蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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血華、或いは投降

「……どう攻める?」

 「どう攻めろと?」

 静かにおれに問い掛ける頼勇相手に首を竦めて返す

 

 「まずは、皇子の武器を」

 「いや、あったとしても今のおれでは意味がない。向こうが気分良く遊んでくれているなら、遊ばせておく!」

 「だが、そのまま奪われたら……」

 

 その言葉をはっ!と笑い飛ばす 

 「恋人を殺された相手が、逃げ帰るかよ!」

 まあ、そもそも味方なんだがな!端から見れば攻撃な左手を腐らせたのも、ちょっと過激ながら知らなかったフリでおれをセレナーデから護るためだ。だからおれの指の骨を口の中で飴玉みたいに転がして舐めるのも……

 いや、指を食べたいから欲しかっただけじゃないよな流石に?

 

 「……相も変わらず、役に立たない」

 夜行の言う通り、呼び出されたXはまた、空を見上げる

 敵視してこない歌姫天使はこの場に留まっているが、直ぐに彼等はやはりおれ達を放って空へと身を踊らせた

 狙うは空のゼルフィード。人の姿をし、人の魂と共にある文明の巨人

 

 再度彼等の腕に光が灯り……

 

 「くっ!L!I!O!H!

 ライッ!オォォォウ!」

 咄嗟の判断。頼勇が鬣の巨神を招来するが……それで勝てる筈もない

 

 が、意味はあった。真っ直ぐにゼルフィードを狙う二体の異形の天使のうち片方が、ゼルフィードと同等の狙うべき敵の存在を関知して頼勇へと向き直り、溜めていたビームを解き放つ

 

 「……すまない、LI-OH」

 緑光と共に、一瞬で胸元の装甲が融解して消滅、コクピットが剥き出しとなった巨神の姿が消えて行く。まさに知っていたとしか言い様のないワンパンだ。中の頼勇もエクスカリバーで精霊障壁を貼らねばそのまま一緒に消し飛んでいたろう

 

 が、そうしなければ、消し飛んでいたのはゼルフィードだ。二体から同時にあんな曲がるビームを撃たれて避けきれるかというと無理だ

 

 「すまない、竪神」

 「いや、仕方の無い事だが……

 やはり、機械の巨神を優先的に狙うか」

 少しだけ悔しげな青年が宙から落ちてくる

 「ならば、彼……アルトマン辺境伯にも」 

 「残念ながら昏睡中だ」

 エッケハルトは何でもそこそこ出来るからな。その才能で有人ゴーレムを作れば良い囮役が出来るんだが……意識がないなら言ってられないし、そもそも一歩間違えば即死する囮なんて本人が嫌がるだろうから無理だ

 その点頼勇は躊躇無く己の機神を使い護りに入ってくれるんだが……そんな受け身な事に切り札を切ってしまったのが痛い

 

 「クソ、せめてLIO-HXさえ」

 「いや、恐らくはアイリス殿下がこの歌の中では持たない」

 唇を噛む。そりゃそうだ。遠隔操作ならゴーレムとの繋がりだって絶たれるかもしれないし、そもそもHXSで頼勇を運ぶためにかなりの時間全力で飛ばさせたろう。それ以上はアイリスに無理をさせ過ぎだ

 

 「シロノワール!」

 「私に頼るな!そもそも槍で防御しなければ私自身がどうなるか」

 キレ気味に影から戻ってきた魔神王もまた、何時もの余裕はない

 夜行相手ならば、アルヴィナへと変な欲を向けているからまともに戦ってくれるだろう。その上でこれなのだから、多分嘘じゃない

 

 「隙を」

 「作れれば、幾らでも戦ってやろう

 まずは隙を産め」

 ごもっとも!そもそも頼勇もそうだが、自身を護るために唯二の切り札を防御に使わなければならない時点で手詰まりなのだ

 

 せめて迅雷抜翔断が撃てるか、或いは轟火の剣が呼べれば話は変わるんだが……

 

 「畜生!」

 歯噛みしても何一つ変わらない。そんなおれを見下す魔神と、見下ろす魔神

 

 始水!

 呼んでも神様な幼馴染の声は返ってこない。神頼みすら不可能

 

 「……分かった、おれの負けだ」

 暫くして、おれは肩を竦めてそう告げた

 最後の手段だ。アルヴィナの温情に賭ける。最低極まるが、おれが負けを認めることでアルヴィナが夜行を止めてくれる大義名分が作れる可能性、これしかない

 

 ゼルフィードのお陰で人々は襲われないが、その分ガイストの精神は削られまくるだろう。もう長くは持たない

 リリーナ嬢とエッケハルトは昏睡して、目覚める気配はなし。アナも腕輪が消えて普通の女の子になった

 

 そして、遠くから響く蹄の音。アミュとノア姫だろう。いざという時に転移で助けてくれる気なんだろうが、今全員で逃げる訳にはいかない。そんな事したら、逃げた民があのXなる天使に皆殺しにされる。せめてリリーナ嬢とアナだけ護る為に転移させるくらいか

 そうして護って、どこまで意味があるかは分からないが……

 

 静かにアルヴィナはおれの言葉を聞き続ける

 「お前が殺したいのはおれなんだろう、屍の皇女。分かった、勝てない

 だから、おれの首で多少見逃せ」

 残った予備の刀を、あっても無くても変わらないからぽいと地面に放り出して、おれは空の右手を振った

 

 「皇子!」

 「止めときな、狼一号」

 「何も私も皇子も知らないだろう君に言われる事では」

 そんなおれを止めようとする頼勇と、彼の肩に手を置いて制するロダ兄

 

 うん、やっぱりアバター状態は完璧過ぎだな、煩い以外は

 「俺様は何も知らない。だが、俺様を呼んだワンちゃんが必死に足掻く一条の光を信じる事くらいは出来るぜ?

 やることは、邪魔じゃなくて、サインを見逃さないことってこった」

 「本当に策があれば、の話だが」

 言いながら、頼勇はなりふり構わず振るか迷うように一度掲げた蒼金の結晶剣を中段に構え直した

 

 「ま、そりゃワンちゃん達を信じる以外無いって事よ」

 「……ああ」

 小さなすれ違いを産みながらも、頼勇は事態を見守るように戻る

 

 「……分かった」

 少し悩む素振りの末に、屍狼はおれの宣言を受け入れる

 

 「駄目です、皇子さ……」

 ギロリと睨む強い瞳に気圧されたように、アナが黙り込む

 「夜行、聞いた?」

 「我が力による勝利」

 その通りだが神経を逆撫でする勝利宣言

 

 基本的にユーゴ&アガートラーム級の防壁貼りながら圧倒的な火力を出せる化け物じゃなければ、魂に後天的に繋がる神器も何も無しで精霊障壁を貫くのは厳しい。特に、おれ達となると防御を重視せず打って出られる中では迅雷抜翔断しか無かった

 恐らくだが、シャーフヴォルならATLUSの召喚を解除され、ルートヴィヒでもスコールを消されて瞬殺されていたろう。円卓の彼等でも相性的に勝てない事が多いような真性異言を相手にする可能性への考慮を、絶対に使えなければならない切り札の確保と温存を怠った

 

 あの少女天使に迅雷抜翔断で傷をつけ歌を止めさせた隙に何とかして夜行を二度殺せば勝てた可能性はある。ユーゴ相手より当初の手持ちで勝ち筋がたった一個だけでもあった分状況としてはマシだったのに、掴めなかった

 

 「……そう」

 「心に、刻むことを」

 馴れ馴れしく狼の首を撫でる男と、それを嫌がるように身を捩らせる魔神の皇女

 「……消して」

 「しかし」

 「処刑はボクが決める。言うことを聞かずに勝手に好き勝手暴れて、ボクが直接殺して死霊にしたい相手や苦しめて最後に殺す相手を先に殺されたら困る」

 ……ああ、そう言ってくれる事に賭けるしか無かった。それでセレナーデが消えた瞬間、シロノワールが槍を叩き込むとかそんな不意討ちしかもう手がない

 

 が、消し去ったのはセレナーデ以外の二体だけ。一番の敵はそのまま歌い続ける

 それではあまり意味がない!クソ、流石に無警戒にはなってくれないか!

 「では、姫様。まずは馬鹿を」

 「最後。思い付く限りの苦しみと後悔の後

 あと、歌が邪魔」

 言いながらも、やはり何もしなければ怪しすぎるので屍を纏う巨躯がおれにゆっくりと近付いてくる。初見に比べれば大分細身だ。まともにやりあっていないから、大半夜行というかセレナーデが歌の力で吹き飛ばしてるっていうのが、何とも言えないが……

 

 そうして、おれの眼前まで来ると、不意にその姿が崩れる

 中から現れるのは、見慣れた人型のアルヴィナ。宣戦布告の日に見た黒いドレス姿よりほんの少しめかしこみ、胸元がもう少し空いて少しだけ起伏のある曲線を描く胸元から生えた花のような結晶体を見せ付けたよそ行きの皇女姿。その両手には、しっかりと抜き身の透き通った蒼い刃を持つ刀が握られていて……

 崩れた屍の衣が巨大な腕となっておれを握り、そうして十字架へと変貌して吊るす

 「ボクの婚約者は本来の姿になれずに殺された

 だから、あの姿じゃなく、よわっちい此方のボクに殺される不名誉をあげる」

 って言うが、やはり瞳に殺意は全く無い。単に人間体になりたかっただけのようだ

 

 残ってるあの斧が背に当たる部分の骨に埋まっていて……痛くないな、全く

 刃溢れ一つ無い刃なのに、全く切れない

 

 ……これ、まさか!?だから原作でも一切情報の無い行方不明扱いだったのか!?

 だが、夜恋曲(セレナーデ)下では意味がないし、何ならそれが無くともおれが担う事なんて不可能だ

 

 ってかおれのアホ!切り落とした巨大竜の腕に貫かれた死骸とその手に残る斧なんて明らかにアレだってのに!

 何とかして担い手を見付けられれば、ワンチャンセレナーデが出てくる前に決着をつけられた!

 

 言っても始まらないミスに、動かせなくなった体を揺する

 「動くな。動くと痛みが走る」

 と、アルヴィナが精一杯冷たそうに告げた

 「警告など」

 「違う、夜行。それが分かっていたとしても目の前で死んでいく者達に苦悩して体をふるわせ、痛め付けられる姿を見たいだけ」

 

 言いながら、アルヴィナは……おれの脇腹に、蒼き愛刀を突き立てた

 あまり痛くはない。こそっと急所にならないように、計算して臓器の隙間を貫いてくる。ゲーム風に言えば、クリティカル出さないようにしてくる感じ

 

 「本当は、こんなつまらない勝ち方したくなかった」

 「……ええ」

 けれどもやはり邪魔と言われてもセレナーデを消さず、夜行はニヤリと笑いを浮かべる

 

 「セレナーデ!」

 その瞬間、男魔神が小槌を振り……

 歌が途切れた瞬間、祈るように手を合わせた幼い少女天使の、歌うために開かれた口に小さな光が産まれる

 

 「ノア姫ぇぇっ!」

 刹那、今やらなきゃいけないという思いにかられて叫ぶ。十字架がびりびりとおれを苛むが、気にしてられるか!

 「……聖女が死ねば、人類の勝ちは無い

 自己犠牲でこっそり残そうとした希望が潰える様を」

 「聖女は護るさ、私にとっても必要だからな」

 放たれる光。異形の天使達のものと同質のビームが、一直線にアナとリリーナ嬢を狙って迸る

 その眼前に立つのはシロノワールと頼勇。セレナーデ相手には一人の障壁では足りないと思ったのだろう、二つの円卓からパクった対X兵器の武器を重ね、二重の精霊障壁がビームを防ぐが……

 

 押されてる!?やはりX以上の火力してるか!

 だが、別に良い!

 「エルフ使いが、荒いのよアナタ!」

 口ではそう言いながらも怒りより任せなさいと言いたげな表情で、愛馬と共に隠れていたエルフの姫が駆け付ける

 そして、狙われた者を連れて……

 

 「……皇子さまを、見棄てたくないです!」

 銀の髪の少女に手を振り払われ、意識の無いリリーナ嬢と二人でその姿は転移して消えた

 もう何かお馴染みな故郷転移。これでそうそう、リリーナ嬢に手出しは出来ない!

 

 「……逃がしたか」

 頼勇が剣を支えに膝を付き、最後にシロノワールがアナの手を掴んで空へと逃げて、何とか被害なくビームをやり過ごす

 が、そう残念そうでもなく夜行は呟く

 「チェックメイト。聖女が死ねば終わりだったが……」

 

 見つけた、一つの隙

 が、昔のおれのように小説版を知らないからアナを聖女と認識していないというそれは、今必要な隙ではない

 「姫様、所詮奴はお花畑と」

 「桃色は馬鹿。間違いない」

 言われてるぞリリーナ嬢

 

 「ならば……」

 その瞬間、誰も動けなかった。唯一動ける魔神王も、アナを護るべく離れていたから

 

 貫く二度目の閃光は、ちょっと忘れ去られ気味であった炎髪の青年の胸を抉り、大輪の血の花すら咲かせず最初から何もそこにはなかったかのように、大きな穴を空けていた

 

 「真性異言(ゼノグラシア)、攻略対象。未来を知り動かす者が消えれば、後は烏合の衆」

 「……っ!エッケハルトぉぉっ!」

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