』
「『スカーレットゼノン!』」
何時ものちょっと大袈裟なポーズを抜きにした、最速の召喚。眼前に現れる赤金の轟剣を掴み、身体を燃やして焔を纏う
痛みも何も、彼等の心に比べればそよ風に同じ!
が
そんなおれを気にも止めず、異形の天使はその腕をくるくると周囲に回して何かを探ると……そのまま白い翼を羽ばたかせて宙に浮かぶ
空からまたあのビームを、と一瞬思うが、そのままおれを飛び越えて何処かへと……
っ!あいつ!
「愚者。文明の否定を優先か」
呟くイケオジの言葉も耳に入らない
「……何事か」
「街から逃げた人々の居場所だ!」
事情を知らないだろうロダ兄に、たった一言で説明がつく。あの異形の天使は、おれ達を無視して弱くて殺しやすい人間が沢山居る場所を襲う気なのだ
「度しがたい愚物。文明否定がそれほど重要か」
より多くの人間を狩る本能に従っているって話か!愚物というよりは、おぞましい怪物だろうそれは!
それを追うか、或いは……召喚者を先に倒すか!
燐光を纏い空を行く天使が風に揺られる
ゼルフィードだ。ガイストがかの天使の前に立つ
ギロリと目が光り、天使が軌道を変える
「愚者」
ああ、だからか。だからAGXと呼ばれるのは人の姿をしている。有人の人々の造り上げた
それはゼルフィードも同じ!人の護り神たれと人の姿をしたゴーレムだから、ガイストと共に優先して標的となる!
「ガイスト!」
「四天王消失!」
「……彼はヤバイ!とりあえず倒そうとせず生き残ることを!」
短いやり取り。厨二っぽい言い回しという仮面すら被れない彼にアドバイスして、彼から掛けてくれた通信を即座に打ち切る
AGXの祈りを愚弄してるとしか思えないユーゴ達へ怒りは湧くが、今は、今だけは関係ない!
「叫べ!轟剣!」
金の焔を身に纏う
「奥義!」
そしてそのまま、轟剣を振りかざし
「絶星灰刃!」
精霊障壁ごと、夜行なる魔神を討つ!
「激!龍!」
が、その寸前、今一度小槌が振られる
「唄え唄えセレナーデ。魂の小夜曲にて、安寧の眠りを」
突如現れるのは、唄う少女。純白の羽を纏い、鎖の光輪を頭にかざし……されど異形の一切の無い、柔らかな夜色のショートボブの幼い女の子
その歌声が響いた瞬間
「衝ォォォッ!」
「無駄だ」
焔の消えたおれの手は、ただ虚空だけを握り締めていた
強制解除だと!?
困惑すらロクロクさせては貰えない。無防備となったおれの腹を、鵺だか何だかだろう獣の脚で夜行が蹴り飛ばす
「んがはっ!」
宙を舞うおれの左肩から、魂で接合されているから意図せず外れる筈の無い翼のマントが地面に滑り落ちた
……始水!
『……わた、の、加護……剥が……
兄さ……そち……注……』
聞こえるのは途切れ途切れの焦り声。だが、向こうに何かあった訳じゃなさげでそこだけは一安心。
吹き飛んだおれの体は、屍を纏う魔神狼の屍肉から突き出す八本の骸骨の腕によって四肢の動きを封じる形で抱き止められた
「……っ!」
「奪いし翼」
男がカラドリウスの翼を拾い上げようと身を屈める
「穢れた手で触れるな」
が、おれの影から飛び出したテネーブル(シロノワール)が翼を掴んで人型となり、間一髪それを防ぐ
「……成程」
くつくつと含み笑いを浮かべる男魔神夜行
「姫様。貴女を救った」
「救ってない」
「ならば、貴女は我がものだ」
……いや違うだろ!
「随分と勝手なことを!」
吼えるのはロダキーニャ、それに頷くリリーナ嬢
が、駄目だ。あいつは……駄目だ
「
小槌が振るわれる
全てを無理矢理解除したあの力か!
響き渡る歌が周囲を振るわせ……
「んぐっ!?」
「あきゃっ!?」
ぷつりと糸が切れたように、エッケハルトとリリーナ嬢の体が傾ぐ
「え、きゃっ!?」
アナの腕が輝き、腕輪が弾き飛ばされるや何処かへと姿を消す
『「……き、気持ち悪いんじゃよ……」』
アウィルも地面を向いてふらふらとしており、頼りには出来そうもない
「っ!そう来るとは、意外にして想定外!」
フォローすべく白桃の青年が四体に分身した瞬間、そのアバター達も掻き消え……
「……仕方がない!」
切り札にしたいのか使わないようにしていた槍から青い精霊障壁を展開してシロノワールが響き渡る音波を防ぐ
が、それだけに留まらず、周囲を取り囲み隙を伺う死霊達すら形を喪って無に還る。アルヴィナの纏う屍の衣も大半が崩れ消えてゆく
ちょっと待て。アナの腕輪って正規所有だろ?それすら引き剥がせるのかよアレ!?
「……終演だ」
静かに槌を胸元に当て、夜行が告げる
が、その瞬間
「ぎゃうーっ!」
アルヴィナが悲鳴をあげて首を振り乱す
その背に、轟雷と共に蒼き一本の刃が突き刺さっていた
……っ!月花迅雷!ということは!
「風王剣!エクス・
轟音と共に天を舞う鋼の隼が一気に上空を駆け抜けるや、そこから小さな一つの影が見える
その男の手にある蒼き結晶剣がほどけて渦を巻き、天空でゼルフィードを追う異形の天使を捉えるや両断、そのまま影はおれの眼前に石畳を派手に砕きながら降り立った
「……竪神!」
「すまない!遅れた!」