蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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天使、或いは原始

「原始の破壊王……」

 「夜恋曲の天使(セレナーデ)

 おれの声に、ほんの少しだけ少女は寂しげに微笑む

 

 何だろうな、少しだけ雰囲気が変わったか?

 「皇子?」

 「竪神、決めるぞ」

 「そんな顔してないぞ、皇子?本当にそれで良いのか?私は勿論異論はないが」

 冷静に踏み留まってくれる頼勇。その友人の声にそれでもおれは大丈夫と返す

 

 思い出した。この感覚はアドラーだ。あの時は怒りに我を忘れ気味だったから無視していた、その実おれに殺されるために向けられた殺意 

 

 セレナーデが唄う。優しくどこか寂しい歌を。小夜曲、或いは夜恋曲。恋人に向ける(うた)の名を冠する天使の詩は、魂の後付けを解放する恐ろしい力だが、障壁に阻まれGJT-LEXには一切届かない

 

 そうだ。そもそもだ

 「歌とは文化だ、曲とは心だ。人類文明を否定する、反出生論、滅ぶべきだというテーゼ」

 「結構な事だな、皇子」

 「でも、それは……」

 ふっ、と友人は笑った

 

 「セレナーデという名とも、人の姿とも矛盾するか」

 静かにおれは頷く。その間にもチャージを溜め、けれどもまだ溜まりきっていないというように両の翼の間に光輪を産み輝きを湛えたまま、少女天使は光獅子の中で謡い続ける

 

 「……だから、眠らせてやろう。竪神」

 きっと本当は、彼女だって被害者なのだ。文明否定の裁きの天使にしては、敵じゃないから謡うだけで攻撃してこないとか明らかに変だったからな。他のXは即座に弱者達を皆殺しに行こうとし、ゼルフィードという優先度の高い敵に群がっていったというのに

 

 「……ああ、そうだな。終わらせてやろう。還る場所もない、魔神に呼ばれた天使を」

 ギン!と光獅子の瞳が赤くなる。歌が止み、代わりに轟く咆哮をあげて光の獅子がビームを解き放ち……

 自身がそれに突っ込んで光と一体化して突っ込んでくる!

 

 「サンシャイン……」

 迎え撃つは、鬣の恐竜神

 「殿下、力を借りるぞ」 

 召喚されてきた巨大剣をその腕で掴み取る。巨大な腕で漸くバランスの取れる巨剣、ダイライオウ用の剣だ

 それを握りエネルギーを巡らせるや剣はひび割れて力を吹き出すが、その吹き出す力が炎と代わり、更にはそれを内部に閉じ込めるように冷気が氷となって覆い尽くす。一回り大きな氷炎の剣。それは何処か弧を描いていた

 

 「一瞬託す、モーションリンクがあるから魂で動かしてくれ。魂を貫く月の刃を」

 「ああ!」

 突然、おれの意識がバグる

 動く。とてつもない寒気で凍えそうな感覚だが、全てをぶち壊してしまいたくなるが、まだ行ける、おれはおれだ。この右手にある愛刀の感覚がおれをおれに繋ぎ止める

 

 これが、モーションリンク。機体とダイレクトに繋がるということ

 ……ん?忌み子に効かない魔法じゃないのかそれ?いや、AGXシリーズのシステム幾らか搭載しているのがLI-OHだし、ナノマシンでリンクさせてるから魔法じゃなくて科学とかそんな理由か?

 

 雷光となって突撃してくる光獅子に対しておれは託されたGJT-LEXの持つ剣を静かに構えた

 魂で振るう刃、だからこそ……

 

 「スパーク」

 「雪那超月禍」

 氷炎の刃は、光を横に両断した

 

 「……あり、がと……」

 光の獅子が消えて行く。後に残るのは片翼片胸の天使の残骸。血は無く、切り口からは光だけが漏れ……

 

 「自分の勇気を信じて、『覇灰皇(はかいおう)の見た、光』」

 「破壊王……」

 頼勇の声が繰り返すが、何となくニュアンスが違う気がする。いや、何がとは具体的に言えないんだけれども、『破壊』じゃ無いのでは?

 そうして、戦いを引っ掻き回した夜行の遺した全ては、結晶として砕けて消えていく

 

 「……待ってくれ、セレナーデ

 なら、おれたちの最後の敵は……」

 「『覇灰の力』を振るう、者……

 役目の、もうな、」

 完全に砕け、セレナーデはこの場から消え去った

 

 「……すまない皇子、LI-OH側が限界だ」

 同時、強制的に転移させられたのか鬣の機神が虚空に消え、即座に元の恐竜型に戻ったジェネシック・ティアラーの口からおれは放り出された

 そのまま、機械恐竜も元のエッケハルトに戻りながら空中10mくらいから自由落下して…… 

 

 ぼすん、とおれの体は小さな屍狼に受け止められた

 「ぐげっ!?受け止めてくれよアナちゃん!?」

 そして、横で誰も受け止めてくれなかったエッケハルトがおー痛いと悲鳴をあげていた

 「無理ですわたしじゃ痛くて止められないですよ!?」

 「いやお胸に二つの大きくて包容力のあるクッショ……」

 

 「おい、怒られるぞエッケハルト」

 「ご、ごめん」

 衣服が燃えて半裸の彼は割と素直だった

 

 「って待てよゼノ!」

 噛み付くエッケハルト

 「まだ終わっていない」

 降りてきた頼勇も鋭くエクスカリバー……ではなく何時ものエンジンブレードを構えていて

 「屍の皇女!」 

 

 そんな怒号を受けたアルヴィナはというと、おれを背負ったまま纏った屍衣の骸骨腕に持たせた虹色の旗をぱたぱたと振っていた

 「……何やってるんだアルヴィナ?」

 「降伏宣言。秩序色の旗」

 ああ、確かに良く見れば七大天の7色だ。だが……

 

 「アルヴィナ、人間の降伏宣言は黒旗だ」

 光はないという意味だとか。自分の紋章とか入った旗を黒く染めるとなお良し。夜は見えない?そんなもの幾らでも魔法で照らせるだろうという話らしいな

 「塗ってくる」

 「いや待てゼノ!?」

 「お、皇子さま、突然どうしたんですか?」

 と、心配そうに駆け寄ってきたアナが、駄目だと頼勇に左手で制されて止まる

 

 「どうかしたか?」

 「皇子」

 『overdrive』

 すっと構えられる起動したエンジンブレード

 

 「アルヴィナ個人はそもそもおれの味方だ。この戦い以前からずっと

 もうおれたちに敵意はないし、素直に従ってくれる」

 もう良いかと真実を告げる

 だが、その言葉はアルヴィナが連れてきたトリニティ相手の後、あまりにも今更すぎた

 「信じられると思うか?」

 「そうです、彼女等は世界を滅ぼして、皆を殺す魔神なんですよ!?」

 「見ろよゼノ!突然俺の手に収まったアイムールを!聖女伝説に出てくる持ち主を殺して封印してたのが、俺に魔神を倒してくれって訴えてきた証拠じゃないか!」

 

 口々に言われ、アルヴィナが少し縮こまる

 「私の故郷を崩壊させた四天王、『砕崖』のナラシンハをこの世界に送り込んだのは屍の皇女だ

 そんな相手が、味方?骨董無形な夢は眠ってから言ってくれないか」

 そうして、何度もおれと共に戦った刃は遂におれに向けて突き付けられた

 

 針の筵にシロノワールに目を向けるも、彼は何も言わない。翼を軽く拡げおれに護れと無言で脅しをかけてくるだけだ

 ならとアウィルを見れば、アウィルフォロー出来ないんじゃよ?とばかりに丸まって我関せずモード。ロダ兄はというと、縁のまだ無い俺様が何言っても説得力無いってのと今回は役に立たない

 

 …………助けてくれノア姫とリリーナ嬢!




ちなみにですが、最初の破壊王は覇灰皇と同じはかいおう読みですが、此方はGJT-LEXの事なので破壊の王で正解です。
覇灰皇というのはGJT-LEXではなく、総てを覇し灰へと還そうとした法の皇、セレナーデ等の持つ文明否定の大元の力を産み出した存在の事です。

まあ、ぶっちゃけた話をすると、そんな彼、覇灰皇『窮聖守』のミトラは今作のラスボス……ではありません。彼自身は寧ろ心ある命が大好きだからこそ、負の想いが強すぎて苦しむ人々を救うために総てを終わらせて苦しみである生と文明から解き放とうとした神です。
その為、覇灰皇という単語はぶっちゃけ忘れても問題ありません。その力を持つものはラスボス格として出てきますが……

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