蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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獅子竜、或いは光獅子

「皇子!アイリス殿下の造りで簡易だがモニターを出す、我慢してくれ」

 「竪神こそ、制御の鍵になってるか……は微妙な月花迅雷の切っ先に気を付けてくれよ?」

 「「当然!」」

 二人して叫び、おれは左手……はもう無いので右手で肩越しに突き刺した愛刀を握りながらくるりと牙の並ぶ前を見据える

 

 「にゃごぉっ!」 

 と、牙の間に猫の声というかアイリスの景気付けの鳴き声と合わせて物理的なモニターが生えてきた。転送技術……LI-OHの装甲だけを転送してその場で修繕するという荒業の応用だろう

 

 そのモニターに映るのは、翼の折れた天使。だが……

 その背の純白の片翼が肥大化する。更には異形の天使Xが彼女の眼前に降り立ったかと思うと、セレナーデは優しくその獅子の額に触れた

 すると、獅子頭の天使の姿は溶け、翼だけが少女のジェネシック・ティアラーの牙に引き裂かれ折れた翼に接合され、そちらも肥大化した。色合いが違う(セレナーデ本来の翼の方が輝きが強い)から完全に治った訳ではないだろうが、下位存在を吸収回復まで出来るとは、一筋縄では……

 

 「吠えろ!GJT-LEX!」

 先制するのはやはり鬣の恐竜神、大地に擦る程の巨椀を振るい、無理矢理に制御した死者の無念、絶望という弋を解き放つ。それで周囲を凍らせ、セレナーデの動きを止める!

 

 「……晶輝・天威無法」

 が、肥大化したのは翼だけではない。天使のあどけない顔も、割と慎ましやかな胸元も、大体ずっと組まれていた手も、全てが青き光に覆われていく 

 一瞬後、其処には明確に内部に祈る少女の姿を確認できる、光そのもので出来た巨獣が顕現していた。背に肥大化したセレナーデのものがそのまま突き出して生えた、神々しさすら感じる有翼の獅子が

 

 パキパキと少女の纏う精霊障壁が凍りついていく。が、光の巨獣には届かない

 「スクラッシュバースト!」

 左右から挟みこまれるように閉じられる巨腕。咆哮と共に振るわれる剛爪。それは凍った障壁を難なく切り裂いて走り、現れたばかりの光獣の足を引き裂いた

 が、本体はその時既に跳躍し攻撃の射線上から逃走を終えている。落とせたのは左後ろ足のみ!

 

 「恋歌」

 同時、獅子の口から放たれるのは最早お馴染みとなったビーム

 それを自身も纏う結晶の精霊障壁で受け止め弾き、巨神は空を舞う獅子を見上げた

 

 「竪神、どう見る?」

 「残り300、どうやらリミットは障壁展開等でも使うらしいな

 そして、残念ながらGJ(ジェネシック)T-LEX(ティーレックス)HXS(ヒュペリオクロス)の合体は無理そうだ。つまり……」

 「飛び回られちゃ時間切れか」

 「時間制限もあり、向こうだけ飛行できる。火力、装甲は十二分に通用すると理解したが、機動力は完敗だな」

 「なら」

 一つだけそれを解決する方法がある気がする

 

 「これが設計図の良く分からないブラックボックスを組み込んだ完成形のGJ(ジェネシック)T(ティアラー)なら、未完成だがGJ(ジェネシック)R(リバレイター)を……」

 おれは唯一それっぽいものは完成している機体の名を挙げる。プテラノドンモチーフのGJX(ジェネシッククロス)の一機、残りのGJL(ルイナー)は試作すら出来ていないが、あいつは……

 

 「駄目だ、今のあの機体では噴き上がる力に耐えきれずに合体してもパーツが粉砕されるだけ、それに……

 皇子!アイリス殿下にこんな絶望の冷気に囲まれろと言うのか?」

 言われてはっとする。そうだ、そこを忘れるな

 

 今は怒りで冷静さを欠いているから耐えられているだけ。こんな無茶合体そう持たない。そんなものに体の弱いアイリスを巻き込んだら下手したら本人が心身共に病む

 

 「すまない。しっかり当てれば勝てる相手に対して、冷静さを欠いていた」

 「ああ、一撃で決める!」

 と、冷静さを取り戻しふと思い出す

 

 「そうだ、竪神。そもそも対抗できるからといって、わざわざセレナーデを相手するより……術者の夜行を!」

 そうだとも。そもそもATLUSのような搭乗型と違い、魔神夜行のあれはセレナーデを召喚しているだけだ。機体を落とさなければ本来の敵に手出しできない(その安全圏から勝手に降りてくれたからユーゴには勝てたわけだが)AGX持ちのような対処なんて、必要ない!

 「了解だ、そして……」

 

 「おーっとっと、させると思ったか?」

 ドゴン、という鈍い音と共にGJT-LEXの右足に激突する何か

 見れば、障壁を纏ったままアナに向けて突貫する夜行相手の肉壁となったロダ兄のアバター達が消えていくのが見えた。本体はというと、アルヴィナに対して激しく輝く銃口を向けている

 

 一見するとアルヴィナを止めてるようだが、あれ花火弾だな。ロダ兄の使うオーラ弾は原作から結構な種類がある(ゲーム内イベントでのみ使えるものが多く、システム上戦闘で使えるのは少ないが)が、その中でも特に派手で特に火力の無い、目立つ事だけを目指した弾だ。必殺の一撃に見せかけて牽制したり派手な音と光を目眩ましにしたり、原作ロダ兄ルートでも活用されていたから良く覚えている

 実際ただの牽制というかポーズなのだろう

 

 が、それで緩んだ速度で、けれどもそれでも人智は超えた鵺の速度で魔神夜行はアナを狙っての突撃を止めない

 「次善策。殺せるものだけでも」

 それを止めたのは……

 「夜行、止まれ」

 

 アナの眼前に降り立った屍狼であった

 「ひ、姫様?」

 思わずといったように障壁を解き、速度を緩めて男の魔神が自身の行く手を阻んだ魔神の皇女を抱き止めた

 「何故」

 「利用価値がある。今はまだ殺さない」

 「されど」

 「劣勢だからこそ、ボクの言うこと無視する奴は要らない」

 静かに吐き捨てるアルヴィナ。が、そんなもの実際は友達を護る方便に過ぎないだろう

 

 「姫さ」

 「悪いが、見逃せる訳がない」

 その背に突き立つ巨爪。魔神夜行がアルヴィナを護りつつと貼ったバリアごと貫いて、魔神を背から串刺しにして行く

 

 「月花迅雷!」

 おれの叫びと共に青い雷が迸り、GJT-LEXは夜行が抱えているアルヴィナの胸元に爪先が引っ掛かったところでがくんとその動きを止めた

 

 「かはっ!?」

 腕の中からするりと抜け出すアルヴィナ。けれども胸元の服は破れ、小さく青い血の流れがなだらかな胸元にも見える

 

 そして……問答無用と引き裂かれる爪に串刺しにされた魔神の体

 「ウギャォオオッ!?」

 そのバラバラになった体がメキメキと音を立てて接合されてゆき……巨大な魔獣鵺となって

 

 「凍てつけ!そして砕けろ!」

 完成する前に咆哮したGJT-LEXの纏う絶望の冷気によって物言わぬ氷像となり、巨大な拳に打たれて粉々に粉砕された

 「皇子、復活を……」

 「いや、どうせ生き返った瞬間尻尾を巻いて逃げ出すだけだ。此処から抵抗してくる事はまず無い」

 一度、魔神夜行は死んだ。真性異言(ゼノグラシア)の常として生き返ってくるだろうが、圧倒的な力を見せ付けられて尚も戦う程、彼に今此処に諦められない何かは無いだろう

 

 強いて言えば可能性があるのはアルヴィナだが、いざとなればさくっと逃げられるだろうアルヴィナを護るために命を懸けるとは思えない。ってか、それならわざわざアルヴィナのピンチを待つとかせず最初から出てきていたろう

 

 となれば……

 というところでがくんと衝撃が走る

 「ラァァァァァァ!」

 唄うセレナーデだ。

 夜行の気配は恐らくもう無い。凍てつく環境下でおれの気配察知なんてどれだけ正確に出来るんだよって話なんだが、それは兎も角粉々にした後蘇って向かってこないところを見るに、逃げたのだろう

 

 お前もうとっくに生き返ってるだろと言われていた彼しかり、普通に蘇ってきたルートヴィヒしかり、そして……アイムールを取り込んで突然復活しながらジェネシック・ティアラーに進化?したエッケハルトしかり、二つの命があるからと生き返ってくるまでにそうタイムラグは無い。ラグらせることは出来るだろうが、そもそも小槌ごと破壊したはずだ

 

 「消えては、くれなかったか」

 「倒すしかないのか」

 「力を与え、下位を呼び出す者はもう居ない。ワンチャン勝手にエネルギー尽きて消えてくれるかどうか」

 「残り160、半分以下になったが……行けるな、皇子?」

 「行けるかって?行くしかないだろう、竪神!」

 そんなおれ達の会話に、光獅子は美しい吠え声で応えた


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